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第22話 日常と依頼

 屋敷周辺の広大な森は、スランとへび姫の縄張りになっているので、魔物などいないに等しい。

 なのでレイルも安心して毎日熟睡している。

 その夜、暗い森の中からへび姫が、上半身を白髪の可愛い女性に変化して現れ、音も無く滑るように、更に気配遮断を最大限に引き上げて玄関の前まで来る。

 真剣な表情をしたへび姫は、おもむろに手を伸ばし、魔法なのか無音でノブを回し、扉を開く。

 そのまま静かに素早く屋敷の中に入り無音で閉めた。

 後は自身の家のように知っているが如く、向かうは勿論レイルの部屋だ。

 扉の前で、先ほどと同じように繰り返し、無音で部屋に入れば、女性化を解くへび姫。

 シズシズ、と言った方かいいのか、イソイソ、と言った方がいいのか、嬉しそうに尻尾の先をフルフルさせて、レイルの眠っているベッドに静かに潜り込み、優しく、愛おしむようにとぐろを巻き、位置が馴染んだのか幸せそうに眼を閉じ一緒に眠り始める。

 レイルは、一部始終を察知していたが、へび姫のする事なので、気にも留めずに眠り直すこととなる。

 寝ながらとぐろを巻かれ、見た目は苦しそうだが、レイルも気持ちよさそうに眠っているので、そうでもないのだろう。


 日が登り始めようとしている朝。


 いつもであれば、日も登らない薄暗い早朝に、へび姫だけが起き上がり、レイルの顔を、チロチロ舐めてから無音で屋敷を出て森に帰るのだが、余程気持ちがいいのか嬉しいからなのか、時折寝坊する。

