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第21話 帰還

 現在、両手両足を広げ、下から来る風圧を受けながら落下している三人。

 そして森の境界の手前に、仲良く並んで落ちて来た三人が、ドゴンッ、と凄まじい音を立て、蟹股で両足から着地して、土煙が巻き上がる。

 三人とも地面に足をめり込ませていたが、鍛錬のお陰なのか無傷のうえ痛みも無かったようだ。

 足を引き抜いているロンダが不思議に思った顔をしている。


「え? 足はめり込んではいるけど、痛みもないし……これも鍛錬の成果か?」

「ん。そうだと思う」


 ルドルもめり込んでいる足を、簡単に引き抜いている。


「これもレベルアップしている証拠なのだろうな。いや、凄い事だよ」


 土埃の付いた肩や膝を叩いているレイルは無表情だが嬉しいのだろう。


「楽しかった、また遊びに来てよ」


 ロンダとルドルは一度顔を見合わせ、レイルに振り向く時は二人とも髪をかき揚げ苦笑いになる。


「ハハハ。正直、この山はもう登りたくないな。いい鍛錬だったけど、実はさ、桁違いな苦しい生活の毎日でコリゴリしているよ」

「俺も勘弁してくれ。向上したのはありがたかったけど、厳しすぎたよ。屋敷で生活していたから鍛錬が続いたけど、今思い出せば、俺も二度と登りたくないな。ハハハ」

「ん、そう。いいけど」

「今度は俺の家にも来いよ、歓迎する」

「そうそう、気にする事も無いし、気軽に俺の家にも来てくれよ」

「ん、わかった」


 レイルが次の森の上空を見る。


「この勢いで森も飛べばすぐに帰れるよ」


 簡単に言われたロンダとルドルは、引きつった笑顔になったが、今度は躊躇しないでレイルに言われた通りに、空に向かって力強く蹴りだし、宙に舞うように飛び降りて帰って行った。

 見送ったレイルは踵を返し、今度は一気に急斜面の山を駆け上って屋敷に帰ることとなる。

 気にする様子もないレイルにとって、これもまた、鍛錬なのだろう。



 レイルと別れ、森を越えたあたりに、轟音と地響き、そして土煙を上げて無事着地したロンダとルドル。

 またも地面にめり込んだ足を引き抜く。


「なあルドル。俺達ってレイルやミャウ程じゃないけど、人外になっていないか?」

「今俺もそう思っていたんだ。この高さを二っ跳びでここまで帰ってくるって、尋常では無く、正しく異常だよな」

「こんな事したら普通なら、良くても両足骨折だろ」

「でも現実は何事も無く、何も起きない、だろ?」

「ハハハ、レイルの言った通りだな」

「レイルとその仲間に感謝しよう。ハハハ」


 街道に出た二人は、歩き始める。

 だがしかし、出立するときよりも歩く速度が上がり、歩幅も広くなっていたので、常人が走っている速度になっている事に気が付いていない。

 ウイルシアン王国まで、あと一つの山に差し掛かった時に、すれ違う冒険者や商人が多くなってきて、驚愕の表情で見て振り返っていた上、同じ方向に進んでいる人を次々に抜き去っている事に、ようやく気が付いたようだ。

 二人はすぐに、周囲に合わせる速度で歩き直す。

 廻りの眼に慌てたロンダは、機転を利かせ廻りに聞こえるように大き目の声で話す。


「よしルドル。走る速さで歩く訓練は終わりにしよう」


 実感しているルドルもロンダに合わせて大き目の声で返した。


「お、おう。廻りの人にも迷惑が掛かるかもしれないからな。終わりにしよう」


 周囲の人達は、あ、なんだ訓練か、と納得していたようだ。

 二人は、レイルの屋敷での生活で身体能力が格段に向上していたが、本人たち二人の感覚が、一緒に生活したレイルやミャウ、スランとへび姫と言う人外の強さの中だったので麻痺していたのは当然だろう。

