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勉学への熱意(ノレッジフロンティア)

「うー、全然覚えられねえ」

「ああ、テストが楽しみだなあ!」


 7月の第二日曜日、四方山兄妹はリビングの机で向かい合い、テスト勉強に励んでいた。英単語をぶつぶつと呟きながら半分ノイローゼになっている勇美とは対照的に、勇男はウキウキしながら授業中にとっていたノートを読み返す。


「うざ、死ねよ兄貴。去年までは私と同じくテスト前に慌ててた癖によ」

「ふふふ、今までは授業に集中できなかったけど、今回はかなり集中して授業を受けることができたし、ノートだってばっちりとっているからね。もうテストの前に慌てて勉強して、平均点をとるのが精一杯なんて情けないことにはならないよ」

「ほーう、大した自信じゃねえか。じゃあここの問題教えてくれよ」

「勇美。俺は中学時代は授業に全然集中できてないし、テスト前に一夜漬けして覚えた知識もすぐに忘れるから、全然わからないよ」

「使えねー兄貴だなぁ……まあいいや、どうせ義務教育だし」


 大あくびをした後勉強道具を片づけ、そのままリビングでゲームをし始める勇美。すると1分も経たないうちに、勇男が目を輝かせながら隣に寄ってくる。


「……嫌がらせに兄貴の集中力乱してやろうと思ったけど、こうも簡単にテスト勉強妨害できると逆に申し訳なくなってきたよ。勉強しようぜ勉強。頭の悪い男はモテねーぞ」

「俺はちょっと頭の悪い女の子の方が好きだよ」

「何馬鹿な事ほざいてんだ、兄貴は頭のいい女に管理されるのが幸せなんだよ。頭の悪い女を飼えるような甲斐性なんて、兄貴にゃ一生かかっても無理だっつうの」


 ため息をつきながらゲーム機の電源を落とし、テスト勉強を再開させる勇美。


「そういえば、小学校の頃クラスの男子が俺の事を『いさおちゃん』って呼んでたんだけど、最近やっと意味がわかったよ。馬鹿にしやがって、俺は、勉強だって、ちゃんとできる、いや、やってやる」


 昔を思い出し、トラウマなのか不機嫌そうな顔になりながらも悔しさをバネに勇男もまた問題集を解きはじめる。クラスメイトどころか家族もそう認識してるんだけどな、とは言えない勇美だった。




「おはよう聖さん、鈴峯さん。二人とも明日からテストだけど、余裕そうだね」


 この日勇男が教室に向かうと、皆が翌日に控えるテストのために朝から教科書を読んだりと真面目に勉強している中、稲穂とスローネはクラスメイトを嘲笑うかのように談笑していた。


「おはよう。私はテスト前に焦って勉強なんてする必要がないもの」

「聖さんの言うとおりだよ、僕は凡人とは違うからね」

「聖さんはともかく、鈴峯さんはちゃんと勉強した方がいいんじゃ?」

「ははは、僕を過小評価しすぎだよ。それより夏休みの予定は立てたかい? 高校一年生の夏は一度きりなんだ、精一杯満喫しなければいけないよ」


 海に山にライブ、一人旅……夏休みの予定を考えながら、一人有頂天になる稲穂。


「……私も正直貴女は少し勉強した方がいいと思うのだけど」


 そんな稲穂を見て、スローネは正直な感想を告げた。




 さて、スローネがテスト前に焦って勉強なんてする必要がないというのは真実である。優秀な頭脳を持つ彼女からすれば、高校の授業なんてものは魔導書を読みながら適当に聞くだけで大体理解ができる。一方で稲穂の勉強に対する才能はというと、普通である。特別悪いわけでもないが、決して良くは無い。そして普通ということが何を意味するかといえば、普通に授業を聞いて、普通にテスト勉強をして、普通の点数が取れるということである。授業をロクに聞かず、テスト勉強も余裕ぶり行わない彼女がどうなるかといえば、



「ほ、補習だって……? 馬鹿な、有り得ない、有り得ないよ……」


 当然こうなるのだ。


「聖さんすごいね、学年5位だなんて。ちゃんと勉強すれば学年1位も狙えたんじゃない?」

「学校のテストの順位なんてどうでもいいわよ。教師に怒られない程度の点数さえ取れれば、授業中音楽を聞いてようが寝ていようが大丈夫なの。貴方は40位……中の上といったところかしら」

「中学校の頃は、学校の授業に全然集中できなくて、必死に家で勉強して平均点取るのがやっとだったし、素行が悪かったから教師にも怒られてばっかだったんだよね。でも、今年は大分授業にも集中できるようになったし、教師に注意される回数も凄く減ったんだ」

