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千年桜 

作者: 春

季節は春


桜が咲き乱れ辺りが桜の色一色に染まる中


一本の桜の木だけが花を咲かさないでいた。


「・・・・・・」


その咲かない桜を一人の男がじっと見ていた。


周りでは貴族が花見と称して酒や食べ物、歌などを詠んで楽しんでいる。


「どうかされましたか?」


その男に私は声をかけた。


「今年もこの桜は咲かなかったか・・・」


背を向けている男は寂しそうに呟く


「この桜は千年桜と言いまして、千年に一度花を咲かす桜だそうですよ」


背を向けている男にそう応えた。


「千年に一度・・・か。いつがその千年目になるか」


「・・・・・・」


桜の花が雪のように降り地面へと降り積もる。


その中で男は花を咲かない桜に淋しそうに手を当てている姿が私にはとても綺麗で美しく思えた。


幸長ゆきなが殿」


一人の男がそう呼んだ。


「あちらの御方達が呼んでおります」


「・・・わかった」


男はそう言うと千年桜から離れた。


その時すれ違いざまに


「ありがとう」


男はそう言い去っていた。


私はその人の背をずっと見ていた。


降り止む事のない桜の中で





――――ピピピ!ピピピ!――――


「・・・・・・っん」


目覚ましの音で私は目が覚めた。


「また・・・あの夢・・・か」


私は目覚ましを止めてカーテンを開けた。


外は雪が降っていて一面が真っ白の景色だった。


「雪・・・降ったんだ・・・」


私は日の光を浴びて輝く雪を見ながら呟いた。


「あの男の人・・・誰なんだろう」


私は最近よく夢の中であの男の人の夢を見る。


桜が咲いている季節であの人は他の桜を一切見ずに、あの桜(千年桜)だけを見続けている。


夢の中のその人はいつも寂しそうな顔をしていた。


「あ・・・時間」


夢の事を考えているうちにいつの間にか時間が過ぎている事に気がついた。


私は急いで身支度をして大学に向かった。


私は今都内の芸大で絵の勉強をしている。


そして今日は大学の講義の一環で大学の広場に集まってから都内の公園で絵を描くことになっている。


「おはよう。心!」


まだ寒い冬、頭にフードを被り茶髪の綺麗な長髪を靡かせながらその子は元気のいい挨拶を私にしてくれた。


「・・・おはよう。陽ちゃん」


私は彼女に挨拶をした。


私と陽は高校からの友達で一緒に同じ大学を受けて今は仲良く大学を楽しんでいます。


「よかったら一緒に絵を描こうよ」


「・・・うん。一緒に描こう」


ニコッと笑って返事すると


「ん~!!心はやっぱり可愛いなぁ~!」


陽ちゃんが私に抱きついて頬擦り付けた。


「よ・・・陽ちゃん。どうした・・の?」


「心が可愛いから抱きついてるの~」


陽ちゃんは思った事をはっきり言う子で私とは性格がまったく反対。


でも、陽ちゃんは私の小動物みたいな雰囲気が好きらしく今では親友となっています。


「おーいお前らは早く出発するぞ!」


「はーい」


私と陽ちゃんは目的の公園へと向かった。


目的の場所に着くまで私は陽ちゃんに話しかけた。


「・・・また、夢を見たの」


「夢って例の?」


「・・・うん」


陽ちゃんには今朝見た夢の話は何回もしている。


「花を咲かない桜の木に佇んでいる男の人の夢だよね?」


「・・・うん」


「それで心はその人の事をずっと見てるんだっけ?」


「うん」


「う~ん・・・もしかしたら前世の記憶なのかもね」


「前世の・・・記憶?」


「そうそう。前世に未練がある人は稀に見るらしいよ」


「・・・そうなんだ」


「何か心当たりあるの?」


無言で横に首を振る。


「ま、そうだよね。前世の記憶を持って生まれ変わる人なんていなんだからわかるわけないよね」


アハハと元気よく笑う陽ちゃんだった。


その後は他愛もない雑談をしながらいつの間にか目的の公園に到着した。





「集合時間は15時だからな。では解散」


教授の合図と共に皆は描きたい場所へと移動していった。


「それにしても、冬で描ける場所なんて限られてるよね」


ため息をつく陽ちゃん


「元気・・・だして。陽ちゃん」


私は陽ちゃんの頭を撫でた。


「ありがとう心。心はいい子だねぇ~。お母さん嬉しいよ」


私に抱きつく陽ちゃんだった。


「それでは早速描きに行きますか!」


陽ちゃんと手を繋いで私達は描きたい場所を探した。


公園はとても広く広場には噴水、周りには四季によって咲く花々の花壇があってベンチも所々置いておった。


その先には並木道になっていて両脇に桜の木が植えてあった。


