新たなる戦いの日々(トゥルーエンド)
「……おはよう」
「おはよう」
「久々だね、春休みは変わりなかったかい?」
「皆元気そうで安心したよ」
始業式。勇男が学校に向かうと、正門前でスローネ達に出会う。そのまま学校の中にあるクラス分けの掲示板の方に向かい、自分の名前を探す彼等。
「……一組だ」
「私は三組ね」
「僕は六組か。……あ、君の名前もあるよ」
「ああ、今年もよろしく頼むよ」
自分の名前を見つけた勇男は、少し寂しそうな顔になる。結局スローネとも稲穂とも武蔵野とも、高校一年生の時に自分と交友のあった人とは離れ離れになってしまった。
「……」
「寂しそうな顔をしないの。別れがあれば出会いもあるのよ。だから休憩時間になる度に寂しいからってクラスに来ちゃ駄目よ。……さて、私の新しい戦場を見物しましょうか」
勇男の浮かない顔を見て、微笑みながら元気づけ、余裕めいた表情で校舎へ向かうスローネ。
「そうそう、自然体でいれば、友達なんて勝手にできるさ。趣味の合う人とかさ」
「ああ。僕は全く心配してないよ。だからさよならだ。……まあ、たまには遊んでくれないか」
「あ、待ってくれよ」
ニコリと笑顔を向ける稲穂と、信頼しているからか勇男の顔も見ずに校舎の中に向かう武蔵野。稲穂が武蔵野の後を追いかけていなくなった後も、しばらく勇男は掲示板を眺めていた。新しい教室でうまくやっていけるだろうかなんて不安を自分のクラスに表示された名前を見ながら考えていた勇男だったが、皆の言葉を脳内で反芻させ、キリッとした表情へ向かう。
「おー同じクラスか、部活ではいつも一緒だったけど新鮮だな」
「久しぶりー、ほらほら私、中学の頃の」
既に教室では、何人かの生徒が仲良さそうに会話をしていた。いかに自分が今まで友人も作れず、その恐怖から他人を避けてきたかを思い知る勇男。冷や汗を流しながら自分の席に座り周囲を眺めているうちに、やがて始業式が行われ、ホームルームで自己紹介の時間になる。
「……です。野球部ですが、サッカーも好きなんでスポーツ好きの人はよろしくお願いします」
出席番号が後ろの方の勇男は、クラスメイトの自己紹介を聞きながら何度も予行演習をしていた。去年の出来事や、スローネや稲穂、武蔵野や勇美に言われた事を思い返しながら、静かにその時を待つ。
「……」
やがて自分の番がやってくる。立ち上がり、強張った表情で周りを眺める勇男。何人かの生徒が勇男の事を知っていたからか、面倒くさそうな顔になっていたのを読み取り、不安に襲われる。
「(いや、駄目だ。変わるんだ。俺の事を嫌ってる人にも、俺を怖がってる人にも、新しい自分を見せるんだ)」
クラスメイトの視線が集まる中、勇男は大きく深呼吸して、
「四方山勇男です。自分は人と接するのに慣れていません、だから皆に迷惑をかけてしまうかもしれません。けれど、皆の仲間になるために精一杯頑張るので、よろしくお願いします!」
周りの人間より一際大きな、しかし昔のように滅茶苦茶ではない、ハキハキとした声を出す。心なしか他の人よりも大きくなった拍手の音を聞きながら、勇男は静かに席に座った。さっきまでの不安が嘘のように消え去る。このクラスなら、やっていけそうという自信がつく。ホームルームが終わったら、あの人に話しかけにいこう、趣味が合いそうだ……そんな事を考えながら、勇男は次のクラスメイトの自己紹介を聞き始める。
頑張れ、偉大なる戦士達よ。




