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第17話 仲間

 突拍子も無い事を言い放ったエルサは、伊達に荒くれた冒険者を相手に受付をしている訳では無く、肝が据わっているようで、慌てて見ているレイルに対し、テヘッペロッ、と片目をつぶり可愛い小さな舌を出している悪戯な笑顔があった。

 ジゼルは思い出したようにレイルを見る。


「おいおいおい、まだ生きていたのかー、レイル。久しぶりだなー」


 レイルに歩み寄る、にやけたジゼル。


「今何しているんだ? 俺達は今じゃC級の冒険者だぜ」

「そ、そうなんだ」

「てっきりどこかに引っこんで農業でもしているのかと思えば、まだ冒険者しているのか?」

「う、うん……」

「何だったらまた入れてやってもいいぞ? また荷物運びだけどな。最近になってまた荷物運びが欲しいと思っていたんだ。丁度良かったな、どうする?」

「い、いや、いいよ……止めておく」


 下を向いているレイルを、首を傾げ、下からレイルを見上げるように睨むジゼル。


「おいおい、俺様の、ジゼル様の誘いをむげに断るのか? あ?」

「そ、そういう訳じゃないけど……」


 このやり取りを見ていた、無茶ぶりしたエルサが立ち上がり、カウンターに両手を付き憤慨する。


「レイルさんは、今ではB級で、S級に近い二人とパーティを組んでいます! 凄い人なんです! 有名人です!」


 エルサの放った言葉に、円卓の椅子に座っている三人は驚愕していたが、ジゼルは違った。


「ハァ? 何言っちゃっているんだ?」


 一切、信じようともしない馬鹿だった。

 そんなジゼルはレイルに向かって更に睨みを聞かせる。


「何だって? レイルがB級だって? 何イカサマしたんだよ、俺にも教えろよ。あ?」

「俺にも分からないけど……一応B級……」

「ハァッ? ふざけんなよレイル! あの荷物持ちがB級って、ありえねーだろ! おい!」

「……」


 英雄、勇者の域を越えている、人外の強さがあるレイルなのだが、まだトラウマになっている嫌な過去を思い出し、恫喝してくるジゼルに対し、何も言えず下を向いたまま委縮してしまっている。

 そこに、いつの間にか入口に立っているロンダとルドルの二人から、強めの声が掛かる。


「あーそこまでだ」

「お宅が何様だか知らないが、レイルに何してくれてんだ?」


話を始終聞いていたようで、レイルに歩み寄るルドルとロンダ。


「人のいいレイルに理不尽な事を言って指一本触ったら、俺達が全力で叩き潰すぞ? あ?」


 ロンダとルドルが、にらみを利かせながらも、爽やかな笑顔でレイルの両肩に、曲げた肘を軽く乗せ三人並んで立った。

 さすがのジゼルも冒険者の端くれなので、アーチャーのルドルとランサーのロンダ、は以前から知っていたようだ。

 そこにレイルが加わったことはサラサラ知らないようで、信じられない表情だ。


「え? お二人の仲間って――レイルですか?」


 レイルの肩に肘を乗せていたロンダが、ジゼルにゆっくり歩み寄り、顔に顔を合わせる。


「その通りだよ。俺の大切な友達。仲間さ。何か文句ある?」


 ルドルもレイルから離れ、円卓の三人に向かって歩み寄り、爽やかな笑顔ながらもガントレットを自身の胸辺りで小突く。


「俺の大切な仲間がお宅らに何かしたのなら、俺も一緒に頭を下げ謝ろう。だが、もし違うのなら……」


 三人は同様に両手を前に出し、否定するように必死に手の平を振る。

 やばい、と思ったのだろう。

 ルドルを目の前にしたガリースは冷や汗を滝のように流している。


「いえいえいえ! 違います! 何でもないです! 何もしていません!」


 ルドルは怖い笑顔になり威圧を掛ける。


「なら今後、レイルには干渉するな、わかったか?」


 三人とも前に出していた両手を、瞬時に膝に乗せて下を向く。


「「「はいっ!」」」


 笑顔のロンダもジゼルに威圧を掛け、顔を横眼にジゼルの耳元で囁きかけた。


「おい、冒険者。昔の事をグダグダ言ってんなよ、冒険者。調子こくのもいい加減にしとけよ、冒険者。今後レイルを小馬鹿にするようなら全力で叩き潰すぞ、冒険者。わかったか?」


