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第20話 別れ

3月18日現在

19話に少しだけ書き入れました。

微々たる文字数なので再度読まなくても差し支えありませんが、気になる方はどうぞ読んでください。

 ロンダは尻を地面に付きながら両足を開いて前に伸ばし、両手を後ろで支えるように座っている。


「レイルの本来の強さ、実力を思い知らされたよ。雲泥の差じゃないか。ハハハ」


 ルドルは力なく、片膝を付いていた。


「やっぱりレイルは、常識外の強さだったんだ。ハハッ」


 だがしかし、さすがにS級までになった冒険者。ここで心が折れる二人では無かったようだ。

 レイルに鍛錬を申し入れ頼み込み、頼まれたレイルも快く承諾した。

 そしてスランとの手合わせを毎日行い、鍛錬し、スランは消化不良だったものの、一心不乱の二人は理不尽な手合せに立ち向かい、着実に、確実に、順調に強くなって行く。

 鍛錬し始めは、スランの触手六本から始まり、生傷が絶えなかったが、S級と称される力は本物で順応性は高く、二週間ほどで八本の触手での鍛錬に切り替わる。

 だがしかし、六本に耐えられるようになったからと言って、更に二本増えれば当然至極、体勢も間に合わず、多数の打ち身、打撲は当たり前で、時には骨折もするようになった。

 へび姫やミャウの回復魔法でもいいのだが、余計な事は知られたくないレイルは、スランの作ったエリクサーの小瓶を飲ませ対応していたのだった。

 その厳しさの中、ロンダとルドルは少しでも、レイルに追いつきたい一心で撃ち臨む毎日を送る。


 ――そして二ヶ月ほどが過ぎる。

 スランの八本の触手から繰り出される嵐のような攻撃には、現在、未だに反撃さえ出来ないものの、触手全ての攻撃を完全に受けきっていた。

 つまらなそうだったスランは、今では笑顔を出し暴れている。


「アハハー、最近―、楽しいねー、アハハー」


 ロンダとルドルは、受けきっているとはいえ、真面に受け答え出来るほど楽では無いので、縦横無尽に飛び交う理不尽な攻撃に、必死に耐えるように受け続けていた。

 そして頃合いが来て終了。


「アハハー、楽しかったー、帰るー、アハハー」


 笑顔を出し、揺れながら滑るように森に帰って行くスランを、見送る形で立つロンダは槍を肩に担ぐ。


「フゥ、何か切っ掛けさえあれば、反撃の糸口が見つかるんだけどなぁ」


 見ていたルドルも弓を背中にして、ガントレットを胸辺りで小突く。


「フゥ、だけど、ここだ。と思ったとたん、厄介な触手がそれを見抜いているのか阻まれるんだよなぁ」

「レイルは、隙を付け、なんて簡単に言うけど、どこにあるんだか。俺たちにはまだまだだよ」

「あいつはいつも簡単に言うからなぁ。もっとコツみたいな事を教えてくれればいいのに」

「ま、レイルの性格は昔から、ああだからな。ハハハ」

「全くだ。いい仲間だけどその部分だけでも直らんものかな。ハハハ」

「さてルドル。今日も今の手合せのおさらいと行こうか」

「おう、望むところだ、ロンダ。今日は俺が勝つからな」

「いいだろう、やろうか」


 屋敷に来てから向上心の塊みたいになっている二人は、スランとの手合わせが終われば、毎回二人での鍛錬をするのが日課になっている。

 各々がスランに対峙し戦っている時を思い出しながら、自身が手を出せなかった事を考え、どうしたらその先に行けるのか攻防を繰り返した。


 更に一週間が過ぎた。

 そろそろS級の依頼も出始めているか、出ている頃であり、ロンダとルドルがウイルシアン王国に帰る時期、頃合いが来たようだ。

 スランと鍛錬し、今の実力を確かめたいような二人は、レイルに手合せを申し込んだ。

 レイルは快く了承した。が、これはミャウによって簡単に阻まれた。


「レイル様の御手を煩わせるなど、もってのほかです。わたくしがお相手します」


 ミャウに強く言われ、これにはレイルも承諾したが、ミャウにはロングソードと同じ重量の木剣を持たせた。

 ミャウはその重い木剣を冷たくも美しい眼で見つめ、片手に持ち、重力を無視し理不尽な形で支えている。


「レイル様、なぜこの木剣なのでしょうか。いつもの手合せは真剣ですが――」

「いや、普通は木剣なの。第一怪我するし、場合によっては死んじゃうでしょ」

「それこそが手合せなのでは? 勝つか負けるか、負ければ死と言う代償が待っている。と」

