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第13話「悲痛也」

 王都シャルガンのキナ湖に上空に浮かぶ島、通称天空島には防衛省・魔法省等と云ったファロン王国の各主要機関が集まっている。その主要機関の内の一つ、国の防衛を司る防衛省内部は一部の人間が慌ただしく動いていた。



 防衛省内部で慌ただしく動く一部の人間の一人であるホーク・トマーソンは自身が所属するテロ対策班の上司である男に報告する為、今すぐにでも廊下を走り出したい気持ちを抑えつつも忙しく早歩きしていた。そうして扉の前に立つと大きく息を吐き出し扉を開ける。



 「ジルバ卿っ!先程、下層地域で爆発事故が起きました。未だ調査継続中ですが現場からは魔法を使った形跡があるとの報告です。恐らくテロがあったと見て良いかと・・・・」



 その報告を受けたテロ対策班の総責任者ジルバ・エルテ・ガレシアは内心忌々しく思いながらも表面に出す事無く平然と答える。



 「うむ、丁度今、解析班から映像が回ってきて見せて貰ったところだ。やはり例の魔法が使われている様だ。」


 「おお!早速役立ちましたね、予算を無理にでも通して良かった・・・ったくイルマの奴め、幾ら国の為になると言っても理解しようとせん。素直に認可を降ろせば早期解決に繋がるかも知れんと言ったのに・・・あの馬鹿め」


 「そう言ってやるな、ただでさえ魔晶の数が足りていると言う訳では無いのだからな、あやつはあやつで魔法省との擦り合わせが色々とあるのであろう、天空島でさえも完全には網羅出来ている訳では無いのだしな仕方あるまい」


 「ですが、どうも私にはそれだけが理由とは思えません。あいつにはどうも下層地域・・・いえ、貴族以外の人間を見下している感がある・・・それだけとは言いませんが、あれだけ出し渋っているのを見ているとそうとしか思えませんよ」


 「まあ、何にせよ全体をカバー出来たとは言わんが無事配備する事が出来たのだ。こうして映像が記録出来ただけでも甲斐があったという物であろう」



 そう言ってジルバは空中に映し出された映像に振り返り、事件の詳細を確かめる。


 その映像に映っているのは、茶色いフード付きローブを深く被った人物が店先で手を前に翳し、そうしてから3秒後、平然とした様子で店を離れ、その2時間後に爆発が起きたのだった。その映像は一方向からのみで、妖しい人物を追いかける事も無かった事から、この魔道具は固定されたカメラの様な物だと推察される。その映像を確認した二人は改めてこれが事故では無く、意図して爆発を起こされたものだと認識する。



 「・・・・やはり、奴隷解放戦線の手の者でしょうか?・・・・いえ、それしか考えられないと解ってはいるんですが、今まで単に攻撃魔法を放って襲っていたやり口からいきなり遅延魔法・・・いえ、時限式と言えばいいんでしょうか?兎に角、正体不明の魔法を使いだした・・・それも魔法省でも解析出来ないレベルで・・・・何かがおかしい気がします」


 「・・・うむ、恐らく組織内部に何かあったのか・・・若しくは、別の新たな組織か・・であろうな」



 結局この日も犯人を取り押さえる事も無く、正体不明の魔法のヒントの糸口を掴めぬまま事故として処理された。ホークが部屋を去っていく後姿を見送った後。再び映し出された映像を見てジルバは呟く。



 「奴隷・・・解放か・・・・」



 奴隷制度・・・・有史以来あまねく存在したが、時代的・地域的にその現われ方は複雑かつ多様であった。戦争捕虜、被征服民に対する略奪・身分格下げ、犯罪者等への処罰、債務不払いなどが供給源であった。現在も一部の人間からの反対運動等があるが依然として変わらず、近年そう云った人間の中から過激な行動に出る者も出始めたのであった。


 そうした一部の過激派による無差別テロが頻繁に起こる様になり、いよいよ国民に対して隠し切れ無くなってきた王国上層部は頭を悩ませ、テロ対策班の増員と予算が大幅に増加される迄に動ききつつあった。そうして今日、奴隷を買いに来た八千代はテロ騒動に巻き込まれ、怪我こそ無かったがこの世界の暗部を垣間見る場に偶然居合わせたのだった。



 時は少しだけ遡る・・・・



 「・・・・な、なんぞ!?」



 突如、爆発した衝撃と轟音に思わずしゃがみ込んだ八千代は、恐る恐る腰を上げて爆発が起きた場所へと目を向けると目の前の光景には、火傷を負った者や爆風でガラスが飛び散り突き刺さった身体から血を流している者の大勢が、地に伏し気を失って倒れていた。無事だった者は呆然としており、中には泣き叫んでパニックになっている者も居た。



 「八千代さん、ケガとか大丈夫ですか?」


 「あ・・・・ああ、うん大丈夫・・・何?・・・コレ・・・ガス爆発?」



 この世界にガスを用いた調理器具や暖房と言った類の物は無い事を知らない八千代は、自分が知る日常の上で起こりうる事故の可能性を想像するだけであった。八千代の問いはアベルに聞こえたのかどうかは解らないが、世間で噂されている話を思い出し八千代に話す。



