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踊れ哀れな中二病  作者: 中高下零郎
プロローグ
3/30

四方山勇男は人になりたい

「ああ……もうやだ、高校デビュー失敗した、学校行きたくない……」


 目がキマっている少年が自分の部屋で布団にくるまりガタガタと震えている。

 高校一年生、四方山勇男よもやま・いさおは中二病と言われてきたが、実際にはそうではなかった。


「くそっ……クスリなんかに頼りたくないのに、飲まないと頭がおかしくなりそうだ」


 錠剤を飲んでベッドに横たわる勇男。麻薬でも何でもなく、彼のために医者が処方してくれた精神安定剤と睡眠薬であった。


「俺は普通の人間なんだ、中二病にかかっているだけなんだ、だからまともになれるんだ、こんなクスリなんかに頼らなくても、まともな人生を送れるんだ……」


 眠りに落ちるまで自己暗示をするようにそう呟く勇男。

 彼は中二病でもなんでもなく、ただの異常者であった。

 知能や運動神経に問題があるわけではないが、産まれつき脳に障害があったために、まともに他人とコミュニケーションをとることが難しかったのだ。

 少し前ならば周りの人間は彼を異常者として笑ったかもしれない。それで彼は悲しみに暮れながらも自分と向き合うことができたのかもしれない。

 しかし、不幸にも現代日本では『中二病』という言葉が流行してしまっていた。

 本人は真面目に苦しんでいても、周りの人間は彼を奇人を気取っているだけの中二病の人間だと笑ったのだ。

 そのせいで、彼は自分は本来まともな人間であり、変人を気取っているだけで頑張ればまともな人間に戻れると思ってしまった。

 それ自体に問題は無かったが、彼はまともな人間になろうと、周りの人間の真似をしようとする。

 しかし彼にそんな器用なことはできず、逆に彼が浮いてしまう、そんな悲劇を繰り返してきたのだ。



 彼の両親は彼を普通の人間とは少し違うと自覚させたうえで、相応の人生を歩ませたかったようだが、意に反して彼は『普通』に固執し、高校に入れば友達もできるしまともになれると信じて普通の高校へ入学した。



「四方山勇男ですよろしくお願いします」


 そしてクラスメイトの前での自己紹介。

 彼からすればごくごく普通の挨拶をしたつもりではあったが、周りの反応は冷ややかであった。

 その原因は彼の滅茶苦茶な発音とアクセントにあった。

 そうでなくとも彼のどこを見ているのかわからないような目や、半開きの口、休憩時間の度に用もなく辺りを徘徊する癖は不気味さを醸し出し、たった一日で彼は無事にクラスメイトに『こいつはヤバイ奴だ』という認識を植え付けることに成功してしまったのだ。





「大丈夫だ、まだ高校入学して数日じゃないか。まだ巻き返せる。そうだ、発音練習をしよう。あめんぼあかいなあいうえお……」


 目に見えて周りと浮いてきた小学校高学年からずっと孤独を味わってきた勇男。

 それでも彼はめげることなく、自分は普通になれると信じて努力をするのだった。




「ねえねえ、ちょっといいかな?」


 ある日、彼は二人の女子に声をかけられる。鈴峯稲穂と、聖スローネだ。


「はい、なんでしょうか」

「単刀直入に言おう。僕達の同志にならないか?」

「同志……? つまり、友達ってこと?」

「ええ。貴方から、闇の眷属の力を感じるわ。闇の眷属は惹かれあうということかしら」


 勇男を若干不気味がりながらも友人関係を結ぼうとする稲穂と、よくわからない妄言を垂れ流すスローネ。

 今のままでは友達なんて作れそうもない勇男からすれば願ってもないチャンスではあったが、彼は内心迷っていた。




 この二人とつるむと、手遅れになってしまうのではないか。

 稲穂とスローネが自分並にクラスで浮いている存在だということを認識していた彼は、彼女達とつるんでしまうと、自分の目指すまともな人間は諦めなくてはいけないのではないかと恐れたのだ。

 しかしそれでも彼にとっては、目先の友人、それも女子二名、そのうち一名は美少女というのは喉から手が出るほど欲しいもの。


「どうして、俺を?」


 悩んだ彼は、彼女達に何故自分を誘ったのかを聞いてみる。


「それは君が僕達と同じ存在だからだよ」

「……! そうか、そういうことか」


 稲穂に同じ存在だと言われて、彼はとある誤解をしてしまう。

『彼女達も自分と同じくまともになろうとしているから、仲間内で交流して、真人間を目指そうとしている』という、自分に都合のいい、根本的な、致命的な誤解を。



「わかったよ。一緒に頑張ろう、鈴峯さん、聖さん」

「ああ、頑張って私達が正しいってことを知らしめてやろうじゃないか」


 一人ではコミュニケーションの練習は難しいが、三人ならできる。

 彼は将来的に三人とも真人間になる未来を想像しながら、彼女達に笑顔で返事を返すのだ。


「ふふふ、早速だけど、私の家でサバトをする予定なの。二人ともいかが?」

「それはいい、決起集会といこうじゃないか」

「え、俺も行っていいの?」

「勿論よ。私は仲間を見捨てるような真似はしないわ」


 勇男を仲間として、友達として認識した彼女達。

 自身に災厄カタストロフィが降りかかろうとしているとも知らず、早速女の子の家に遊びに行けるなんて、友達って素晴らしい! と勇男は未来に期待を膨らませるのだった。



 これは、まともになりたい少年が、まともになる気のない少女を更生しようと空回る、中二病系コメディーである。


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