村の事件
村のはずれに実験場があった。ロールパンのように不敵なたたずまいをした白い建物だった。駐車場と看板はなかった。それを実験場というのは、中で何をしているのか不審に思った近隣住民がそう呼んだのだ。その実験場で内密にある観察が進行しているらしいと専らの噂だ。確かに科学者たちはもう何日も残業を強いられてストライキを計画していた。だがその観察というのも自分たちのやっている行為がなんなのか解らない科学者がそう呼んでいるにすぎなかった。
観察の内容は以下の通り。ガラスの向こうで踊っているマンザレ・デモナイトを虱潰しに踏みつけながら白髪の科学者たちが唾を吐き吐き記録をする。それに従いレポートが作成される。書類は実際に近隣の住民たちのもとに届けられる。先ほど言ったように住民は彼らが何をしているのかについて一切関知をしていないが、結果として事実と推測が混同される。
公然の秘密が情報開示のあおりを食らって失脚しつつある日の午後、科学者たちが一斉に気づいた、可愛い子らがいないぞ、これでは計画中の賃金闘争も開始できないぞ、可愛い子らが消えてしまった!
研究所はその日以降マンザレ・デモナイトの捜索を開始した模様であるが一切は詳らかでない。捜索は白い象牙の色をした研究所内で行われたからだ。この間にも送られてくる記録は難解を極めそれでも苦労の程は伺えたが住民は流行と数学的冒険に関心を示さない。しかしあるとき記録は一斉に可愛い子らを拐った当の本人を見つけたと絶叫したので村民はこれは久しぶりに首が吊られる一部始終を見られるかもしれぬと広場まで出てきたのだ。
広場に科学者たちが踊りながら入ってきた、マンザレ・デモナイトと一緒に踊りながら入場した、これは実に楽しい見ものだ、犯人なんていなかった、可愛い子らは、ちょっと一休みしたかっただけなのだ。村の住人は手を叩いた。科学者たちは白髪を振り乱した。踊りが終わった。それからマンザレ・デモナイトが一斉に煙草をふかし始めたので近隣住民は容赦なく広場にいた科学者と可愛い子らを撲殺した。