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決起集会(サバト)

「家に客を招くなんて、いつ以来かしら、ふふっ」


 はみ出し者が結集した放課後、三人はスローネの家へと向かっていた。


「ああ、女の子の家に遊びに行けるなんて、生きててよかった……」

「今日の決起集会は、僕の人生で忘れられないものになるだろう」


 浮かれる勇男と稲穂。稲穂は中二病を患う前の時期は普通の女の子だったため友達の家に遊びにいくこともあったが、悲しいことに勇男は常に普通でない男の子だったため友達の家に遊びにいくことどころか、友達を作ったことなどなかったのだ。そんな勇男が高校入学してすぐに女の子の家に招待される。勇男からすれば春が来たも同然であった。サバトの意味はわからないが、スローネの外見から優雅なお茶会をするのだろうと、周りからすれば不気味な笑顔で浮かれるのだった。



「ついたわ、ここが私の家よ。私が復活した暁には魔王の城となることでしょう」

「うわあ、お金持ちって本当だったんだ。すごい家だね」

「なっ……私の家の何倍大きいのよ……」


 スローネの家に到着した3人。目を輝かせながら感嘆する勇男と、びっくりして一人称が私に戻ってしまう庶民派の稲穂。


「私はサバトの準備をするから、貴方達はこの部屋で待っていてくれるかしら」


 家の中に入り、スローネは二人をペンキで塗ったと思われる真っ黒な扉の前まで連れてくると、準備があると一人去って行ってしまった。


「準備ってなんだろうね、紅茶でも淹れるのかな」

「甘いね四方山君。とびっきりに苦い、墨汁のようなブラックコーヒーだよ」

「墨汁飲んだことあるの?」

「え? あ、ああ、あれはすごく苦かったよ」


 談笑しながら扉を開けて中に入る二人。

 広めの部屋の中心には魔法陣のような物が描かれており、辺りには、


「へー、聖さんペットたくさん飼ってるんだね」

「え……え、ちょっとこれ、おかしくない?」


 大量の檻と、その中には閉じ込められた黒猫や蝙蝠やカラス。暴れる気力もないのか、全てが衰弱しきっている。ペットを飼っていると認識する勇男であったが、稲穂は異様さを察して恐怖を感じだす。


「待たせたわね。さあ、サバトを始めましょうか」


 やがてファンタジー世界の魔術師が着ているような、黒の帽子に黒のローブを着用したスローネが、カセットコンロと釜を持って来て、魔法陣の中心にそれを置く。


「へえ、最近は釜でお湯を沸かすのがトレンドなのかな」


 お茶会をすると思い切っている勇男であったが、稲穂は不安を感じずにはいられない。


「今日の生贄は……この子にしましょう」

「ちょ、ちょっとまって聖さん。その猫……どうするつもりなの?」


 説明することなく、檻からぐったりとした黒猫を取り出すスローネに恐る恐る聞く稲穂。


「勿論生贄として煮るのよ。黒い生き物の魂を捧げることで、私の失った力を取り戻すの」

「え、ええっ!? だ、駄目だよそれは! 今すぐ逃がしてあげてよ、四方山君もそう思うでしょ?」


 平然とそう言い放つスローネ。犬を飼っている人間として、稲穂はスローネの行動を理解できなかったし、許容することもできなかった。素に戻って勇男に同意を求める稲穂であったが、


「猫って美味しいのかな」

「どうかしら。私は食べたことがないけれど、何なら食べて血や肉にするのもいいかもしれないわね」


 残念なことに、今の勇男に動物を愛でる心はなかった。


「わー! わー! えーとえーと、聖さん! 生贄にするよりも、使い魔として大事に育てる方がいいと思うな!」

「あら、この子達は元より使い魔よ。皆喜んで私のために身を捧げてくれるから、生贄として使っているの」

「そうはいうけどね聖さん。使い魔が僕達を生贄にしてくださいって言ってもね、所詮は下等な生き物の考えだよ。魔王なら、手下の大事さは理解してるんでしょ?」


 動物愛護精神に充ち溢れている稲穂はテンパりながらも必死でスローネを説得する。


「……そうね、貴女の言うとおりかもしれないわ。それじゃあ、予定を変更して使い魔との再契約を交わす宴にしましょう。お茶とお菓子を用意してくるわ」

「……ふぅ」


 素直に説得に応じたスローネがカセットコンロと釜を持って部屋から出ていくのを見届けてホッとする稲穂。彼女に残っていた常識人としての側面が、動物を救ったのだ。


「まったく、四方山君も酷いじゃないか。助けを求めたってのに」

「え? あ、ごめん……俺、やっぱおかしいよね……うん、動物は大事にするよ」


 軽蔑するような目で勇男を見る稲穂。勇男は申し訳なさそうな顔をしながら、動物は愛でるべきものという認識を学ぶことができたのだった。素は常識人である稲穂がいたことが、勇男にとっては幸運だったと言えよう。