 二人は顔を見合わせ、力を押さえて、いつも周囲に合わせよう、と誓い合った。

 それから二日掛けて、ゆっくりとウイルシアン王国に帰った二人だった。


 翌日、日も高くなっていた昼ごろ。

 二人は依頼の状況を見ようと、道中で打ち合わせていたギルドに出向く。

 ルドルが周囲に合わせ歩いていると、丁度いいタイミングでロンダも向こうから歩いて来た。

 なので一緒に並んでギルドに入る。

 奥のカウンター越しに、金髪ツインテールのエルサが正面を向いて座っているので自然と眼が合う。

 が、ロンダとルドルは、エルサに気にする事無く、掲示板に貼られている依頼を眺め始める。

 昼のギルドは暇な時間帯なので、エルサも暇を持て余していたようだ。

 なのでカウンター越しから立ち上がり、両手を付くと、久しぶりの二人が掲示板を見るや否や声を掛けてくる。


「あー、ロンダさん、ルドルさん。しばらく顔を出さないで、今日まで何していたのですか?」


 掲示板を見始めた二人だったが、ロンダがエルサに爽やかな笑顔で振り向き、片手を軽く上げる。


「やあ、エルサ、久しぶりだね。ちょっと所用で……自己啓発していたんだ」

「二人共一緒に、ですか?」

「ああ、そうだよ」

「レイルさんは一緒じゃないのですか?」

「あ? レ、レイルか。あいつは今、故郷に帰郷しているから、しばらく休みだ」


 何故か食いつくエルサは、前のめりになる。


「レ、レイルさんの住んでいるご実家を知っているのですか?」


 ロンダは、何か言ってはいけない事を感じたようだ。


「あ、いや、それはギルドと同じで守秘義務があるから言えないよ」

「そ、そうですか……残念です。あ、いえ、何でも無いです」


 エルサは力なく椅子に座った。

 余計なひと言を言って、面倒事に巻き込まれたくないロンダは、ルドルと一緒に再び掲示板を眺めた。

 エルサからの疑惑? の視線はまだ刺さっていたが、感じているロンダは無視してルドルに話しかける。


「どうだ?」

「あるよ、あるある。高度な依頼が数件出ているよ」


 ルドルが説明するその内容は。

 ダンジョンの階層主、メデゥーサ、ゴーゴンの討伐。


「俺達が以前完了した、階層主のヒュドラからさらに十階層下の魔物らしいよ」

「成る程」


 その隣に書かれた依頼内容は。

 山の麓に幾度となく現れ、家畜をさらっている複数体のグリフォンの討伐。


「この魔物は、ワイバーンの上位みたいだな」


 更に隣の依頼内容は。


 ゴーレムがいた跡地に現れた、メタルゴーレムの討伐。


「ゴーレムより硬そうだな。ゴーレムキラー持っているレイルの得意分野かもな」


 そして最後の依頼内容。

 樹海の最奥に潜むエルダーリッチの討伐。


「これが一番難関のようだな」

「でも、エルダーリッチって、自身が何もされなければ、干渉して来ないんじゃないのか?」

「そうなんだよな」

「やる、やらないにしても詳しい内容が書かれていないしな」

「どのくらいの強さなのかな。噂では魔法に特化しているって聞いたけど」

「俺もその程度なら知っている。攻撃魔法も上位階まで使えるとか」

「エルダーリッチはまだ、俺達の手には負えないよ。二人だしさ」

「ああ、レイルがいたら、普通に依頼を受けるだろうな」

「そうかもな。でも俺たちも身分相応の依頼を受けようか」

「よし、依頼を決めた。現在も被害が出ている、家畜を狙うグリフォンに決まりだな」

「了解。じゃあ準備に取り掛かろう」


 ロンダとルドルは依頼を受け、グリフォン討伐に向かうこととなった。



 深夜の屋敷は静かだ。

 ミャウもホムンクルスとはいえ、睡眠は必要で、八時間はしっかり眠る。

 そこまで必要なのか定かではないが、一度レイルに話をしていた。

 対峙している二人。

 姿勢正しく立っているミャウは、片手を腰に当て、もう片方の手をレイルに向け軽く曲げ、人差し指を立てている。


「睡眠時間は、しっかりとらないといけません。睡眠不足はお肌の大敵です」


 だそうだ。

 今は亡きルードが、老いる事はない、と言っていたが、ミャウの中に潜む女性感が強いのだろう。

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