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第 8話 日常

 天気も良く、日もまだ高いので、さらに森の奥深くに踏み入るレイル。

 どのくらい深く踏み入ったか見当がつかないが、散策し、眺め、森林浴を楽しんでいるレイルだった。

 すると、さらに奥から何やら大きな物体が、ゆっくり、と向かって来るのを感じたレイルは、その方向を見る。

 その先から、大蛇が一体、音も無く現れた。

 全長一〇mほどの光沢のある背が黒褐色をした、可愛らしくも美しい紫色の眼の、女性らしい大蛇が、首をもたげ静かにレイルを見ている。

 レイルは念の為に剣を抜き、構える。が、大蛇は襲うつもりも無く、殺気も無く、たまたまそこを通りかかったか、いや、レイルを察知し見に来たかのようだった。

 その大蛇が、透き通った品のある高い女性の声で話し出した。


「ん? 珍しいの。人の男かの。ん? ふむ、見ればいい男だの」


 スランの事もあるし、話せる事態も気にしないで、レイルは恐れも無く聞き返した。


「最近この地に来て、住んでいるんだ」

「ん? そうか。なら妾を見てどうするかの。ん? 排除するのかの。ん?」

「君の出方次第かな」


 すると大蛇の頭が変化し、上半身が透き通るような色白の肌をした女性の体になる。

 白髪が腰まであり、一糸まとわない上半身の、紫色の眼が愛らしく可愛い女性。

 その胸は大きいのだろうが、白髪で隠れて見えてはいない。

 その変化した大蛇が、両手の平を前に向けて来た。


「丁度いいの。ん? 一応、手合せしてみるかの。ん?」

「いいよ、やろうか」

「妾から行くとしようかの。ん? アイスランス」


 差し出された両手の前に、青白い魔方陣が展開され、長さ一mほどの氷の矢が、レイルに向けて勢いよく射出された。

 だがレイルは、いとも簡単に、片手剣で氷の矢を切り飛ばす。


「ふむ。中々やるようだの。ん? アイスランス」


 今度は青白い魔方陣が幾重にも重なって、連続して十数本の氷の矢が勢いよくレイルを襲った。

 だがしかし、やはり簡単に連続で切り飛ばした。


「ふむ強いの。ん? 妾には勝てそうにも無いようだの。ん? 次はお主のばんだの、どうするかの。ん? 排除されるのかの。ん?」

「いや、何もしないよ。俺も怪我一つないしね。それに君もまだまだ数十倍の余力を残して手加減してくれているのは知っているからさ」


 上半身が大蛇に戻る。


「お主は優しいの。ん?」


 そこに、スランが手合せを察知したのか、何処からともなく音も無く、滑るように間を割って現れた。


「あるじー、何しているのー。あー、へび姫もー、何しているのー」


 レイルはスランの知り合いと察し、剣を鞘に納めスランに話す。

 へび姫も元の蛇に戻っていた。


「俺は特に何もしていないけど」

「おお、スライムの。ん? お主の知り合いかの、丁度良かったの。ん? 折角の縁を、取り持って欲しいのだがの。ん?」

「いいよー」


 スラン曰く。

 その大蛇は、いつの頃からかへび姫と呼ばれスランと同格でとても強い。

 百年ほど前にこの森で出会い、魔物同士なぜか意気投合した。

 それ以来、屋敷の廻りの森は、スランとへび姫が統一しているので魔物も少ない。

 へび姫は、人型に変化しないと強い攻撃が出来ない。

 蛇のままだと、武装硬化する防御と回復魔法、防御魔法だけ。

 紹介も終わり、レイルはへび姫とも打ち解けた。


「それでかの。ん? いつの間にかスライムが話せるようになったのは。ん?」

「そうだよー、あるじのー、お陰―」


 へび姫とスランは、意思疎通を昔から念波で話をしていた。

 時折、声を出して話す蛇姫を、見よう見まねでわずかながら覚えたスランだが、話す機会も少なく独自ではそれまでだった。


「スラン、かの。ん? 成る程の。名を貰ったかの。ん?」

「そうだよー。あるじが付けてくれたのー。アハハー」


 すると今度はへび姫がレイルに近寄り、いいかの、と、ゆっくり鑑賞するように、レイルを中心にとぐろを巻く。

 殺意も無く、むしろ好かれているようで、レイルも気にしないでされるがままだった。


