第4話「気付いてしまった也」
「・・・・ぉぃ・・・ぉい・・・おい!」
「へ?」
「へ?じゃねえよ!急にどうしたんだ一体?顔色悪いぞお前、大丈夫か?」
「え?あ、はい、スンマセン。大丈夫っす。」
八千代は混乱していた。街に行き、プレイヤーに会えれば何とかなると考えていたのだ。そこで改めて八千代はこの世界に降り立った時から今に至るまでに感じていた違和感を思い返していた。
メニューウィンドウが開かない事や過度の痛覚、緻密で高度な受け答えが出来るMOB達、食事を摂る事でお腹が満たされた事等、いずれにしてもゲームにしては考えられない出来事ばかりであった。それでも一応の説明がつくと思っていたのだが、ここにきて無視出来なくなっていた。
メニューウィンドウが開かないのは街に辿り着く迄がイベントだったと思えば理に叶うし、緻密な受け答えが出来るMOB達に対してはそう云う高度なシステムなのだと割り切れない事も無い。そもそもVRMMO事態が非常に高度なシステムなのだ。
だが納得いかない事もあった。その中でもやはり一番捨ておけないのは過度に痛みを感じる感覚で、VRMMOと云うシステムを導入し、その中で戦闘行為を繰り広げるならば、一番気を使う筈だ。よりリアルな戦闘演出だったのだとしても、精々が赤子に撫でられる程度の痛みだろう。誰が好き好んでわざわざリアルな痛みを感じたい人間が居るのだろうか?そんな者は特殊な性癖を持つ愛好家だけで良い。
ログアウトした後、カスタマーサービスに痛覚の事も含めたシステムエラーやバグとして報告(上手く行けば賠償金が請求できるかもと打算的な考えもあったが)すれば良いと思考の片隅に置いてはいたが、いよいよギルドにプレイヤーが一人も居らず、尚且つMOBしか居ない等と云った事態は到底考えられるものでは無かった。
もしこれまでの違和感が無く、ただ単にプレイヤーが此処に居ないだけだったのだとしたら何等かのイベントクリア後に接触可能だと考えられる余地もあったのだが、度重なる異変に対してますます自分の考えへの不信感が募り、結果有り得ない事だと解ってはいるがある言葉が頭を過る。
(・・・・転移?ははっ!んなもんある訳が・・・・)
・・・・・否定できなかった。
どちらの方が確立が高いのだろう?異世界に転移する可能性とシステムエラーやバグが影響し、プレイヤーが存在しない限りなく現実に近い五感を維持したまま世界に取り残された可能性を・・・・だが、そんな事を言いだせば幾らでも色々な可能性が出てくる。
今挙げた可能性のどれもが非現実的で到底受け入れられる話では無い。だが実際問題として受け入れる受け入れないは別にしても、このままこの世界からログアウトが出来ない場合は、この世界がゲームであろうと異世界であろうと、現実として生きていかなければならない。
どちらにせよ判らないと結論付けた八千代はそれ以上、自分が置かれているであろう様々な可能性を考える事は一旦、放棄した。
(取り敢えずどうしようか。他にプレイヤーが存在する可能性は有る筈だ。俺が世界で一番最初にログインした人間である筈が無い・・・・俺が最後に転移した人間だったとしても、相当数の人間がこの世界のいずれかにバラバラに転移しているかも・・・まずはプレイヤーを捜そう。時間があるのかどうかは良く分からないけど、もし寝ているだけだったら家の奴等がなんとかするだろ。アホみたいな話だけど、もし転移だった場合にしても帰る方法云々は他のプレイヤーを捜してからでも遅くはない・・・か?)
八千代はそう結論付けた。仮に機械の故障だった場合、当然世間は大騒ぎになっている筈だ。上手くいけばそう遠く無い内に強制的にログアウトされるだろうし、仮に直ぐでは無くても病院で体調管理されている筈だと考える。不安は多々あるがどうにも出来ない以上、まずは出来る事からやるしかないと結論付け、まずはこの世界で生計を立てれる様に行動しなければならない。
(ともすれば、ここはやっぱ定番でお馴染みのハンター稼業だな)
「よしっ!ハンター王に俺は成るっ!」
「うおっ!何だいきなり!?」
「オッサン!俺はハンター王に成る!