 そんな時は、へび姫も油断し微弱ながら気配が漏れるのは必然なのか。

 そうなれば、部屋は違えど離れていても、ミャウも察知しているのかすぐに行動に移し、部屋の扉を軽く叩けば、すぐに入って来る。


「おはようございます、レイル様」


 綺麗な一礼し、へび姫を視認すると、やはり、といった表情で眉間にしわを寄せ、美しい冷たい眼を更に細め、睨むミャウ。


「チッ、またへび姫ですか。駄蛇ごときが」


 歩み寄るミャウに、とぐろを解いたへび姫が顔をもたげる。


「おはようだの、ミャウ。ん? いい朝だの。ん?」


 ミャウは、ツカツカ、と歩み寄り無言で尻尾の先を掴み、勢いよく引っ張り出し、その反動で豪快に壁に叩きつけた。


「んぎゃ! か弱い妾に酷いの。ん?」

「誰がか弱いのですか? どの口がほざいているのですか?」

「ミャウよりは、か弱いと思うのだがの。ん? 違うのかの。ん?」


 へび姫の発したその一言で、起きてはいたが、眼を瞑っていたレイルがつぼった。


「アハハハ。確かにへび姫は、ミャウよりか弱いよ。ハハハ」


 レイルの一言に、思わず顔が赤くなるミャウ。それはそれでとても美しく、可愛さ、可憐さもうかがえるが、その表情は激怒というより、単純に恥ずかしかったのだろう。


「レ、レイル様……」


 こうなれば気配遮断も無音も必要なく、赤面しているミャウを余所に、へび姫は変化し扉を開け、普通に部屋を出て行く。


「おはようレイル。ん? また後での。ん?」

「ああ、おはよう、へび姫」


 扉が閉まり、レイルはまだ赤面して立っているミャウを見る。


「おはよう、ミャウ」


 恥ずかしさのあまり固まって、うつむいていたミャウ。

 レイルに対してだけ、レイルに対してだけは美しく優しい女性に変貌し始めているようだ。


「酷いです、レイル様」

「大丈夫。ミャウが強いのは知っているし、いつも綺麗だし、いい女性だよ」

「ではわたくしが、駄蛇の代わりをしましょう!」

「あー、ミャウ、脱がない。 脱がないの! ストーップ!」

「わたくし如き、いつでも差し上げますが」

「だから、それはやめて」

「わたくしでは役不足。物足りない。と」

「違うってば。それは止めようね。いいからいいから。あ、そうそう、朝食じゃなのか?」


 思い出したようなミャウは姿勢を正し、両手を前に組んだ。


「失礼しました、レイル様。朝食の準備が整っています」

「了解、今行くよ」


 ミャウは一礼して部屋を出て行った。

 扉が閉まった後レイルは、いつもへび姫が投げ飛ばされ、叩きつけられている壁を見る。


「へび姫は武装硬化しているから何ともないだろうけど、この壁も負けず劣らず頑丈だよな。ルードさんの強化魔法とかが、また効果を発揮している。とか」


 レイルはその壁を触っていたが、ミャウを待たせてはいけない、と思い出したように食堂に向かった。



 家畜を狙うグリフォンを討伐する依頼を受けたロンダとルドルは、日も沈みかけた草原に立っている。

 二人の眼の先には、数体のグリフォンが、山の向こうからこっちに向かって飛来して来るのを、既に確認していた。

 ロンダが武器屋で大人買いし、レイルに教わった投げ針を取り出すと、笑顔になる。

 中距離戦の武器が出来て嬉しいのだろう。


「フフ。さて、やるか」

「ああ、まずは俺からだな」


 ルドルが弓の弦を大きく引き、ワイバーン討伐の時と同じく、光、炎、雷の矢を連射して放つ。

 グリフォンは、攻撃されるとは思っていなかったのか、あっさり三体に突き刺さり、爆音と共に豪快に爆ぜた。

 本来、ワイバーンの上位種であるグリフォンを一撃で倒すことなど困難、皆無に等しい。

 だが、一つ違った事は、屋敷での鍛錬で、身体向上に伴って魔法力も格段に向上していたので威力が跳ねあがっていたのだ。

 グリフォンは煙を濛々と立てながら力なく落下する。

 グリフォンもワイバーンと同じ行動を起こし、威圧する咆哮を上げながら広く散開して攻撃してくる。

 だがしかし、身体向上、能力向上している二人は不規則に飛び回るグリフォンの行動が手に取るように読め、ロンダも冷静に投げ針を力強く放てば、一直線にグリフォンに突き刺さり、やはり成果が表れ、豪快に爆ぜた。

 こうして二人は、一体また一体と確実に倒していく。

 グリフォンの攻撃は、鋭い爪、牙の他、ファイヤボール、ウインドカッターなどがあったが、人外の域に達している二人にとっては、普通に受け、避け、受け流し、その隙に矢と投げ針で撃ち落としている。

 投げ針や矢が当たったが、致命傷にはならず地面でもがいている飛べなくなって息のあるグリフォンは、咆哮を上げ威嚇してきたが簡単に順調に切り飛ばし、そして依頼を無事完了。

 ルドルは片手で青髪を掻き上げ、倒したグリフォンを眺めながら話す。


「やはり俺達……人外に近い思うんだけどロンダはどう思う?」

「ああ、今回はつくづく実感したよ。ワイバーン討伐より困難な依頼を、前回以下の力でこなしているのだからな」

「それに、矢の威力も格段に上がっているし、ワイバーンの上位種であるグリフォンさえ、こうも簡単に倒せるなんてな」

「それは俺も肯定するよ。レイルに教えてもらった投げ針の威力も、一撃で倒せる程に、以前とは別物になっているしな」

「いいんだか悪いんだか。どっちにしてもレイルとその仲間たちに感謝しようか。ハハハ」

「ハハハ、本当だよ。まだ完全に実感してはいないけど、これは凄い事だよ」


 完了した二人は、その足でギルドに帰還する。


 ロンダが完了を報告しに受付に行く中、ルドルが掲示板を見とすぐに驚いた表情になる。


「え? エルダーリッチの依頼が無い。俺達がグリフォンの依頼を受けている間に誰かが受けて完了したのか?」


 報告が終わったロンダが、掲示板を見つめているルドルに歩み寄り話す。


「おい、今回の報酬は破格だったよ。ん? ルドル、どうした?」


 ルドルは掲示板のエルダーリッチの討伐依頼が貼られてあった場所を指差す。


「エルダーリッチの討伐依頼が無くなっているんだ」

「あ、本当だ。あの依頼を誰が受けたんだ?」


 二人は受付のエルサに歩み寄り、カウンター越しで肩肘を付き爽やかな笑顔で聞いた。


「なあエルサ。掲示板に貼ってあった、エルダーリッチの討伐依頼を受けた冒険者は誰かな」


 エルサは可愛い笑顔から不敵な笑みに変わった。


「フフッ、すみません。守秘義務がありまして……レイルさんの実家……」


 ロンダが話し途中で言い返す。


「なあエルサ。完了した依頼内容は公開するのが義務だろ?」


 エルサは下を向き、苦虫を噛んだような表情になる。


「チッ、知っていましたか」


 が、そこは受付嬢、すぐに切りかえし可愛い笑顔でロンダを見る。


「あ、失礼しました。エルダーリッチの討伐完了ですね。この依頼を受けた冒険者は、英雄級の二人が受け、怪我も無く、無事に完了しました」

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