第14話 依頼2
周囲の魔物を倒し、洞窟の奥に向かって走るレイル。
指令を出していたゴブリンロード、オークロード、オーガロードは、無防備だった。
魔物を切り飛ばしながら走って来るレイルを、あざ笑うように構え始め、威嚇するような強い咆哮を上げている。
攻撃を仕掛けようとした魔物の親玉。が、それを知っているレイルは地面を強く蹴り、魔物が動くその前に、前かがみで低く突進し、すれ違いざまにロードが動くよりも速く瞬時に首を切り飛ばし、三体の首が、ゴトリ、と落ちた。
まだ息のあった三体の頭は、首から血が噴き出している自身の体を見上げる形で眺め、何が起こったかも知らないうちに絶命した。
レイルは元居た場所まで魔物を切り倒しながら戻り、残った残党を、二人をチラ見しながら習うように、調整して討伐し、殲滅し成功した。
ロンダは槍を振り切り、血を落として肩に担ぎ、辺りを見回す。
「フゥ、これで全部か?」
ルドルは血濡れになっているガントレットを拭いて顔を上に上げ、青髪を掻き上げる。
「ハァ、もういないようだな」
レイルは、剣に付着した血を拭き鞘に納め、魔物は全て倒し、いない事は周囲感知していたので確認済みだが。
「気配は無いみたい」
ここ最近のレイルは、ロンダとルドルとは何とか眼を向けて話せるまで進歩していた。
ロンダだが、不本意のようで茶髪を掻きむしりながらレイルを見る。
「で? 親玉はまたレイル……だよな」
「ん。偶然、道が開けたから二人に任せて奥に入った」
「いつもそれだよな。ま、でも助かるよ」
ルドルも聞きながら両手を腰に当て、魔物の討伐を確認して回っている。
「レイルがいるから、こうして上位の依頼も完了出来るし、俺達の力量も向上するし、言う事無しだ」
ギルドに戻り、討伐完了を報告したら、周囲の冒険者、ギルド職員たちから拍手喝采、歓喜の声が上がり感謝された。
しかし、人見知りのレイルは嫌なので二人に頼み後で合流する事で了承を得る。
そして、ロンダとルドルはもう少しで、S級に昇格する、と受付嬢のエルサが話していた。
同じパーティのレイルも、今ではB級に昇格していた。
ただ、ロンダとルドルが、レイルはA級は確定だ、と主張したがレイルはB級でいい、飛び級になっているので、むしろ、C級でもいい、と二人に納得してもらった。
現在三人のパーティは、名こそなかったが、上位冒険者として、ランサーのロンダ、アーチャーのルドル、そしてもう一人がいる、とギルドでは知らない冒険者はいないほど有名になっていたのである。
次に受けた依頼は、誰もが受けていなかった上位の魔物の討伐。
町と町を結ぶ森の街道に現れた、体長二m強、茶褐色の肌で牛の顔を持つミノタウロス。
青白い肌を持つ一つ目のサイクロプスは棍棒を持ち、体調三mほどで岩のように硬い毛と皮膚を持つ黒褐色のロックベアーは、鋭い牙と尖った爪を持つ。
ルドル達三人が受ける前の依頼が出た当初は、何組かの冒険者が討伐に向かったが、返り討ちに合い、全滅は無いものの、いずれも失敗に終わっていたので、誰も手を出さなくなっているのが現状。
その森の街道をロンダ、ルドル、レイルと並んで歩く三人。
会話も少なからずあり、周囲を見ながら歩くが、魔物に対する緊張感は無い。
ロンダが背中の槍を片手に持ち替えて歩く。
「依頼内容だと、この先辺りから出没するんだよな」
ルドルも背中に背負っていた弓を、片手に持ち替えて歩く。
「ああ、そろそろだと思うよ」
レイルは、普通に歩いているが、既に魔物の位置を察知していた。
しかし、魔物側は気づいていない。なのでまだ黙っている。
しばらく歩き、魔物も感づきそうなので、レイルは二人に打診した。
「この先にいるような気配がある」
レイルの一声は、今に始まった事では無いので、ロンダとルドルは戦闘態勢を取る。
二人もA級冒険者。
感知能力を高めれば、すぐに察知したルドルが弓の弦を大きく引き、斜め上に向かって一度に数本の光の矢を放てば綺麗な放物線を描き、魔物の群れの中に落ちる。と同時に落ちた場所から爆発音が聞こえてくる。
これが合図になったのか、森の中から三十体程の魔物が三人めがけて襲ってきた。
まだ距離もあるのでロンダとレイルは構え、ルドルは連続で魔法の矢を放ち、大きな咆哮を上げながら向かって来る先頭のミノタウロス一体一体を確実に一撃で仕留め倒す。