「んー、レイルは強いの、本当にいい男だの。ん? どこか痛い所はないかの? ん?」


 長い舌で、レイルの顔を中心に、チロチロ舐めまわしている嬉しそうなへび姫。


「ん? 特に無いよ」

「やはりレイルは優しい男だの。ん? 妾の唾液は回復させる力があるからの、何かあったらいつでも言うがいいの。ん?」

「ありがとう、その時はお願いするよ」

「ああ、惚れたの、一眼ぼれだの。ん? 愛おしいのぉ。レイルが愛おしいのぉ。ん?」


 レイルと、とぐろを巻くへび姫の廻りを、二本の触手を上げ音も無く滑るように回り、笑顔を出すスラン。


「アハハー、へび姫―。あるじが好きなんだー。アハハー」

「ん? それがいけないのかの。ん?」

「問題無いよー。ボクも好きだからー、同じー」


 また一人? 人外の仲間が増えたレイルだった。

 そしてへび姫に森を案内され、楽しく談笑しながら散策した。


 日も傾きかけたので、レイルは森を後にする。

 スランとへび姫は森の出口付近で別れた。

 屋敷に戻り、部屋で着替えれば、もう夕食の時間になっていることに気づく。

 食堂に行けば、ミャウが料理を載せた皿を、姿勢よく無駄の無い動きで配膳しているところだ。


「あ、レイル様、申し訳ありません。もう少々お待ちください」

「いや、勝手に来ただけだから気にしないで」


 レイルは椅子に座り、ミャウの作業、しぐさを、綺麗でそつがなく素晴らしい、と見惚れていた。


「ミャウは何をしても絵になるよ、その上綺麗だしね」


 配膳しているミャウが、一瞬だけ止まる、がすぐに続けた。


「何も出ませんよ。お代わりは十分にありますが……あ、わたくしならいつでも」

「いや、やめて。なんでそうなるかな。早く食べよう」

「畏まりました」


 そして夕食。

 食べ始める二人だが、いつも沈黙していて静かだ。

 レイルは、黙々と食べているミャウに、食べている時に話しかけたら失礼かな、と思っていたからだ。

 だが今日は、森の出来事を話し出す。


「今日、森に行ったら、へび姫と名乗る大蛇にあったんだ」


 ミャウは、姿勢正しく美しい仕草で食べている手を止める。


「レイル様、そのような、取るに足らない駄蛇など、気にする事はありません。忘れた方がよろしいか。と」

「でもスランの友達だから、俺も友達になる約束をしたんだ」


 ミャウもへび姫は昔から知っていて、生活の邪魔をしなければ何もしないのが現状だった。


「レイル様も程々にしたほうが……」

「なあ、ミャウ。へび姫も殺したらダメだよ。友達だしさ」

「畏まりました、故意に殺生する事はしない、とお約束します」


 思い出したレイル。


「あーそれ。ミャウは故意にと言っているけれど……」

「ご馳走様でした。お先に失礼します」


 ミャウは、素早く正確に、皿の当たる音も無く重ねて、少し怒っているような表情で調理室に持って行った。

 レイルはそれ以上、聞いてはいけない雰囲気を察し、食べ終え静かに席を立ち部屋に戻る。


 翌日からの鍛錬は、午前中にミャウと、午後にスラン、と変わりはなかったが、へび姫もスランと一緒に手伝いに加わることとなる。

 ルードとの鍛錬は無くなり、現在はミャウに交代していた。

 ルードは、時折外に出て来ては、白髭を撫で、楽しそうに優しい眼で見ている。

 ルードは、スランとへび姫の事は、ミャウと同じで昔から知っていたが、何をするにしても無害だったので、気にも留めていなかった。

 ちなみにルードは、至近距離なら魔法念波で話せるので、昔からの付きあいは少なくともあった。


 ミャウも、レイルとの鍛錬では楽しい様子で、時折優しい表情を浮かべ、情が湧いたように幾度か頬を赤くする場面もあったのだが、無頓着なレイルは知る由も無い。

 午後の鍛錬で、スランとへび姫は、レイルと楽しそうに壮絶な攻防をしているが、時折見ていたミャウは、何故かへび姫に対して、冷淡な眼で冷たい表情だった事は誰も知らない。

 そんな厳しくも充実した日々が続く。

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