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井戸の少年に恋をする  作者: リョウタ
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 そして、離婚だけでなく転校する事になると母から告げられた。


 最初その言葉はあまりにも受け入れ難く、少女の心に入り込まず、木々の隙間を風が抜けるように、ただ通り過ぎて行った。

 だが事態は着々と進んでいった。片付けをするように言われ、荷物を引っ越しトラックに積み、安アパートに移り、ついには学校を休み、二度と友達に会えなくなってしまった。少女は母に何度も訴えようとして、時に立ち止まり涙を浮かべた。でも母はそんな少女を見て、面倒くさそうに眉間にシワを寄せるだけだった。少女にはその全てが薄情に思え、そんな母の態度が嫌でたまらなかった。

 見た事の無い少し寂れた、店頭やマンションの少ない風景をしばらく歩き、母が小さくて古いアパートへ足を進めた時、少女はそこが自分達の家であって欲しくなかった。だが母は扉を開けた。

 台所は小さく、トイレも狭かった。自分の部屋は無く、四畳程度の居間に自分の荷物を置いた。そこにテレビを置き、少女はしばらく観ていたが、まるで宇宙人の生活を覗いているみたいに、素っ気なく感じ、集中できなかった。畳の匂いがあまり好きじゃなかった。

 一週間家でじっと過ごしてから新しい学校へ入学した。


 当日の朝は今まで経験しなかった程、緊張した。

 母の背中を見ながら、初めての道を歩いていたけど、まるで見えない何かにずっと背中を押されているみたいだった。学校へつくと校長先生が笑顔で迎えてくれた。体育館の演壇へ上がる直前、名前を呼ばれるのが怖かった。名前を呼ばれてから、演壇の前に立った時、何百という視線が刺さり、足が震え、頭が真っ白になった。

 教室に入った時、周りの生徒が自分に悪さをしようとしていると感じてならなかった。昼休みに一人の生徒が声を掛けてくれて、体中の鉄のメッキが剥がれ落ちる程嬉しかった。

 

 初めの一週間は何をしていても不安だった。休み時間になると、孤立するのが嫌で周りの生徒の声がノイズのように頭の中で鳴り響き、自分がその場所で浮いているみたいだった。昼休みになると時間はさらに長くなるので、耐えきれず、教室を出てひたすら校内を歩き回った。

 しかし、元々容姿も悪くなかったし、明るい人柄を持っている事もあって、徐々に周りから容認されていると感じるようになっていった。初めの頃は、疫病神のように周りからの疎外を感じていたけど、時間と共に自分も一人の同じ生徒なんだと周りが認識するようになっていった。休憩時間も苦じゃなくなり、他の生徒の様子を見て笑顔になれさえした。

 

 家へ帰った時、母がいなかった。テーブルの上に書き置きがあった。



 

 





 

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