魔物も馬鹿では無いようで、すぐに均一に広がった。
近接戦になり、ロンダを狙ったミノタウロスが、棍棒を振りかざし、振り降ろされる前に、先に間合いに入ったロンダの魔法を乗せた槍が先に一撃し爆ぜ、突き倒す。
すぐ後ろのミノタウロスには棍棒を力強く槍の柄で叩き落とし、反動で回転させ魔法を乗せた刃を振り切り、いとも簡単に切り倒す。
今の二体を倒す攻撃が一秒足らずの速さであった。
その後もロンダは、使用する魔力量は大きいが、刃先と両刃に魔法を乗せ、一体一体を一撃で粉砕している。
ルドルも、魔力量を大きく消費するが、ガントレットに魔法を乗せ、やはり一撃で粉砕する。
レイルは剣を構え、魔物が襲って来れば軽く振り回し、二人の倒す数に合わせ、切り飛ばしていた。
レイルにとって、スランとの手合せに比べたら、獲るに足らない、目を瞑っても倒せる魔物だったので調整するのも苦労しているのが現状である。
最後に後方から現れたのが、ロックベアー。
岩のように硬い毛と皮膚を持つロックベアーは楽では無かった。
ロンダの魔法を乗せた槍とルドルの魔法を乗せたガントレットでは、炎や雷の爆発はするものの、致命傷とまではいかないで一撃で倒せず、すぐにロックベアーから上からの強力で俊敏な爪攻撃で振りかぶられ苦戦を強いられている。
一方レイルは、二人をチラ見しながらも一方的にゴーレムキラーで、サクサク、と切り倒していた。
まさしく殴殺、蹂躙と言った所か。
だがしかし、二人が苦戦しているのに対し、倒し過ぎている事に気が付いたレイルは、途中から二人に合わせようと、またもや苦労している。
今回、ロンダとルドルは、怪我こそ無いが、自分の事だけで精一杯だったので、他を見る暇も無かったようだ。
レイルも二人を援護する投げ針を、準備はしていたがその心配は空振りに終わることとなる。
討伐後、街道とその周囲は、複数の血だまりも含め赤く染まり、鉄の匂いと獣臭が辺りを立ち込め、魔物の残骸の山が出来ていた。
――そして討伐完了。
ロンダは槍を背中に背負い、疲れたように首を回す。
「フゥ。今回はきつかったな」
ルドルは今回も、魔物の撃ち漏らしがいないか、両手を腰に当てて見廻している。
「ちょっとどころじゃなかったよ」
レイルは、スラン達との楽しい手合わせの、足元にも及ばない、とつまらなかった。が、表情には出さないように注意していたことは言うまでもない。
完了報告にギルドに戻ればまたもや称賛され、栄誉が称えられた。
勿論、ロンダとルドルに任せたレイルは、一人家に帰っている。
◇
普段の生活をしているときのレイルは、ロンダ、ルドルの二人とは、依頼を受ける以外は別行動だ。
二人に慣れて話せるようになったとはいえ、基本が人見知りだから、必要な時以外は、家に閉じこもっていた。
ただ二人のお陰で、他の人とも少なからず話せるようになって、店での買い物は、まだ自由とまではいかないが少しずつ進歩していた。
そんなレイルは仲間と言ってくれた二人に感謝している。
依頼を終えて数日。
疲労回復を含めた英気を養う療養期間。
レイルは毎回疲労など皆無だったが、二人との取り決めなので休んだ。
療養中レイルは、ロンダとルドルの行動は知らないし、知るつもりも無い。
今日、レイルは買い物をしに商店街に出かけ、替えの毛布や衣服、それと昼食を購入して家に帰る途中である。
レイルが歩いていれば、正面からロンダとルドルが並んで歩いて向かって来ている。
そして二人の両脇には、数人の女性が引っ付くように歩いているのが視認できる。
察したレイルは道の反対側に渡ろうとしたら、すぐに見つかった。
ロンダがレイルに手を振る。
「おーい、レイル。今日は何してんだ?」
ルドルも女性を両手に抱えている。
「なあレイル。これから食事に行くんだけど、一緒に行かないか? 楽しいぞ?」
こう言う事は嫌なレイルが二人をチラ見する。
「行かない。買い物も終わったから帰る」
ルドルも声を掛ける。
「たまには付き合えよ、賑やかでいいぞ」
「賑やかなのは好きじゃない……帰る」
そんなレイルにロンダとルドルは気にする事無く、気さくに声を掛けた。
「了解、またなー」
「気を付けて帰れよー」
そこに、ロンダとルドルの両脇で立っていた取り巻きの女性達から、棘のある声が聞こえる事となる。




