プロローグ1
タイトルは仮です。(多分)
よろしくお願いします。
澄みきった空気の中、日が登り始める朝、屋敷の一画にある部屋に窓から日の光が差し込む。
「レイル様、朝です」
張りのある透き通ったようなきれいな声。
一九歳程に見える美しいメイドの女性が、扉を軽く二回叩いて姿勢よく、無駄の無い動きで開き、入って来る。
その容姿、身長一六〇㎝、艶やかな黒髪に割って生える銀髪。縦じまになって透き通った銀髪と黒髪が肩まで伸びているが、今日は後ろで結んでいる。
それはそれでうなじが艶めかしく妖艶だ。
黒い服装に袖と襟が白のいわゆるメイド服。
頭の上には白いフリルの髪留めを付けた、出る部分はしっかり出ているスタイルのいい、切れ長の黒い瞳が冷たさを漂わせる絶世の美女。
一礼して、十帖ほどある部屋で、窓際のベッドに一歩踏み出そうとするが、一瞬止まる。
そのベッドに向けて嫌な表情を見せ、切れ長の眼を更に冷たく細め睨む。
「チッ、またへび姫……駄蛇ですか」
レイルと呼ばれた男の横に、いや、レイルと呼ばれた男の体に優しく愛おしく巻きつく、全長一〇m程あるメスの大蛇。
傍から見ればきつく、苦しそうにも見えるが、そうでもないようだ。
蛇ではあるが、表情も女性らしき美しい紫色の瞳を持った顔を上げ、入って来たメイドに振り向く。
「おお、ミャウ、いい朝だの。ん?」
透き通った高く美しい声を上げる大蛇が、愛情たっぷり、とでも言いたげな、レイルに巻きついていた体を解く。
「邪魔です、退きなさいっ、駄蛇」
ミャウ、と呼ばれたメイドが、一瞬で大蛇の尻尾の先を掴み、軽いひもでも引くように引っ張り出し、後ろの壁に叩きつけた。
「んぎゃっ! 朝っぱらから激しいのぉ。ん?」
「ならレイル様のベッドに潜り込むのは止めなさい、駄蛇」
怪我も無く、痛みも無く、何も無かったように頭を上げる、へび姫と言う大蛇。
「では出て行くとするかの。ん? 腹も減った事だし外に食事をしに行くとするかの。ん?」
「勝手にしなさい」
音は全くしないが、スルスル、と部屋を出て行くのをメイドが見届ける。
日常茶飯事なのか、叩きつけた壁も頑丈なようで、特に壊れてもいなかった。
振り返れば、レイルと呼ばれた男が眼を覚まして頭を上げていた。
男ではあるが、優しく甘い声で声を掛ける白い寝間着の男。
「やあ、ミャウ、おはよう」
「レイル様ならあのような駄蛇など、退ける事は簡単なのではございませんか?」
「うーん、まあ、いいじゃないか。悪気はないのだからさ」
「レイル様は優しすぎます。以後お気を付けください」
「あ、ああ、うん、わかったよ」
振り返り出て行こうとするミャウが、ポソッ、と小言を言う。
「また同じ事を繰り返すくせに……全くレイル様はいつもいつも……」
「ん? 何?」
「いえ、何でもございません。朝食の準備が整っています」
姿勢よく一礼して扉が閉まる。
一つ伸びをしてベッドから降りたレイルと呼ばれた男。
身長一七〇㎝、細身だが引き締まった鋼のような筋肉に包まれた黒髪短髪、黒眼の顔立ちの整った男。
一般で言う優しい表情のいい男だった。
寝室を出て廊下を歩き食堂に入る。八人程が向かい合って食べられる長テーブルのある、広めの食堂。
「レイル様、冷めないうちにどうぞ」
「了解、いただくよ」
この家は大きな平屋建てで豪華な黒塗りの屋敷だった。寝室、食堂、天井の高い居間、ミャウの部屋、他に客間が五つあった。
そして最奥にもう一部屋。使われていない大部屋と書庫。
その屋敷の主人、ルーウェン・レイルツエース・ヴェイル。
正確に言えば、譲り受けた屋敷の現在の持ち主。
「フゥ、今日も美味しかったよ、ミャウ」
「お世辞は不要、と言っています」
レイルに、ミャウ、と呼ばれた美女のメイド。
アーデラ・ミャウラム・メリーニと言う。
「レイル様、食用の肉が少なくなっていますが――」
