表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/61

第16話 依頼そしてギルド

 芝や柔らかそうな雑草の緑が濃い牧場の端に立ち、牧草を食べている牛を眺める三人。

 槍を背中に納めているロンダは両手を腰に当てている。


「この牧場だけど、ワイバーンの痕跡どころか、気配さえ無いよな」


 ルドルは青髪を掻き揚げる。


「こんな真昼間まっぴるまより、早朝、夕刻、夜と、食事の地合いがあるんじゃないのか?」


 レイルは何かを察知し、遠くの山を見ている。


「日が沈んだらすぐに飛来するかも」


 信じたようなロンダとルドルはレイルに眼を向ける。


「レイルがそう言うのなら、ここでじっくり待とうか」

「そうだな。腹が減っては何とやらだから、飯にしよう」


 依頼内容など忘れているかのように、草原の真ん中で呑気に弁当を食べる三人だった。


 ――そして夕暮れ時。

 ロンダとルドルは、槍と弓を片手に持ち周囲を警戒している。

 レイルは遠くの山を見ていて、すぐに察知した。


「来るよ、西の空」


 薄暗くなっている空に、体長三m程で、鋭い牙と爪を持つ、二十体ほどのワイバーンが飛来するのが見えてくる。

 ロンダとルドルもレイルに言われ視認したようだ。

 ルドルが弓を持ち直し構えると、矢を持たずに空に向け大きく弦を引く。


「俺から行くぞ」


 光る矢、炎の矢、雷の矢を連続して放った。

 一直線に飛んで行く矢は、瞬く間に三体のワイバーンに突き刺さり、爆音と共に爆ぜた。

 続けて魔法の矢を放つルドルだが、ワイバーンも馬鹿では無かったようで、威嚇するような咆哮を上げながらすぐに散開し、不規則に飛び回る。

 これではルドルも連続では打てなくなり、練り込む攻撃魔法を変更し、追尾する矢に切り替えた。

 狙いを定め追うように理不尽な曲線を描く矢がワイバーン突き刺さり、爆音と共に爆ぜ、一体、そしてまた一体、とゆっくりだが確実に仕留めている。

 ロンダはと言うと、槍を投げる間合いにも入って来ないワイバーンに、ただ槍を構え、傍観しているのが現状。

 レイルは剣を構え――ではなく、投げ針を取り出し、投げる瞬間に密かに神経毒の魔法を練り込み、三本連続で投げる。

 投げられた針は、鋭い勢いで一直線に飛び、瞬く間に三体のワイバーンに突き刺さり力なく落下してくる。

 それを見たロンダがレイルに振り返った。


「おい、レイル。それは何だ? 聞いていないぞ」

「ん、投げ針だけど」

「あー、ギルドで見せてもらった投げ針か。だー、コロッと忘れていた。レイル、それはズルいぞ。俺だけお手上げじゃないか。頼むから数本分けてくれ」

「ん」


 レイルは数本の投げ針を手渡した。

 ルドルは、一体、また一体、と避けるワイバーンに向かって、理不尽に曲がる魔法の矢に、さらに魔法を乗せて確実に仕留めている。


「ロンダ、何しているんだよ、お前も何とかしろよ」

「フフフ。まあ見てろよ」


 ロンダもS級に近い冒険者なので、持っただけですぐに使い方も把握したのだろう。

 投げ針に魔法を乗せ、ワイバーンに向けて大きく振りかぶり投げた。


「フンッ!」


 ロンダの放った投げ針は、鋭い勢いでワイバーンに突き刺さり爆ぜた。

 初めてなので、さすがに倒せてはいなかったが、飛べずに落下している。


「へぇ、投げ針か。これはいいよ、うん。俺にも中距離の攻撃方法が増えた。なあ、レイル、俺も今後使っていいよな」

「ん」


 嬉しそうに投げ針を見て、確認するように投げ、また撃ち落とす。実戦で鍛錬するロンダだった。

 撃ち落としたワイバーンは、攻撃してくる力はあったが、飛べなければ三人の敵では無く、顔を上げ威嚇するように咆哮を上げているワイバーンを片っ端から切り倒した。

 こうしてワイバーンの討伐は思ったよりも簡単に完了したのである。

 これはS級に近いA級のロンダとルドル、そしてレイルの三人だから完了した事であって、C級、いやB級の冒険者が同じ事をしても、撃退、討伐、殲滅には到底及ばず返り討ちに合っただろう。