「去年の貴方がどんなだったのか、少し興味があるわね。さて、夏休みはどうしようかしら……」


 テスト結果を見せ合いながら、無事に夏休みを迎えることのできる喜びを噛み締める二人。その横では、


「ああああああっ、どうしよう、お母さんに怒られちゃう、お小遣い減らされちゃうし、貴重な夏休みがががががが」


 哀れな少女が涙目になって喚いていた。


「自業自得よ。頑張って最低限の知識を身に着けるのね。大久野島にある別荘で黒兎と儀式をしようかしら、なんなら貴方達もいかが? あ、鈴峯さんは補習だったわね、ふふふ。それじゃあ四方山君、どうかしら。貴方がいつも語ってる妹さんも連れてきていいわよ。というより、流石に男女二人はまずいものね」

「きー! 私もうさぎ島行きたいー! 学校なんて行きたくないー!」


 にやにやと笑いながら、稲穂を挑発するスローネ。地団駄を踏む稲穂をしばらく眺めていた勇男だったが、


「よし、決めた。俺も補習に自主参加するよ。鈴峯さんが可哀想だし、正直納得の行かない結果だったからね」

「うう、ありがとう二人とも……」

「あらあら、ふられちゃったわね……って、今二人ともって聞こえたんだけれども、聞き間違いかしら」

「何言ってるのさ聖さん! 友達が困ってるのに一人で遊ぼうなんて許されないよ!」

「ええ……?」


 自主的に補習に参加することを決め、無理矢理スローネも参加させるのだった。



「何で私が……」

「休みの日に学校に来るのって新鮮だね!」

「ああ、お小遣いが、お小遣いが……パパにもすごく怒られたし、家に帰りたくないよお、でも学校にも行きたくないよお」



 夏休みが始まり、補習のために学校に向かう一同。勇男が教室を見渡すと、補習に参加しているのは大半が授業をまともに受けていなさそうなガラの悪い生徒達だった。


「でさー、そん時ツレが喚いてさー」

「マジでフラウロスじゃん」

「……」


 補習がスタートしてもお喋りをやめないクラスメイトに苛々を募らせる勇男。勇男が今まで授業に集中できなかった理由の中に、授業中にクラスメイトがお喋りをするから集中できないというものがあった。高校生になり、中学よりかは授業中が静かになったこともあって勇男は飛躍的に授業を真面目に受けることができていたのだが……


「静かにしろや」

「ひっ」

「す、すいません四方山さん」


 感情をコントロールできない勇男は、我慢の限界に達したのかクラスメイトを睨みつけて怒鳴る。勇男=キレると手が付けられない危ない人間、と認識していたクラスメイトはその一声で大人しくなるが、勇男の隣にいた男子生徒は不愉快そうな目で勇男を見ていた。


「ああ、やっと今日の補習が終わった……外食しよう外食、パーッといこう」

「お小遣い減らされたんじゃなくて?」

「うう……」


 この日の補習が終わり、嬉々としながら帰り支度を始める稲穂。勇男も帰り支度を始めていたのだが、隣の男子生徒に声をかけられる。


「お前、調子乗んなよ」

「え? え? 俺が何かした?」

「真面目ぶって何が静かにしろや、だよ。お前中学の時散々授業を邪魔してくれたじゃねえか、授業中きょろきょろと辺りを見渡すわ、独り言をぶつぶつ喋るわ、机から物をぽろぽろ落とすわ、お前にクラスメイト叱る権利なんてねえんだよ」

「……あ、う……」


 恐らくは勇男と中学が同じだったであろう男子生徒は、そう嫌味ったらしく言うと不機嫌そうに教室を出て行く。言い返すことができず涙目になる勇男。どうしようもなくなり、わんわんと泣き叫んでしまうのも時間の問題だった。


「き、気にすることはないよ四方山君。今の四方山君は真面目に授業うけてるよ、私も見習わないとなって思ってるくらいだし!」

「そうよ、だから泣くのはやめなさい。貴方の大声で泣かれると、こっちが恥ずかしいから」

「う、ううっ、うわーん!」


 聞いていた稲穂とスローネが勇男を慰めるが、女の子二人に慰められるというシチュエーションが勇男には耐えられなかったらしく、結局泣きながら教室を走り去る。



「ひぐっ、えぐっ、俺、もう真面目に勉強するから、だから、ううっ」

「よしよし、兄貴はよくやってるよ、うんうん」


 そして涙目のまま家に帰り、妹にも慰められるのだった。

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