第八話 鬼姫
おかん!w
―第八話―
鬼姫。
数日後
「リオ、これは任務だ。エリザベス・グランデ議員をこの艦まで護衛してきてくれ。もちろん、お忍びのはずだから秘密裡に行ってくれ。」
「…はい、わかりました。」
あまり気乗りしないリオ。
「リオ、リベルタ、出ます… はぁ…」
出撃にもいつもの覇気が見られない。
数時間後
「リオ、帰艦しました。グランデ議員をお連れしました。」
「うふふ、来ちゃった。」
ツヴァイ・レイボルトにやってきたリズ。
「ジョー! ちゃんと艦長やってる?」
「はいはい、ようこそグランデ議員。」
「艦内のみなさん、リオ・グランデの母親の、エリザベス・グランデでーす!!」
クルーたちからは、
「おい、本物の鬼姫だぞ。」
「母親っていうより、お姉さんみたい…」
「グランデ議員がいるなんて夢みたい。」
リズは、国民の人気を集める政治家なのである。統一戦争の英雄という経歴に加え、その美貌。国民の利益のためなら断固として戦う姿勢。次の地球連合大統領に最も近いとされている。そのような人物が自分たちの艦にいる。そう思うと、クルーたちも熱狂的にリズを歓迎した。
二人を除いて。
「リオ、しっかりと見張っておくんだぞ? 何をしでかすかわからん。」
「わかりました。勝手なことをしないように、あとでちゃんと言い聞かせておきます。」
「お母さん、お部屋に案内するわ。」
「あらそう? 私はリオと一緒の部屋でもいいのよ?」
「や、やめてよ!」
「どうして? 久しぶりにお母さんに甘えたいんじゃない?」
「いいから、こっち来る!」
「照れちゃって。じゃあみなさん、また後で。」
「ねぇ、いきなりどうして遊びに来るなんて言いだしたの?」
「可愛い一人娘が心配で。」
「私は大丈夫だから…」
「それに、ジョーとも直接会って話したかったし。」
「いい? ここは軍艦なの。あまり勝手に動きまわらないでね?」
「私だって昔は軍人だったのよぉ。」
ふくれるリズ。
「今は違うでしょ? 私だけじゃなく、連合の人々にとっても大事な人なんだよ?」
「ありがとう、リオ。わかった。お母さん大人しくしてるわ。」
「じゃあ、仕事に戻るね?」
「ねぇ、艦内を見学するくらいならいいでしょ?」
「それくらいならいいよ。でも迷わない?」
「ここのクルーはみんな親切だもの。大丈夫よ。」
「そうね。じゃ、またあとで。」
リオを見送ってから
「格納庫に行ってみますか… パイロットの血がうずくわ。」
「キャプテン、やつらです!」
「こんなときに… 各員戦闘配備!」
「私が行きます、キャプテン。」
「リオか、頼んだ。」
モニターを見ながら命令を出しているジョー。だが、この時、違和感を感じていた。
「リオ、だよな…?」
そこに、今送り出したはずのリオが慌てて入ってきた。
「リオ? 今、格納庫に行ったはずじゃ…」
「え? 何のことですか? それよりも大変です、お母さんがいないんです!」
そこでジョーは気付く。
「違和感の正体はこれか! 今出撃しようとしているのは、リズだ! 止めさせろ!」
その頃
「うまくいったわ。リオの制服も着れちゃったし、久しぶりに行っちゃいますか!」
出撃に向かうリズと整備士が鉢合わせする。
「リオ! 出撃か? 気を付けてな!」
「え? えぇ、ありがとう。」
「危ない、危ない。ばれるところだったわ。」
「おい! どこ行くんだ? リベルタはこっちだぞ。そっちには古いのしか…」
「古いとは失礼ね! まだまだ現役よ!」
「あぁ、すまなかった… でも、リベルタには乗らないのか?」
「今はそういう気分じゃないの、じゃあね!」
「変なリオだなぁ…」