「それじゃあ現世での出会いに……乾杯」

「ふっ……やはりブラックコーヒーに限る……に、にがっあちっ」

「かんぱーい」


 その後、コーヒーでお茶会をすることになった3人。スローネがどこからか捕まえてきた動物たちも、無事に餌にありつけガツガツとそれを食べている。コーヒーの苦さに顔をしかめる稲穂であったが、他の二人が特に苦もなく飲んでいるのを見て焦ったようで一気飲みをする。


「げほっ……おえっ……ところで、活動方針を決めようじゃないか。周りとは次元の違う人同士、協力していこうじゃないか」

「そうね。私も一人じゃ儀式が大変だから、手伝ってもらいたいのだけど」

「えっ……えーと、儀式の手伝いは、四方山君任せたよ」

「え、ああ、わかったよ。よろしく聖さん」


 コーヒーをすすりながら今後の活動方針について話し合う三人。

 スローネは自分の儀式の手伝いをしてくれと言うが、先程のような行為をすると思うと、ホラーやスプラッタの苦手な稲穂は勇男に押し付ける。女の子に頼りにされることが嬉しくて快く了承をする勇男であった。


「今後学校生活で、一人じゃ乗り越えられないような試練があるかもしれない。学校では僕達三人で、協力していこうじゃないか」

「ええ。今後、忌々しき双子の契りを結ばされる時とか大変だものね」

「大丈夫だよ、これからは僕がいるから」

「ふふふ、仲魔はいいものね」

「いいねえ友情って。素晴らしいよ友情。俺の求めていた光景だ」


 孤独な学園ライフを回避するために結束を固めようとする稲穂。二人組のペアで余りがちだった彼女達であったが、それぞれ仲間を手に入れることができた。その様子を微笑ましく見る勇男。二人組だと彼は結局余ってしまうのだが。



「それじゃ、コーヒーご馳走様。ちゃんと使い魔は大事にするんだよ」

「ええ、今度はよくなついた使い魔達を紹介するわ」

「またね、聖さん」


 お茶会を終えて結束を深めた三人。勇男と稲穂はスローネに見送られて家を出て、帰る方向が同じようでしばらく二人で歩き続ける。


「いやあ同じクラスにこれほどの人間が二人もいるなんて。前の学校では一人もいなかったのに、これが運命ってやつなのかな」

「あはは、運命だなんて鈴峯さん聖さんみたい」


 基礎的なコミュニケーション能力を持つ稲穂のおかげで、自然と他人と会話ができ、会話ができる喜びを噛み締める勇男。


「そうだ四方山君。僕も手伝ってほしいことがあるんだけどいいかな。サブカルの探求とか。聖さんは聖さんで忙しそうだしね」

「勿論だよ鈴峯さん。俺にできることなら何でも言ってよ」

「ありがとう。それじゃ、僕はこっちの道だから。また学校でね」


 根がまともな稲穂ははっきり言って、電波に染まりきったスローネも元から少しおかしい勇男も不気味に感じており、自分から結束を深めようと言った割には上辺だけの付き合いに留めようと考えていた。しかし自分のマイナーな趣味を他人にも理解して欲しいというサブカル好きのパラドクスが災いして、勇男と稲穂もまた協力関係を結ぶことになった。

 分かれ道で稲穂と別れ、異性の友達が二人もできたと喜びながら家に帰る勇男。

 この時点で彼女達が自分とは全く別の目的で動いていることに気づくべきだったのかもしれないが、女の子二人に頼りにされるという、人生初のモテ期に浮かれた今の彼はそんなことどうでもよかったのである。



「母さん、父さん、俺、友達できたんだよ」

「おお、よかったな勇男」

「……事件とかに巻き込まれないようにしなさいね」


 家に帰り、夕飯時に嬉々としながら家族に友人ができたと報告する勇男。

 素直に喜ぶ父親と、息子の異常さを熟知しているが故に、友人というのも同じような存在なのだろうと少し不安になる母親。


「くっだんねえなあ兄貴。友達なんて普通に作れるだろ」

「うう……勇美は俺と違って要領がいいからわからないんだよ、俺の辛さが」

「何だよそれ、あれか、中二病ってやつか、友達が言ってたぞ」

「……そうだよ、お兄ちゃんは中二病なんだ。でも、友達ができたから治るはずだよ」


 兄にとってはトラウマともいえるキーワードである中二病という単語を最近覚えたらしい、中学二年生の妹の勇美。過去に周りに中二病だと言われ続けてきたトラウマを再発しながらも、友達と一緒に真人間になるんだと希望を持つ勇男であった。

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