「何か描こうかな?」


「そうだね」


私と陽ちゃんはいろいろな場所に行って描きたい場所を探した。


「あ、ここと通れるんだ」


陽ちゃんが足を止めた。


私は陽ちゃんが向いている方向を見た。


そこは芝生になっていたけど、看板で通れますっと書いてあった。


「心。行ってみよっか」


「うん」


私と陽ちゃんはその道がない道に向かった。


その場所は木々がたくさん植えてあった。


木は全部桜の木で春になると一斉に咲き乱れてお花見の名所となっていたらしい。


「春に来たかったねぇ~」


「・・・そうだね」


私と陽ちゃんは花をつけていない桜の木を見ながら歩いた。


しばらく歩くと


「ここ良さそうだね」


陽ちゃんが言った場所は、少し開けた場所で回りは木々で囲まれて所々に花が咲いていた場所だった。


「心。ここで描かない?」


「いいよ」


私達はその場所に座って絵を描き始めた。


太陽が良く出ていて冬なのに暖かかった。


私と陽ちゃんは集中して絵を描いた。





しばらくして


「ん~ちょっと休憩」


陽ちゃんが急に声を上げて伸びをした。


「心何か飲み物かって来るけど何がいい?」


「・・・ココア」


「了解♪」


陽ちゃん飲み物を買いに行った。


私は陽ちゃんがこの陽気な太陽の光を浴びながら目を瞑った。





「幸長様」


「・・・何でしょう?」


「またこの木を見に来られたんですね」


幸長といわれる男は例の咲かない桜を見ていた。


「ええ。今年は咲くかもと思いましてね」


「(・・・これは夢の中の・・・続き?)」


周りは桜の花で一色に染まっていたけどその桜だけが蕾をつけていなかった。


「幸長様はいつからこの桜を見ているのですか?」


綺麗な着物を幾重にも重ねている女性は尋ねた。


「(・・・これ・・・私なの・・かな?)」


「そうですねもう五年くらいになりますね」


幸長はそう言い女性の方へと顔を向けた。


しかし風で散る桜の花びらで顔は良く見えなかった。


けど、優しい表情をしているのは伝わった。


「しかし、よろしいのですか?私のような身分の低い貴族とお話をして。あなたの父上に怒られますよ?」


幸長はそう言った。


どうやら女の人は身分の高い貴族の人らしい。少なくとも幸長という男性よりは。


「いいのです。私が好きで話しかけているのですから」


女性はそう言い幸長の傍によっていった。


そして二人でその桜を見続けた。


「―――ろ」


「(ん・・・)」


「こ・こ・ろ~」


「よう・・・ちゃん?」


「こんなところで寝てたら風邪引くよ。ほい!ココア買ってきたよ」


陽ちゃんはそういって温かいココアを私に差し出してくれた。


「ありがとう」


私はココアを受け取り一口飲んだ。


「また夢を見たの」


隣に座る陽ちゃんに言った。


「どんな夢だったの?」


私は夢の中の話を話した。


「ほうほう。中々興味深い話になってきたね」


「これってやっぱり前世の記憶・・・かな?」


「ん~その可能性が高いね」


陽ちゃんはコーヒーを飲み一息入れて


「その女の人は心だと思うよ」


「・・・やっぱり」


「うん」


「でも・・・何で今になってなのかな・・・」


私が考えていると


「もしかしたらその桜が近くにあるんじゃないかな?」


陽ちゃんが言った。


「その桜がさ。心に見せてるんじゃないかな?」


「桜が?」


「うん。心に思い出してほしいからかわかんないけどきっと何か伝えたいんだと思うよ」


「・・・・・・」


「探してみない?」


「え?」


陽ちゃんは立ち上がった。


「絵は完成したんだしその桜を探しに行こう」


手を差し伸べた。


「・・・うん」


私はその手を取り探すことにした。





「それにしても広い公園だね」


「・・・そうだね」


私と陽ちゃんはたくさん植えてある木々を見ながら会話をした。


「どこにあるんだろうね」


「う・・ん」


いざ探すとなると一苦労だった。


なにせ植えてある木々は桜の木だけだからその中で咲かない桜を探すのは難しかった。


いろいろな場所に行って探した。


でも時間が来てしまい結局見つからないまま私達は大学に戻った。


大学の講義が全部終了して私は寮に戻り、今日描いた絵の修正をしていた。


「・・・・・・これでいいかな」


修正を終えて外を見るといつの間にか夜になっていた。


「・・・時間・・経つの早いなぁ・・」


私は立ち上がり夕食の準備をした。





「・・・行かれるのですね」


「はい」


満月の光が二人を優しく包み込む。


「(これ・・・夢の続きだ・・・)」


二人はあの桜の木で対峙して話している。