「お、おう・・・な、何か知らんが、がんばれよ?」
「それで、ハンター王になるにはどうしたら良いの?」
「ハンター王は分からねえけど登録はあっちの受付だ」
八千代は礼を言うと教えられた受付カウンターに向かい、職員にハンター王になりたい旨を伝え、登録用紙を貰い記入しようとするが文字が書けない。ハンター王への道のりは遥か遠くに霞んで往くのであった。
(も、文字は読めるんだけど字が書けねえ・・・・)
ハンター王になると言った手前、ハンター王云々の前に字が書ける様に成ったら?と思われる事に赤面しながら受付のお姉さんに代筆を頼んだ。そしてこれで今日からハンターの一員だと張り切るのだが、お姉さんに身分証明書の提示を求められ固まってしまう。
「え?そんなん要るんですか?」
「・・・・当然です。一民間人が街中で武装するんですから、当然こちらでハンターの動向は管理しますよ?」
「・・・・身分証持って無いんですけど」
「では身元を保証してくれる人は誰か居ますか?いるならばこちらの用紙の記入事項にサインして貰ってきてください」
アイザックに、身元保証人になって貰おうと思い立ち、身元保証人用の用紙を貰ってアイザックの元へと向かう。ギルドを出ようとした際、先程のスキンヘッドのハンターに「ぷっ」と笑われてしまい、逃げる様にギルドから遠ざかった八千代はアイザックが何処に居るのか分からなかった為、デリンジャーの元へ向かう事にした。
「お?お前は確か・・・・」
「八千代っす。八千代・三珠」
「そうそう、八千代だったな。どうした?外に出たいのか?」
「いや、アイザックさん捜してるんすけど、どこに居るか知ってます?」
「今居るかどうか知らんがアイザックなら兵舎に居ると思うけど、どうかしたのか?」
「いや~俺、ハンター王になろうかなって思って登録しようとしたんすけど、何かまた身元保証人が必要みたいで、アイザックさんにお願いできないかなって思って捜してるんすよ」
「あ~成程な・・・・分かった!じゃあ俺が身元保証人になってやるよ」
「え?良いんすか?あざーっす!」
「まあ、アイザックも男を見せた訳だし、あいつ一人に責を負わせるの心苦しいからな・・・だけど良いか?身元保証人になるのは良いけど、俺達が身元保証人になるんだから尚更街で騒ぎを起こすなよ?」
こうしてデリンジャーにサインして貰い、再びギルドへ向かい登録を完了する。ハンターライセンスを貰い、これで漸く身分証明が出来る様になったと喜んだ八千代は城壁を赤く照らす夕暮れを見て決意を新たにし、宿を捜す事に決めた。
「さてと、宿か~、どっか良い宿無いかな~。まだ何も仕事してないし安いところが良いんだけどな~ギルドの姉ちゃんにでも聞けば良かったな」
そんな事を言いながらぶらぶらと散策していると、一人の少女が話しかけてきた。
「お兄さん!宿探してるの?良かったらうちに決めなよ。ちょっとはサービスするよ?」
自分を呼び止める声に振り返ってみると、そこには赤い色の髪の獣人の少女が立っていた。
(獣人のおなごじゃー!者共、出合え!出合えー!)
自分自身の脳内に居るミニ八千代、自称ヤチヨー′sを総動員し、観察という視姦行為をする八千代は先程デリンジャーと交わした約束等、微塵も思い出す事無く舐めまわす。
そんな脳内でヤチヨー′sがハアハアと視姦している事を繰り広げている様な危険な男だとも露知らず、少女は八千代を誘う。
「お兄さん宿探してるんでしょ?うちの家宿屋なんだ。どうかな?試しに見に来なよ?ね?」
そう言って少女は強引に八千代の腕を取り引っ張て行く。強引な誘いではあったが相手は美少女だった事もあり、尚且つ組んだ腕に少女のゴールデンスライムがふよんと当たっている。八千代に断る理由は無かったのだった。寧ろ(これもある一種のお持ち帰りじゃね?)等と考えていた。
そんな不埒な事を考えている内に、少女の家族が経営していると云う宿に到着する。
「ここがあたしん家の宿だよ!どう?悪く無いでしょ?」
「ん?ああ、そうだね」
少女が自信満々に「エッヘン!」と誇らしく紹介した建物は3階建ての白い建物で、ナイトキャップを被った三日月が気持ち良さそうに眠る鉄製の看板が吊り下げられている。
「一階は食事が出来る様になってて、受付はここね。どうかな?部屋も見てみる?」
少女は急かす様に八千代に促す。八千代は特に料金が高くなく居心地が良ければ特に問題は無かった。宿の中は白で統一された調度品で埋められており、観葉植物等が置かれ雰囲気も悪くは無かった。宿の位置もメインストリートからは離れているが、逆に閑静さが居心地の良さを醸し出している。
(まあ、雰囲気は悪くは無いし別にコレと言って拘りも無いしな。もう面倒だから此処で良いや)
「別にもう此処に決めちゃっても良いんだけどさ、一泊幾ら?」
「一泊、前金で3ジータだよ!食事も付けるなら夕食は一食5タタで朝食は3タタね」
「安いな、分かった。じゃあ此処でお世話になる事にするかな」
「本当!?やったあ!一名様ご案な~い!」
少女は嬉しそうに笑みを浮かべると、受付にあったハンドベルをチリンチリンと鳴らして喜んだ。
今日と明日の分の宿泊費と食事代を渡して部屋へと案内してもらう。
「毎度あり~!チェックアウトは午前の11時迄ね。夕食は6時~8時までに1階に降りてきて貰えれば良いから、朝食はチェックアウト迄に来てくれれば良いよ」
少女は部屋に案内すると大まかなシステムを紹介し「じゃあ、ごゆっくりね~」と扉を閉めた。
八千代はベッドに腰を降ろし、部屋の中を一望するとそのままごろりと寝転んだ。
「あ"~疲れた。」
そう言って暫くの間ぼ~っとした後、いつの間にか寝てしまった。




