第23話 ギルドと日常
「凄いな、数少ない英雄級の冒険者か。で、その英雄級って誰?」
「あ、はい。ナギアさんとラベルトさんのパーティです」
エルサ曰く。
ナギアは女性だが、漆黒、と言われ、アースドラゴンの黒い鱗から作られた国宝級の鎧を身に纏い、伝説級の魔剣を持つ。
ラベルトはナギアと修行時代からの同僚で、鉄壁と呼ばれアダマンタイトの青白い鎧を身に纏い、オリハルコンソードと言う国宝級の剣を持つ。
ナギアとラベルトは、勇者級まではいかないものの、世界屈指の強さをもち、二人は同等の強さがある。
ただそれは、建前で実際は勇者をも凌駕しているらしい。
いつもは単独行動が多く、誰ともパーティは組まない。
唯一の例外は、お互いに背中を任せられると言う、この二人パーティ。
ただしラベルトは、他とも組む、と言うが誰からも声が掛からないのが現状。
聞いていたルドルもS級なのだが、二人の事は詳しくは知らない。
「その強さは折り紙つきかぁ。一度見て見たいものだな」
ロンダも肯定した。
「俺達が躊躇した依頼を、短期間な上こうも簡単に倒してくるなんて凄いと思う。上には上がいるんだよな」
ルドルが思い出したように話す。
「あ、少し思い出したよ。ナギアって結婚して旦那と子供がいるんだよな。エルサ、引退したって聞いたけど、話せる範囲で構わないから教えてくれないか?」
「あ、はい。結婚して一度冒険者を引退したのですが、子供が親離れしたのを機会に再復帰されたと聞いています」
「その子供は?」
「今はご主人が育てている、と」
「フーン、で、ラベルトは?」
「はい、ラベルトさんは自由に、好き勝手に順風満帆のようです」
「へぇ、俺達と同じだ。ハハハ」
ルドルとロンダは顔を見合わせ苦笑いした。
更にルドルがエルサに聞いてみた。
「なあエルサ。その二人はまたギルドに来るのか?」
「いえ、依頼完了を報告しましたから、新しい依頼を受けない限りは来ない、かと思います」
「そうか、一目見たいと思ったんだけどな。残念」
そう言いながらルドルとロンダは、二人して髪を掻き上げ、他の依頼を見に戻った。
ロンダが依頼を見ながら小声で話す。
「ラベルトとレイルならどちらが強いと思う?」
「うーん。レイルは確かに逸脱した強さだけれど、実際のラベルトを見た事が無いから正直――わからん」
「じゃあ、ミャウとナギアだったら?」
「俺達がフルボッコされたのは事実だし、ミャウも相当強いのはわかる。だがナギアの戦闘力も知らないのに答えられる訳ないだろ」
「そうだよな、英雄級、とはどのくらいの力量があるのだろうか」
「ま、いつか期会が来るのを待つしかないな」
「よし、次の依頼はどれにしようか」
そして依頼を検討し、数日間の休息に入る結論に至った。
翌日の朝。
ロンダは眼を覚ましベッドの上で一つ伸びをする。
「うーん。討伐から帰ったばかりだけど、少しの疲労も無いな」
立ち上がり、両開きの窓を開ければ、そこは二階の部屋で、街道を行きかう人達が見られた。
ロンダとルドルはの実家は、同じウイルシア王国内にあるのだが、冒険者を始めてすぐに一人立ちして、賃貸の部屋を借りて暮らしている。
報酬で資金は潤ってはいるが、節約家なのか普通の可も無く不可も無い、そう、ありふれた部屋だった。
窓から眺めてすぐに、取り巻きの女性達が下に集まってくる。
毎回毎回、何処で情報を得ているのかは定かではないが、少し恐怖を感じるようなロンダだであった。
そんな事は気にも留めず、お構いなしの女性達。
「ロンダ様、おはようございまーす」
「キャー、ロンダ様―、今日も同行しまーす」
「今日はどちらへ行かれますかー」
ロンダは茶髪を掻き上げ、爽やかな笑顔を振りまいた。