「了解。今日は狩りに行ってくるよ」
寝室に戻り寝間着を脱げば、体中に大小の傷跡が無数にあった。
相当な戦いなどの場数をこなしている鍛えられた体なのは、一目瞭然だった。
寝間着から着替えて薄灰色の布の服にミドルソードを装備して廊下を歩き、玄関の両開きの扉を両手で押すように開け外に出る。
両手を空に向け胸を張り伸びをするレイル。
「うーん、今日もいい天気だ」
この屋敷の建っている場所。
ここは、標高八千mほどある切り立った山で、山頂より、五百m下の屋敷とその廻りだけ平坦な広場のようになっている。
屋敷の建っている平地だけは高地にもかかわらず、気温も穏やかで、屋敷の左右には、すくすくと育った木々に覆われた広大な森がある。
その森は、山の裏手まで山頂を囲むように広がっている。
人の近づけない、近づかない辺境の地だった。
どうしてそこに屋敷があるのか、どうしてレイルは話が流暢なのかは、のちの話。
外に出て歩き出したレイルは、すぐ後ろを追うように玄関から出てきたミャウに声を掛けられた。
「レイル様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「うん、行ってきます」
両手を前に組み、姿勢よく一礼したミャウに見送られ、歩き出して十数歩。横の森の中から可愛らしい声が聞こえた。
またもや嫌な顔をして、切れ長の眼を細め、声がした方向を睨むミャウ。
現れたのは体長二m、幅二mはある水色の透明色をしたキングスライムだった。
「あるじー、どこ行くのー? ボクも一緒にー、ブギャッ!」
刹那、ミャウが、何処から出したのかロングソードで瞬殺するように、そのキングスライムを細切れにした。
倒したかに見えたが、スライムなので、核を壊さなければすぐにくっ付き元に戻る。
更に次の攻撃をしようとしたミャウが、急にやる気が無くなり剣を下した。
「チッ、硬くなるなど……剣が折れます」
「もおー、ミャウさんはー、いつも止めてってー、言ってるでしょー?」
手のような触手を左右から二本、上に出して、フルフル、と抗議している。
声も発せる上に可愛らしい顔があるキングスライムは、メタルキングスライムに変身して灰色に光っていた。
ミャウが、剣が折れる、と言っていたのはメタル化したキングスライムの体がオリハルコン級の硬度があった為だ。
ミャウは諦めたのか、日常茶飯事のようで、ロングソードを力なく引きずって屋敷に入って行った。
レイルは、いつもの事なので気にする事無くゆっくり振り返る。
「おはよう、スラン。今日は狩りに行くからまた今度ね」
寂しそうだが、聞き分けの良い、スランと呼ばれたキングスライム。
「はーい、了解しましたー、あるじー、気を付けてねー」
水色に戻ったスランは、触手を伸ばし手のように振った。
「ありがとう、行ってくるよ」
――そして数刻。
大きな、大きな獣の肉を軽々と背負って、軽やかに帰って来た。
屋敷の前に下ろせば、察知していたミャウがすぐに出てくる。
「お帰りなさいませ、レイル様。ん、いい肉ですね、ご苦労様です」
「うん、ただいま」
「では、後は私が」
何処から取り出したのか、小刀のような包丁で一瞬にさばき、無駄の無い動きで切り分けた肉を食堂に運び入れた。
肩を叩いて一息入れようとしたレイルに、森の中からスランが嬉しそうに現れた。
本来スライムは表情など無いのだが、レイルに教えられ、少しずつ覚え、今では喜怒哀楽が普通に顔に出せるまでになっていた。
「あるじー、遊ぼうよー」
フルフル、と透き通るような水色の体を震わせ、如何にも遊びたい感があるスラン。
「朝は置いて行ったからね。うんいいよ、少しやろうか」
「わーい」
ボヨンボヨン、と跳ねて体の上部に嬉しそうな笑顔を出して喜ぶスラン。
その巨体で少し埃が立っていたが気にしないようだ。
屋敷の前は広くなっているので中央で対峙する。




