魔王城着いたなう!
魔王を倒して世界を平和にする旅も総仕上げだ。
俺は鞄からタブレット端末を取り出した。
「魔王城着いたなう、っと」
慣れた手つきでタブレットを操作して呟きを更新する。
最初はこのタブレット対応ガントレットの鈍い反応に苛立ったりもしたが、今では激しい戦闘を戦い抜いた歴戦の相棒だ。
やはり防具をつけたまま操作ができるというのは安心感が違う。呟いている最中にモンスターに襲われたらかなわないからな。
呟きはこれでちょうど三万件に達したところだった。
これが最後の呟きかもしれないと考えると、全身の震えが止まらない。
魔王に負けてしまえばツブヤイターのアカウントは永遠に更新されなくなる。
「これは負けられんな」
俺のフォロワーはすでに百万人を越した。
更新が停止してしまうことは俺を応援する多くの人に面目が立たない。
いや……何を恐れることがあるんだ。フォロワー百万人だぞ?
いまや魔王など恐るるに足らない。
思えば、駆け出しの頃は最も弱いモンスターとされるスライムにも苦戦したものだ。
ツブヤイターのフォロワーの知人の数人程度。
俺が魔王を倒して英雄になると言ったら、学校のクラスメイトのやつらに笑われた。
俺を笑ったやつらはそこそこ有名なツブヤイタラーでフォロワーは全員五百人前後、喧嘩も強かった。
強いから喧嘩に勝ち、勝つからフォロワーが増える……好循環だ。
やつらを観察して俺も気がついた。勝てばフォロワーが増えると。
策を弄してスライムを倒し、試しに記念写真をツブヤイターにアップロードしてみた。
するとなんということか、フォロワーが嘘みたいにぐんぐん伸びるじゃないか。
ステップアップして少し強いモンスターを倒したら、それが反響を呼んでまたフォロワーが増えた。
フォロワーが千人を越した頃には遠出もできるようになり、旅の目途がついた。
旅に出てからは人助けをしたり、悪の邪教団を壊滅する、古い文献に存在が記されている秘宝を発見するなど、フォロワーを増やすための宣伝活動を惜しまなかった。
たまに武具屋や宿に立ち寄ると、俺のフォロワーがいてリアルで応援してくれたのも精神的な支えとなっていただろう。
本当に多くの人に支えられながらついに、ついに魔王城へ着いたのだ。
うん、震えが止まった。
俺はここで足踏みしているわけにはいかない。
終わらせるんだ。この――――魔王を倒してフォロワー数を増やす旅を!
手段と目的が逆転してる!!
本当は魔王「俺のフォロワー数は一千万だ!」とか、魔王がツブヤイターの管理人とか、魔王城がツブヤイターを維持するサーバーそのものだとかやりたかったけど面倒くさかったからやめた。(笑)