「死んじゃダメだし、それに俺とミャウの手合せは特別なの」

「レイル様には到底及ばない、わたくしの力量では、本来簡単に抹殺されて当然……。しかし、レイル様の優しい心で……」

「いや、あのね、だからね、いいから木剣で手合せして。それでもミャウの力は強いんだからさ」

「ああ、あの下等な輩に何とお優しい。さすがですレイル様」

「ミ、ミャウ、お願いだから初めから全力を出さないでね」

「畏まりました。それでは、あの輩を生かさず殺さず、ただ心を折ればよろしいのですね、へし折れば」

「それも違うってば。絶対に殺さない事。大怪我もさせない事。わかった?」


 急に、あからさまに、露骨につまらなそうな表情をするミャウ。


「畏まりました」


 そんな二人の会話を知らない二人。

 ミャウと、手合せが出来る、と思わず嬉しさがこみ上げたロンダとルドルだったが、スランの攻撃を受けられるようになって、少し有頂天になっていた二人。

 ロンダはルドルと話す。


「ここで上達した俺達の強さを見せれば、ミャウも打ち解けてくれるんじゃなにのか?」

「そうそう。いくらミャウがスランより強いと言っても、八本の触手なんて無いしな。もしかしたら強くなった俺達の事を気に掛けてくれるかもよ?」

「だよな。それ、ありだよ」

「よーし、やるか」


 二人は、意気揚々、と手合わせを始める為、広場の中央に立つ。

 対峙する、艶やかで綺麗な縞模様の黒銀の髪を、後ろで縛っている姿勢のいいメイド服のミャウは剣を片手で軽々と水平に持ち、威圧も何も感じられず立っているだけ。

その冷たくも美しい美貌、容姿を正面に見て、今度こそは、と考えているような構える二人。

 レイルが両者を見て、声を放った。


「始め!」


 ――結果。


 やはり鍛錬し強くなった二人掛かりをもってしても、ミャウの神がかり的な剣技には到底及ばず、一度も当てる事さえできず、タコ殴りにあい、コテンパンに打ちのめされ、何度も打ちのめされ、心が折られるほど打ちのめされて終了した。

 重いロングソードの木剣を、重力を無視して片手で持ち、打倒された二人を、冷酷だが美しい眼で見下しミャウが言った一言。


「あなた方はまだまだです。レイル様は、わたくしの十数倍は強いかと」

「なんて強さだよ全く」

「俺たちって強くなったのか?」

「来た頃よりは強くなっていますよ。ご安心ください」


 ミャウに言われても、安堵したのかどうかは定かではない二人だった。

 これを最後の修練、集大成として、二人にとって、地獄の鍛錬に食らいついた日々も終わる。


 ――帰国当日。

 ロンダ、ルドルを見送るレイルが立ち、その後ろにスランが笑顔をだし、へび姫はとぐろを巻き、ミャウは姿勢正しく美しく立ち、並んでいた。

 へび姫の隣に立っているミャウはレイルに言われていたので、致し方が無く、苦虫を噛んだような表情で我慢していたことは言うまでもない。

 帰る準備が整ったロンダとルドルはレイルと向き合う。


「レイル。俺達の為にありがとうな。お陰で向上できたよ」

「ん」

「いやー、きつかったけど、耐えきって自信がついて、結果良かったと思っている。ありがとうな」

「ん」

「「またな」」

「ん」


 境界線に立つ二人は来た道を、急斜面を歩いて下りようとしているのだろう。

 一歩を踏み出す前に、境界に立つ二人にレイルが一声かける。


「強く飛べば早いよ。ロンダもルドルも強くなったから大丈夫」


 二人にとって、最後の理不尽だったが、信じるしかない。

 しかし山々を眼下に見下す二人だが、この高低差では飛ぶ勇気が無いようで躊躇していると、レイルは助け舟を出す。


「何だったら俺が先に飛んでみようか?」


 躊躇していた二人を前に、レイルはいとも簡単に力強く地面を蹴り、空に向かうように飛び出し、下に降りた。

 焦った二人は一度見合わせ、レイルに合わせて、自身を信じて力強く一歩を踏み、遠くに向かうように飛んだ。

 軽快に、爽快に、豪快に、気持ちよく、三人は大の字で落下する。

 覚悟したようなロンダ。


「ルドルーッ! 俺が死んだら後は頼むぞーっ!」


 ルドルも風圧で、顔が引きつっている。


「そんな事今さら言うなーっ! 俺も同じだーっ!」

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