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浸透圧とジャージ女  作者: Coo...
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第八話  「長方形の描き方と正確な膝蹴り」

「まったく。女の子にヒドい事を言うモンじゃないわよ。」

「事実を指摘すると怒られるのは古今東西…。」

「あぁんっ!?」

 そんな訳で、マジギレさせたのは悪かったと思う。が、何故か僕がご機嫌を取らないといけない空気になっているのは理解に苦しむ。

「ふむん。コミュ障ってやつですね。ご存じですか?」

「私が知っているコミュ障って言葉はあなたにこそ適用される言葉ね。」

「ちょっとした言葉の行き違いって怖いですよね。こちらとしては褒めたつもりなんですが…」

「あれが、褒めたつもりならば日本語のアイデンティティが崩壊するわね。」

「まぁ、細かい説明は省きますが…、僕の言いたかったことは説明がうまくてあの絵でも説明が分かりやすかったということですよ。ほら、褒めてる。」

 先輩はうなずく代わりに、右こぶしで左の手のひらをたたいた。パンっといい感じの破裂音。やりなれている感じ。この人、ホントに神学校の生徒か?

「えっと、一応聞いておくけど……。ねぇ。お腹がいい?顔がいい?」

「どっち選んでも、殴られるんでしょ?」

「選択肢があるなんて、なんて優しい私。」

 ため息をついてから肩をすくめて聞く。

「両方いやだといった場合、どうなるんです?」

 先輩は少しニヤリとしてから、ふと窓際をみる。思わずつられて窓際に目をやった瞬間、太ももに膝蹴りを食らった。

「そりゃこうなるのよ?」


       ■


 視線誘導からの膝蹴り。どう考えても手慣れている。正直、人生でこんなに誰かに叩かれたり蹴られたりしたことはない。とは言え力加減はしてくれているようで、そんなに痛くはない。が、決して痛くないわけではない。

「先輩ももう高校生なのですから、何でも暴力で片付けようとしないでください。暴力反対です。」

「そこまで言うなら、アナタ綺麗に長方形描けるんでしょうね。」

「えっ、何でです?。」

「人を非難しておいて、描けないとは言わせないわよ。」

「描けない。」

「大丈夫。君ならできるさ!」

 即答するも、拒否られた。

「大丈夫。上手く描けなくても、笑ったりしないわよ。思いっきり見下した目で見るだけ。はい。チョーク。」

「あー、くそっ。自信ないなぁ。」

 と、チョークを受け取ってから棒読みで返す。

 実のところ、僕は意外と絵、と言うか落書きやフリーハンドで線を描くのは得意だったりする。子供のころに父さんに仕込まれたからね。

 具体的に言うと、小学校5年生の頃に夏休みの宿題で描いたポスターの出来が良くて、同級生に親が代わりに描いたと陰口をたたかれて、枕を涙を流したくらいには、得意だ。

 ポリポリと、頭をかきながら不安げに黒板の前に立つ。

「言うは易く行うは難しというのを体感するが良いわ。」

 ふんっ、と鼻を鳴らす先輩。


 はっ!あほが!


 直線は手首でちまちまと描くと歪むもとなので、腕全体を使って一気にさっと描く。次に平行線はチョークを人差し指と親指で挟んで、小指をガイドにして、最初に引いた直線に沿わせて描く。交差する線も同じ。

 あっという間に歪みのない綺麗な長方形が完成。対角線も同じ要領。手首で描くのではなく腕全体で描く感じ。まるで線引きで引いた様な長方形&対角線。

 我ながら綺麗に描けた。

ちゃんと比較できる様に、先輩が描いた謎の図形の横に描いたのもポイント高いね。

「いや〜。先輩の言う通りっすねぇ。すいませんでした。」

「……っ腹立つ!」

「ははは。どんな気持ちですか?どうせまともに長方形なんて描けないと思っていた、そんな後輩がちゃんとした長方形描いてみせて。ねぇ。どんな気持ちデスかぁ?」

 少しの間、下を向いていた先輩はおもむろに黒板の前にいる僕の胸を押した。さすがに、怒らせすぎたか。

 と、愁傷に思っていたら、おもむろに黒板消しで両方消された。

「あら、ごめんなさい。黒板がよごれていたのでね。」

「いぇ、こちらこそ気が回らなくて…。先輩がそんなアレな人とは思っていなかったので。」

「アレって何よ。アレって!……、ところで、この前のアジ、何したの?」

「無理矢理話を変えましたね。」

「こ の ま え の ア ジ、な に に し た の?」

「…。フライパンで焼きました。でも、やっぱり見切り品はダメですね。生臭くて。」

「はぁ!?アンタ何言ってんのよ?ちゃんと下ごしらえしたら生臭いわけないじゃない。今まで、どうやってご飯食べてきたのよ?」

「あぁ、えっと…。」

 年上とは言え、ほぼ初対面の女子に家庭の事情を吐露するのは如何なものかと迷う。でも、よくよく考えたらすでに教室で知りたがりの女子に言ってしまっているので別にどうでもいいか。

「実はかくかくしかじかでして。」

「なるほどなるほど。でも、私とアナタは、まだ、かくかくしかじかで全てがわかり合えるほど知り合ってから長くないわよ?」

「ちっ、先輩のくせに、正論を。ぐぁっ!」

 また、太ももに膝蹴りを食らう。一々正確に同じ箇所を狙ってくる。

「ちって口に出して言う人って本当にいるなんて…。やったね。世界は新しい発見に満ちてる!いいから、お姉さんに言ってみなさい。」

「生臭いの我慢して、フライパンで焼いて食べてました。」

「うわぁ。」

 なんか汚い物を見るような目で見られた。

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