「少ししたら下に行くよ」
「キャー、待ってまーす」
「いつまでも待ちますよー」
これはいつもの光景で、周辺の人達からは、またか、程度にしか見られていないのである。
もう一つ、ロンダは決め事がある。
それは、女性を自身の部屋には絶対に入れない。入れると決めた時は、その人を嫁にする覚悟を持っていた。
なので、街中で遊ぶ女性達とは食事に行ったり散策したり、と決して手を出すつもりも無く、事実一度も手を出した事が無かった。
だから多数の女性達は、いつかは私だけ、と意気込んでいる。
仲のいい女、仲間のようで幾つかのルールがあるようだが、簡単に言えば、ロンダの取りあいだ。
ルドルも全くの同様で、二街区離れた場所に賃貸の二階部屋に住んでいて、同じ時間にその場所で同じ事が起こっているのは周知の事実である。
ロンダもルドルも、一人では持て余して面倒になるから、と、いつの頃からか暗黙の了解で二人は一緒に行動している。
廻りから見れば、ただの色男が女性をはべらしているだけにしか見えないのも事実であった。
それを見ている男達は、いつも羨ましい眼を向けていたが、二人にとっては関係ない話。
こうして一日が始まり、いつものように行動する二人。
◇
屋敷の中で、身支度しているレイル。
装備を身に付け背中には大き目の背負い袋。
その中はまだまだ余裕がある。いや、何も入っていない。
玄関まで行けば、装備したミャウが待っていて、その背中にも余裕のある背負い袋があった。
ミャウの、装備、と言うほどでもないが、いつものメイド服よりもスマートになっていて、動きやすそうな服装だ。
もちろんメイド服ではあるが。
そして腰には、伝説級の剣、ドラゴンキラーを身に付けていた。
姿勢正しく待っていたミャウは、レイルを視認し綺麗な一礼をする。
「レイル様、準備が整っています」
「うん、じゃ、出かけようか」
「はい」
外に出れば、察知していたのか、匂いを嗅ぎつけて来たのか、スランとへび姫が眼の前で待っていた。
ミャウは、「チッ」と眉間にしわを寄せ睨んだが、レイルに止められているので何も干渉はしない。
それを知っているスランは、笑顔を出し、触手を左右から二本上げて、左右に小さく揺らしてしている。
「あるじー、行ってらっしゃーい」
レイルがスランの体を撫でれば体を、フルフル、と嬉しそうに揺らす。
「うん、行ってくるよ、スラン」
次にへび姫は、レイルに優しくとぐろを巻き、チロチロ、と顔を舐める。
「行くのかの。ん? 気を付けての。ん?」
「ああ、わかった、へび姫」
ミャウは何が気に入らないのか、イラッ、としている雰囲気が重々しく伝わってくる。
ある種の威圧を掛けているようにも見えた。
「レイル様、出立の時間です」
「あ、うん、わかった。それじゃ行ってくる」
スランは片方の触手だけ振る。
「あるじー、行ってらっしゃーい。ミャウさんもねー」
へび姫も、ここは上半身の可愛い女性化し、屈託のない笑顔で手を振る。
「レイル、妾は待っているがの。ん?」
「大袈裟だよ、へび姫。いつもの事だろ?」
「そうだがの。ん? ミャウも気を付けての」
「スランやへび姫に言われなくても、重々承知しています。チッ」
「屋敷は任せるよ」
「はーい」
「任せるがいいの。ん?」
レイルとミャウは、スランとへび姫に見送られ出立した。
森の中に入り、山を回り込むように進み、山の裏手まで行けば、屋敷の正面と同じような岩肌の急斜面が見えてきた。
レイルと並んでいるミャウが、森と急斜面との境界に立ち山々を眼下に見下ろす。
「さて、行こうか」
「はい」
レイルとミャウは、一歩を力強く蹴りだし、空に向かって飛ぶように飛び降りた。