「ふぅ、なんとか巻いたわ。ほんと、久しぶりね。ちょっと昔を懐かしんで、こほん…
エリザベス・フィオネ、GA01-Sr、出るわよ!!」
この音声は勿論、ジョーとリオにも聞こえた。
「間に合わなかったか! リオ、リズを守れ!」
「わかっています!」
急いで格納庫に向かってくるリオに、先ほどの整備士が、
「あれ? リオ、お前さっき…」
「さっきのは、お母さん! 本物は私! 何、騙されてるのよ!!」
「え? え?」
「リオ・グランデ、リベルタ、出ます!!」
戦場では、テス率いる一個隊が暴れていた。
「物足りないわねぇ。ご自慢のリベルタはまだかしら? …あら?」
テスの乗るアヴィス目がけて突っ込んでくる、今となっては旧式の機体。
そう、リズのセイレーンである。
「随分と古臭い機体ねぇ。博物館から持ってきたの?」
「新しければいいってものじゃないのよ!」
「その声は… グランデ議員さまじゃない。娘はどうしたの?」
「心配しなくても、後から来るわ!」
「いい加減、子離れしたら?」
「ごちゃごちゃ、うるさいわね!」
さすが鬼姫である。旧式機体で、長らく戦闘から離れていたのにも関わらず、新型のアヴィスと互角。いや、圧倒し始めた。
「ぐっ、このあたしが押されてる!?」
「あらぁ。さっきまでの威勢はどうしちゃったの?」
「黙れクソババァああああ!!」
ヒートアップしていく二人。
「小娘ごときがぁ!」
「アハハハハハ。」
「何、笑ってるのよ!」
「楽しいわぁ。でもそれも、もう終わり。周りを見てみな!」
「なっ!?」
敵機がセイレーンの周囲をぐるりと囲んでいる。
「私もヤキが回ったようね。」
「うふふ、さようなら。」
「させるかぁあああ!!」
セイレーンを取り囲んだ敵機が一瞬で壊滅した。
「リオ!」
「お母さん! 間に合ったみたいね。」
「うぐぅ… リオ・グランデ…」
「私に会いたかったんでしょう? それにしてもすごい火力だわ、このユニット。」
リオ、出撃直前。
「さっきのが、グランデ議員…?」
「そうよ!」
「この気持ちの高ぶりはもしかして…」
「なに、ぶつぶつ言ってるの? 私急いでるんだけど!」
「あ、待て。これを使えよ。急いでるなら尚更な。」
「これ、何?」
「ヴュアル・ユニットだ。爆発的加速と圧倒的火力を同時に出せる、優れものだ。」
「なんでもいいわ、とにかく急いで!」
現在
「ちょっとじゃじゃ馬だけど、行くわよ、リベルタ=ヴュアル!」
セイレーンと背中合わせに構える、リベルタ=ヴュアル。
「雑魚は任せたわよ、リオ!」
「仕方ないから、今日だけは見せ場譲ってあげる。」
「落ちろぉお!」
アヴィスがセイレーンのブレード装備の右腕を切る。
「ちっ。ならこれはどう?」
切られて上方に上がった、右腕部へと急上昇するセイレーン。
「何のつもりだ!?」
刃をアヴィスに向け、蹴り押しながら突っ込む。
「これが、歴史よ。」
「そんな戦い方、むちゃくちゃよ!」
なんとか受け止めるが、力負けしてしまう。
「戦場に常識なんか通用しないわ、お嬢ちゃん。」
「くそ! 押し切られる!?」
「かはっ… はぁはぁ、退くわよ! 次はあんたたち二人を消し炭にしてやる!!」
屈辱感にまみれながら撤退するテス。
「お母さん! さすがね。」
「リオ、まだまだ若いのには負けないわ。」
「私たちも帰ろう?」
「連れて行ってくれない? 今ので活動限界が来ちゃって…」
「無茶するからよ。それと、後からお説教ね。」
「え? いや、はい、反省してます。」
帰還した後、国民の期待を一身に集める鬼姫が正座で説教を受けるというレアな光景が、ツヴァイ・レイボルトで見られた。
それが終わったあとの彼女の一言はこうである。
「うぅ… 足痺れた…」