 「・・・・テロってやつかも知れませんね。僕も噂程度でしか詳しくはありませんが、最近王都では奴隷解放戦線って言う組織がこうやって爆発テロを起こしてるらしいですよ」



 暫くして救護隊と警備兵がやってくると周りは封鎖され、迅速に救出作業を始める。回復魔法を掛けたり、目撃者に聞き込み作業を始めたりと現場の中を怒号が飛び交い慌ただしくなっていた。



 駆けつけた兵隊達が救出作業をする様子を、悲痛な面持ちで眺めながらアベルは言った。



 「僕も奴隷制度には思うところは有りますけど・・・でもこんなやり方は間違ってますよ・・・・」



 それを聞いた八千代は何とも返す事が出来ず、同じ様にただ周りの光景を見ているだけしか出来なかった。八千代にとってテロ等と言った非日常はニュースで見かけるだけの話であり、こうして目の当たりにしてもその恐ろしさは何とも言い難く、何処か遠い出来事の様に呆然と立ち尽くす事しか出来なかったのだった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 爆発騒ぎがあった後、何と無く居た堪れない気分になって現場を逃げる様に去った八千代達は、店を捜す事を止めて目に付いた喫茶店で適当に食事を済ませた。


 その後、宿を捜すとアベルに伝えて別行動を取ろうかとしたのだが、「宿をお探しなら僕が良い所知っていますよ」と言われ、同じ宿に泊まる事になった。そうして宿に辿り着き、お互い別々の部屋をとったのだが部屋に入って暫くするとアベルがワインを持って部屋を訪ねてきた。



 「ふ~、それにしても今日は何か疲れましたね。もう今日は動きたくないです」


 「あれだけの事があったしな。今日はもう風呂に入ってゆっくり気分転換したいわー」


 「そう言えばシャルガンの街には温泉が沸いてるらしいですよ。明日にでも行ってみます?」


 「別にそれは良いけど、取引するって話は良いの?」


 「それは明後日の夕方からです。先方がその日時なら都合が良いって言ってまして」


 「ふ~ん、それでその温泉の場所は近いの?近いんだったらまだ時間はあるしもう少しゆっくりしてから行ってみない?」


 「良いですね。あ、これ僕の村で作ってるワインです。良かったら飲みましょう」



 そうして暫く二人でワインを飲みながら時間を過ごし、夕方になって温泉へと向うと宿から20分歩いた場所にお目当ての温泉があった。温泉施設の内部は想像以上に大きく、男湯だけでも体育館4つ分はあるであろう広さに度肝を抜かれていた。


 温泉に入る前にしこたま酒を飲んで酔っ払っていた二人は温泉から帰る途中、八千代の提案でセクシーパブへと寄って2時間ぐらい楽しんだ後、宿へと戻り食事を済ませて寝るのであった。


 翌朝、早くに目覚めた八千代は観光しようと街をふらついていた。



 「お?この魔道具便利そうだな」



 街をふらついていた八千代は立ち寄った魔道具屋である物を発見していた。それは魔石で動くヒーターであった。このヒーターの優れている点は、温風だけでは無く冷風も出るのでオールシーズン対応だ。現在の季節は春で丁度良い気候ではあるのだが、これから夏に向け暑くなるであろうヴィエナにある自宅には、それと言った冷暖房器具は見当たらなかったので、(これは使える!)と思い購入したのであった。


 そうして、その後も買い物は続けられ、気付けば半日で200ジータは消費していた。買い物をしている途中でこの旅の目的を思い出し、奴隷商館の情報を得てすぐにでも買いに行こうとした時にアベルの顔が脳裏に浮かび、悲痛な面持ちで「僕も奴隷制度には思うところはある」と言っていたのを思い出したが何する者ぞと構わず直行する。


 そうして奴隷商館へと辿り着いた八千代は臆する事無く中へと入ると・・・



 「ようこそ、いらっしゃいませ」



 ・・・と言って出てきた男はタキシードを着てシルクハットを被り、目の部分だけを隠した仮面を付けている。その姿はまるでどこぞのトラ〇プマンの様で胡散臭さに満ち溢れていた。八千代はちょっと不安になりながらも、この店は国の認可を受けていると聞いていたので気を取り直して話しかけた。



 「あの~可愛くて若い奴隷捜してるんですけど・・・・」



 八千代の言葉を聞いたト〇ンプマンはニヤリと笑みを浮かべると「はい、老若男女全て取り揃えて御座いますよ?どうぞこちらへ・・・」と言って、3つある内の扉の一つへと促され、ドキドキと高鳴る鼓動を心地良く感じながらも平静を装い「・・・うむ」と言って大物風を吹かして部屋に入った・・・すると薄暗い部屋の中には舞台の様に一段高く床が上がっており、その前には椅子がひとつだけポツンと置いてあった。


 椅子を引かれ座る様に促されて席に着くとトラン〇マンは舞台に上がり、どこからかマイクを取り出したかと思うとパチンッと指を鳴らした。するとどこからか妖し気な音楽が流れだしてピンクや紫色の照明が踊る様に動き回って舞台を照らし、妖し気な雰囲気がより一層際立てさせる。


 そうすると、トラ〇プマンは全ての準備は整ったと言わんばかりの身振り・手振りで八千代を指差し宣言する。



 「さあっ!これより貴方の為の奴隷を紹介致します!さあ!奴隷よカモンッ!」

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