「よし、完了だ。日も暮れているし、そこの町で泊まって行くだろ?」


 ロンダの言葉にルドルは肯定する。


「ああ、そうだな。数軒の宿屋があったから、どこかには泊まれるだろう」

「俺は帰る」


 レイルは準備が整ったのか一人歩き出す。

 ルドルは両手を腰に当てレイルを見る。


「相変わらず一人が好きだな。どれだけ嫌なのかね」


 ロンダは笑顔で茶髪を掻きむしりながらレイルを見る。


「ハハハ、今に始まった事じゃないだろ。いつもの事だ」

「それもそうだ。ハハッ」


 そんなレイルに、手を振るルドルとロンダ。


「レイル―! じゃあまたなー!」

「気を付けて帰れよー!」


 レイルは振り向く事無く、後姿のまま片手を上げて振っていた。

 レイルは、必要な野営以外、他の町などでは宿に泊まった事が無く、今回の帰路も途中で手ごろな高い木に登り、太い安定した枝で寝て早朝には起床し自身の家に帰る、と言う繰り返しだった。

 レイルがウイルシアン王国の家に着いてから二日後に、二人は帰って来た。

 ギルドにはルドルが代表で完了報告をしに行き、ロンダはその足で武器屋に行って投げ針を、大人買い、した事は言うまでもない。


 数日後。

 日も高く昼を過ぎた頃、レイルは依頼の打ち合わせの為ギルドに出向いた。

 ギルドに入れば、誰もいないし二人の姿もない。なので、いつもの席に座り二人を待つ。

 何故かいつも先に来て待っている二人が、珍しく来ていなかったので、時間を持て余したレイルは、掲示板を眺めようと席を立つ。

 受付嬢以外は誰一人いないので、緊張も無く安心して掲示板に貼りだされている依頼を眺め始める。

 呑気に眺めているレイルにとって、自身よりかなり弱い者、たとえで言えばC級以下の冒険者程度であれば、殺気があろうと無かろうと察知していなかった。いや、相手にならないのだから察知する事さえ必要ないのである。

 その時、ギルドに入って来る男四人組のパーティ。

 依頼を完了したのか、入って来る早々、レイルの後ろを通り過ぎ受付に向かっている。


「やっぱり俺達強くね?」

「つえーに決まっているだろ。依頼完了だし、C級に昇格だしな」


 レイルの後ろを通り過ぎる四人の声には、聞き覚えがあった。

 レイルは声の主をチラ見すると、やはりジゼル、ラダム、ガリース、クラバーの四人であった。

 リーダーのジゼルが、受付のカウンターに半身で肩肘を付き前かがみになる。


「よう、エルサちゃん。北部の依頼、完了したよ」

「はい、ジゼルさん達は久しく北部のギルドに来ていませんでしたね。はい確認しました」


 ジゼル達四人は、各ギルドを転々と流浪し依頼を受け、ここ数十日は南のギルドで依頼を受けていたようだ。


「なあエルサちゃん。久しぶりに会ったんだから、デートしようよー。絶対に楽しいからさー」


 エルサは受付としての対応はしていたが、馴れ馴れしいジゼルを嫌っているようで、終始、眼は合わせないで対応している。


「仕事中ですから止めてください。またギルドマスターに言いつけますよ」

「まだ何もしていないじゃん。俺と付き合いなよ。今ではC級に昇格している俺とさぁ」


 ジゼルはカウンター越しから手を伸ばし、自身と同じ色の、エルサの金髪を摘まむように触れば、嫌がるエルサ。

 他の三人は、またか、と離れ、円卓の椅子に座って、いやらしい笑みを浮かべて事の次第を見ている。

 終始聞いていたレイルは、助けるどころか昔を思い出したようで、掲示板の前で固まりチラ見しているだけが精一杯。

 そして運よく、いや、運悪く、チラ見していた時、嫌がるエルサと眼が合ってしまった。

 そんなエルサがとった行動。


「止めてください。私はあそこに立っているレイルさんが好きなんです!」


 のけ反るように驚くジゼル。


「えーっ?」


 テーブル席で腰砕け、驚く三人。


「「「えーっ?」」」


 掲示板の前では、驚愕の表情で、何言っちゃってるの? とエルサを見る信じられないレイル。


「は、はい?……」


 視線を感じればレイルを見るジゼルと三人がそこにいた。

是非感想など、一言だけでも頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