 ジゼルは直立不動で大汗をかき、固まっている。


「は、はい、申し訳ありませんでした」


 そのまま囁くロンダ。


「わかってくれたなら嬉しいよ、冒険者。でも、謝るのは俺にじゃないよ、冒険者。わかっているだろ? わかっているなら行動しろよ、冒険者」


 言い終わりゆっくり後ずさりするように、ジゼルと離れるロンダ。

 すぐさまジゼルは悲哀の眼で、助けを求める眼でレイルを見て深く頭を下げる。


「ゴ、ゴメンなレイル。俺が悪かった、許してくれ、いや許してください。ゴメンなさい」

「う、うん、いいよ。気にしないから」


 レイルの優しい一言で、ロンダとルドルも許したことは言うまでもない。

 四人は立ち上がり、逃げるように、一人は腰砕け、一人は転びながらギルドを出て行った。

 ロンダは爽やかな笑顔になり、片手で茶髪を掻き上げた。


「いやー、話がわかるっていいよな」


 ルドルも肯定し、両手で青髪を掻き上げた。


「そうそう、聞き分けがいいって、大切だよな」


 何も出来なかった突っ立ったままのレイルは、二人に感謝している。


「ロンダ、ルドル、ありがとう」


 爽やかな笑顔のロンダがレイルの肩を抱く。


「これくらいお安い御用さ。これでレイルに貸しを一つ返したぞ。ハハハ」


 ルドルも笑顔で反対からレイルの肩を抱く。


「何かあったらいつでも言ってくれよ。人見知りなんて気にしないで、堂々とすればいいんだよ」


 二人に囲まれたレイルは初めて、はにかんだ。


「ん。ありがとう。ハハッ」


 そんなレイルを見てロンダも喜んだ。


「レイル、それだよそれ。ハハハ」


 ルドルも嬉しそうだ。


「その笑顔が大切だよ。ハハハ」

「ん」


 終始見ていた無茶ぶりしたエルサは、事なきを得て胸をなでおろしたが、仲のいい三人を見て一つ鼓動が跳ねたようで、その後の見方が変わっていた事は三人が知る由も無い。

 それからの三人は、更に意気投合し、困難な依頼をことごとく完了したのだった。

 その功績により、ロンダとルドルはS級に昇格したが、レイルだけは拒み続けB級のままで了承されたのである。


 そして――。

 三人で受ける困難な依頼が無くなった。


 レイルは二人と約束していた。パーティに入る条件として、期間は二年以内、もしくは依頼が無くなったら抜ける。

 約束通りパーティを抜ける話を切り出した。

 しかし二人から懇願されたのは、レイルを呼ぶときは、切羽詰っているか緊急事態、若しくは二人ではどうしようもない時なので、その時は力を貸してほしい。

 二人に感謝しているレイルは快く承諾した。

 だがしかし、承諾したのはいいが、遥か遠いレイルの屋敷には連絡する術がない。

 そこで二人は、山の上のそこにある、と言うレイルの屋敷に行く事を決意。先に帰ったレイルを、準備が整い次第、追い駆ける形で進む計画にする。

 レイルは身も軽く、初めて数週間も掛けて登った急斜面を含め、全工程を二日で登り切り屋敷に到着している所である。

 途中、息継ぎはあったものの疲れた表情など全く無いに等しい。

 まさに人外である。


「フゥ、帰って来たな」


 既に察知していたのだろう、さっそくスランとへび姫が懐かしむように、森の中から出向いて来てくれた。

 スランは笑顔を出し、触手を嬉しそうに上に向け、フルフル、させて体を滑るようにレイルの廻りを回る。


「あるじー、お帰りー、待ってたよー、またあそぼー」

「ただいま、スラン」


 へび姫が、その後ろから音もなく滑るようにレイルに近寄り、愛おしむように優しくとぐろを巻く。


「もどったかの、久しぶりだの、ん? 元気かの。ん?」


 長い舌を出し、チロチロ、と優しくレイルの顔を舐める。


「ああ、へび姫。この通り元気だよ」


 少しの時間、スランとへび姫とウイルシアン王国でのギルドの依頼など談笑し、また後で、と別れ屋敷に入る。

 玄関の扉を開ければ、眼の前にはミャウが姿勢正しく立っていた。

 既に察知はしていたのだろう。

 しかし、スランとへび姫が先に出迎えたので、険しい表情のまま屋敷の中で待っていたようだ。

 瞬時に普通の表情になり、綺麗な一礼するミャウ。


「お帰りなさいませ、レイル様」

「ただいま、ミャウ」

「お食事になさいますか? 湯あみになさいますか? それとも……」

「ミャウ、それって何だか変な流れになるのかな」

「は? わたくしでしたら、いつでも差し上げますが。なにか……」

「あー、やっぱり。そこはいいからさ、着替えるよ」

「畏まりました」


 こうしてまたレイルが旅立つ前と、同じ楽しい毎日が始まった。いや、戻った、と言った方かいいだろう。

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