第四話 潜入
素顔では初めて会う3人のお話
―第四話―
潜入。
「リオ・グランデ、エディンバラ、出撃します!」
あの戦いからも、旅団との戦闘はたびたびあった。が、我々の前にミラン率いる本隊は現れなかった。リオは、どんなGAも乗りこなし、この艦のエース格の貫録も出てきた。
「今回も現れないか…。どういうつもりだ。」
「キャプテン、敵の掃討を確認、帰艦します。」
「あぁ。ご苦労だった。」
最近の旅団との戦いは、なんというか、本気の戦いではない感じで、旅団も少し攻撃して、散らばって、を繰り返すばかりだ。
かと言って、そのあとに大勢で仕掛けてくるわけでもない。
「嵐の前の静けさ、というやつか…」
「キャプテン! 脱出用小型船を発見。中に人がいるみたいです。」
「そうか。リオ、その小型船を保護する。彼らを護衛しつつ帰艦しろ。」
「了解。」
「これね。 大丈夫ですか? みなさん、私は地球連合軍所属、リオ・グランデです。あなたがたは我々が保護します。もう危険なことはありませんよ。って、二人しか乗ってない? いや、とにかく保護よ。行きますよ。」
この戦闘より少し前。旅団戦艦ヴァ―ヴァリアン
「ハロー、あ・た・し。テスよ。元気だった? もう、相変わらずなんだから。ちょっと頼まれてくれないかしら? え?見返り? そうねぇ… 今度会ったら、あたしのこと好きにしてもいいわよ。 ほんと。 調べてほしいことがあるの。ミラン・ウォーレンとグランデの関係性についてよ。なんでもいいわ。 あなたにしかできないと思って。お願い。やった♪ ありがとう。 うん、あたしも愛してる。よろしくね。」
「電話か?」
「えぇ。ちょっと大事な… って、マリア!? あんたいつからそこに?」
「『やった♪ ありがとう。 うん、あたしも愛してる。よろしくね。』のところからだ。猫をかぶることに関しては右に出る者はいないな。」
「一言多いのよ、あんたは。で、何の用?」
「ボスが私たちをお呼びだ。なにやら重要な任務らしい。」
「ボス、マリアです。」
「テスよ。」
「入れ。」
「それでご用というのは?」
「潜入捜査だ。」
「?」
「?」
ミランの言っていることが飲み込めない二人。
「お前たちには、連合の戦艦、ツヴァイ・レイボルトに潜入して情報を持ち帰ってほしい。」
脱出用小型船内
「なんでこんなことに…」
作戦の内容はこうである。旅団が小規模な戦闘を仕掛けて、そのどさくさに紛れて二人の乗った偽装脱出用小型船を放ち、連合に保護させる。潜入した二人は情報や機密、技術などを調べ、帰艦する。旅団本隊ヴァ―ヴァリアンや、彼女たちが戦闘に現れなかったのはこのような事情があったためである。
そして、
「大丈夫ですか? みなさん、私は地球連合軍所属、リオ・グランデです。あなたがたは我々が保護します。もう危険なことはありませんよ。」
先ほどのシーンに至るのである。
「あ、ありがとうございます。も、もう安心ね。リリア?」
「へ? あ、そうですわね、ステラお姉さま。」
「では、私のGAに乗せていきますので、しっかりつかまっててください。」
リオから小型船に入っていた通信が切れる。どうにか作戦の第一段階は成功したようだ。
「おい、今、リオ・グランデって。」
「あぁ、よりにもよって。って、なんだ、リリアというのは?」
「仕方ないでしょ! あたしも動揺しちゃったのよ! あんたもステラお姉さまって。」
「貴様のほうが年上だろう? 姉妹のふりをするのが自然な流れだ!」
「だったら、毎日年上のあたしを敬いなさいよ!」
「もうすぐ着くぞ。」
「流すなぁ!!」
ツヴァイ・レイボルト内
「着きましたよ。戦艦ツヴァイ・レイボルトです。」
「どうも、ありがとう。」
「あ、ありがとうございます。(やっと会えたな、リオ・グランデ!!)」
「あの、私の顔に何かついてます?」
「い、いや。リオさんみたいな可愛い女の子もパイロットだなんて。あ、憧れちゃうなー。」
「いいえ、毎日危険と隣り合わせですので、おすすめはしませんよ? もし、よろしければお名前を?」
「そうですよね。助けていただいたのに名前の一つも名乗らないのは失礼ですよね。私は、リリア… リリア・ヴァーヴと申します。」
「あたくしはこの娘の姉の、ステラ・ヴァーヴです。このたびは本当にありがとうございました。」
「いえいえ。では、改めて。私はリオ・グランデです。まずはキャプテンのところへご案内します。」
「キャプテン、リオです。保護したお二人をお連れしました。」
「入れ。」
「こちら、ステラ・ヴァーヴさんと妹さんのリリア・ヴァーヴさんです。」
「私はこの艦の艦長、ジョー・カタオカです。このたびは災難でしたね。でももう大丈夫です。お二人の安全は保障します。」
「ほんとうにみなさんにはどう、お礼を申し上げたらいいのか…」
「お気になさらずに。お二人ともお疲れでしょう。リオ、お部屋に案内して差し上げろ。」
「はい。それではこちらです。」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします。」
「こちらの部屋です。狭いかもしれませんが。」
「いえいえ、ありがとうリオさん。連合の方ってご親切なんですね。」
「それでは、なにかあったら、遠慮なく言ってください。」
「はい。お仕事頑張って。」
リオが去る。
「(あのカタオカって男のオフィスに飾ってあった写真… カタオカ本人、連合の英雄、評議会議員、そしてミランに似た男、の四人が写っていた。これはもしかすると…)」
「おい、テス? 何をぼーっとしてるんだ?」
「なんでもないわ。さて、お仕事の時間よ。」
「なるほど、軍事データも手に入ったことだし。そろそろ…って、テス? まったく、どこに行ったあの女。」
「やっぱり。ミラン、あなたの真実に近づきつつあるわ。」
「テス! 探したぞ。何かいい物はあったか?」
「えぇ。原石がね。」
「?」
「ステラさん? リリアさんもそこで何をしているんですか?」
リオに見つかる二人。
「ステラ? 誰だいそれは。あたしはテス・ラーゲットよ!」
「え?」
「やぁ、リオ。私の本当の名は、マリア・レーヴィだ。いままで黙っててすまなかった。」
「あんたたち、こないだの旅団の!!」
「大事な情報はもらったわ! それじゃ、あたしたち帰るから。」
「戦場で会おう。」
何かを床に投げつける二人。
「え、煙幕!? なんて古典的な。って待ちなさぁい!!」
「さぁ、帰るわよ。リリア!」
「さっさと出せ、ステラお姉さま!!」
偽装脱出用小型船に乗り、猛スピードでツヴァイ・レイボルトから逃走する二人。
「何事だ!?」
「キャプテン、緊急事態です。奴らは旅団のマリアとテスで、機密を盗まれました! ハノーヴァーで追います!」
「奪い返せ! 何としてでもだ!」
「ここが待ち合わせ場所なんだけど。」
「追ってくるぞ! ボスたちはまだか!?」
二人の前に現れるGA03-Dgに酷似した機体。ミラン・ウォーレン自ら迎えに来たのだ。
「よくやった。二人とも。帰ろう。」
ヴァ―ヴァリアンに帰艦する三人。
「くっそ! 見失った!!」リオが追いかけた先には、もう誰もいなかった。