序 「両親の突然の離婚」
唐突な父さんの転勤に、僕の家庭の空気は一変した。
つまり、ダムが決壊したのだ。
以前からほとんど崩壊していた家族の絆は、なんとか父さんが県職の地方公務員で県庁舎勤務であると言うステータスで危ういバランスを維持されていた。いや、母さんの堪忍袋が保たれていたと言うのが正確だと思う。
実際、突然決まった父さんの県庁舎から北の端の山村転勤と言うあからさまな左遷から、両親の離婚までのスピード感たるや凄まじいものがあって、なんと引っ越し先が決まるより先に離婚が成立してしまった。
元々、二人の中が維持されていた事が奇跡だったんだと思う。
息子の自分としては二人に恨みはないし、当然な事だと思っている。無理を重ねて家族を続けるより、賢い選択だと思う。
小学生の頃に死んだおじいちゃんはよく言っていた。
「恨みは川の流れに書き込め、恩は心の中の岩に刻み込め。」
それはないだろうと思う。泣き寝入りかよ。
あんまりだ。
それでも僕の人生観というか、考え方に強く影響を与えていた事も事実なわけで……。
そんな訳だから、折角受かった県有数の進学校に行くのを止めて、僕は父さんとこの町に来たんだ。