後かたづけ
仲睦まじい兄妹、いや、身長差があるから親子とも見えるか――
かつての勇者と魔王が手を繋いで歩み去っていく。
ヨルコの胸に去来するのは複雑な感情だった。シャルロット様の想い人が彼である以上、これからどうなるのか、考えただけで頭が痛い。
「はぁ……」
ヨルコは深くため息をつく。
問題は山積みだ。
さしあたっては、夜明けとともに目覚めるシャルロット様の説得。
シャルロット様にとっては夜の間にユイス様に置いていかれたようなものだから、ただでさえ相当な癇癪が予想できる。
さらに私が巻き込んだせいとはいえ、ユイス様にも危害が及びそうになった事情を下手に明かそうものなら、それこそ本当に一つの宗教の消滅や大虐殺すら起こり得る。絶対にしくじれない綱渡りだ。
「とりあえず、王に報告はしておかないと……」
シャルロット様はおそらく勇者ユイス様の復活を隠したりはしない。ことはすぐに公になる。国家最大、いや世界最大戦力と言っても過言ではないシャルロット様を、意のままに操れる可能性のある彼の存在は世界に激震を走らせるだろう。
その情報をいち早く掴みながら報告を怠れば、余計な敵を作ることになる。今回の事件で身に染みた。多少嫌な思いをしてでも敵は作らないようにした方がいい。後になって、よりにもよって大変な時にそのツケを払わされるのはごめんだ。
本来ならもっと報告する相手を吟味すべきだが、まずは最大派閥のトップという無難なところで手を打つ。敵を作らないという意味では、貴族派や軍閥の首領にも伝えておかなければならないが――
「片はついたみたいやな」
いつの間にか、クラフトが歩み寄ってきていた。気配がなかったことに多少ぞっとするが、気疲れしていたせいということにする。
「シャルロット様は?」
ヨルコが尋ねると、クラフトが何でもないことのように応じる。
「馬車は宿屋の裏手に回しただけや」
「そう。じゃあ、あなたはずっと見てたわけ?」
「だいたいは見てたで。災難やったな」
「大変なのはこれからよ。あいつらの正体はわかったの?」
「見当は付いとるが、一応はあいつらの落としていった武器やらも調べなあかんな」
言いながら、クラフトが懐から鳩を取り出して放つ。鳩の足には小さな紙切れが結ばれていた。伝書鳩だ。
「もういいやろ?」
クラフトが主語の抜けた事後確認を投げかけてくる。
情報は金になる。おそらく彼は商人仲間へ先代勇者復活の報を送ったのだろう。それを私の前で行うことは彼なりの公平性というか矜持があるのかあもしれないが、だから何だというくらいの感想しか抱かない。これまでに不確かだった情報を無闇に流布していないとしても、この男に対して元からある評価は上がらない。
「稼いだ以上には、あなたにも協力してもらうわよ」
「下手したらまた世界滅亡の瀬戸際や。ホモとして協力しないわけにはいかんやろ。あの勇者様の行方はちゃんと掴んどるんやろな?」
「追跡用の魔法製羊皮紙を渡しておいたわ。捨てにくい高級なやつをね」
「あの人が本物なら、監視の金に糸目はつけんのは当然や。わいもホモとして当然『目』と唾をつけといたで」
半壊した宿屋、散らばるゴーレムだったものの破片、気絶した神父、二人が歩いて行った方向と順繰りに目をやってから、クラフトがヨルコを見る。
「つーか、あの魔王はなんなんや。マジで死人を蘇らせたんか?」
「それはわからないわ。いくら召喚する相手を『条件付け』によって厳選したとしても、死人までは……まぁ、ちょっと次元が違うわね。私でさえ理解の及ばない魔法よ」
「今まであの魔王をけっこう蔑ろにしてきたと思うんやが、そのへんは大丈夫なんか?」
報復を危惧するクラフトの発言に、ヨルコは苦い思いで応じた。
「強さで言えばシャルロット様の右に出る者はいないわ。やっぱり問題はユイス……ポチの方よ。破滅主義者ではないようだけど、今回の件で宗教や人種差別的な考えに陥っても不思議じゃない。シャルロット様がそれに従ってしまったら――」
「どうにかして怒りを鎮めてもらうしかないわな」
「それほど怒っているようには見えなかったのが、まだ救いね」
憤慨しているというよりは、悲嘆に暮れているように見えた。だが、攻撃的な反応ではなかったからといってぬか喜びできるはずもない。本来なら賞賛の嵐を持って迎えられるべき人に、あのような顔をさせてしまったのは私の判断ミスによるものだ。慎重を期した結果、私のゴタゴタに巻き込んだという最悪の形。
「まぁ、あの人のご機嫌取る方法ならもう思いついとるけどな」
自信満々に胸を張るクラフトに嫌な予感を覚えつつも、今まで余計な一言は挟みつつも一応は真面目な話をしていたんだし、急に変なことを口走らないだろうという期待を込めて尋ねる。
「どんな案があるの?」
「ロリの美少女軍団送ればいいだけや」
「……そうね。シャルロット様の不興を買わなければいいけれど」
馬鹿げた提案かと思いきや、案外それでどうにか乗り切れそうだとヨルコは思った。