「・・・行かないで・・・ください」


女は弱々しく言う。


「・・・・・・」


「お願い・・・です」


女性は幸長に抱き着く。


しかし幸長はそれをゆっくりと引き離し


「それは出来ません」


と告げた。


「・・・・・・」


女性は顔を下に向けていたが地面に涙を一粒二粒と落としていた。


「・・・わかって下さい」


幸長はそう言って女性に背を向け去っていく。


「(・・・・・・)」


「待ってください」


「(え?)」


女性の声で幸長は足を止めた。


「幸長様の帰り・・・待っております」


「・・・・・・」


「この桜の木の下でいつまでも待っております。・・・だから・・・だからきっと帰ってきてください・・・」


しばらく二人動かないでいた。


「・・・次の春の季節に・・・」


「え?」


「次に来る桜の季節にはきっと戻ります。そして、この桜の花を共に見ましょう」


「・・・はい。・・・・・・お待ちしております・・・」





――――ピピピ!ピピピ!――――


「・・・・・・ん」


目覚ましの音で私は目を覚ました。


「また・・・あの夢・・・」


私はベットから起き上がると


「あ・・・れ・・・?」


私は頬に何か流れているのに気がついて鏡を見た。


「・・・なみ・・・だ・・」


私は涙を流していた。


「・・・・・・」


私は身支度をして外に出かけた。





今日は大学がお休みだからこの前の公園に来て私は例の桜に木を探すことにした。


なぜがわからなかったけど、探さないといけない感じがした。


「・・・・・・」


公園のいろいろな場所を見て回った。


けど、冬の季節もありどれがその桜の木かわからなかった。


でも、きっとこの公園にその桜があるのはわかっていた。


夢の中で見た景色とにていたから。


その日は日が沈むまで探したけど結局見つける事が出来ずに私は寮に帰った。






「・・・どこにあるんだろう」


私は寮に戻って陽ちゃんに話した。


「そんなに焦る事はないと思うよ」


陽ちゃんはそう言ってくれた。


「心の夢の話を聞いていると、だんだん話が進んでいるのがわかったからその内見つかるよ」


「・・・うん」


「そんな顔しないで心」


陽ちゃんは優しく抱きしめてくれた。


「ありがとう・・・陽ちゃん」


その日の夜は陽ちゃんがお泊りして私と一緒に眠った。






次の春がやって来た。


辺りは桜で満開になり


桜が綺麗な花をつけて咲き乱れてた。


「・・・・・・」


私はその桜の木の下で佇んでいた。


手には一通の文を持って


その文にはこう書いてあった。


――最愛なる人


この手紙を詠んでいる時、私はもうこの世にいないと思う。


この手紙は私にも下のことがあったときにあなたに渡すように私の親友に告げてある文です。


あの千年桜が花をつけて所を死ぬ前に見たかった。


一体どんな花を咲かすのか


一体どんな色の花なのか


見れないのがとても心残りです。


でも


一番の心残りは


あなたにもう二度と会えないことです。


口には出していませんでしたが


愛しております。


あなたと話すその時間は私にとって一生の宝物となりました。


あなたの笑顔は私にとって命より大事なものとなりました。


それを


それを奪う事になってしまい私はとても辛い。


あなた様に辛い思いをさせてしまい申し訳ない。


しかし


私は約束をしたいと思います。


この約束は私だけの身勝手な約束です。


あなた様は守らなくてもいい


次に千年桜が咲く年になった時


私はその桜の木の下で


あなたの事をお待ちしております。


いつの話になるかはわかりません。


ですが、


私はきっとその場所に行き


あなたの事をお待ちします。


それでもよろしければ


待っていてくれませんか。


 幾年も

  

 花咲か時を


 待つものの


 恋実る時は


 桜咲く時




「・・・・・・・・・」


手紙を詠み終えた私は桜の木を見た。


「詠み終えましたか?」


男は私に話しかけた。


「・・・はい」


「・・・申し訳ありませぬ。私が幸長を守っていれば・・・」


男は声を絞り出して話した。


「このようなことに!ならずに済みましたのに・・!」


男は泣いていた。


「・・・いいのです」


「・・・・・何がですか・・・?」


不意に言った私の言葉に男は尋ねた。


「幸長様は亡くなられた。しかし、この文に書いてある事、私は信じて待つことにします」


「・・・・・・」


「いつになるかは分かりません。でも。きっと幸長様は約束を果たす為に来てくれる事を信じています」


「・・・・・お強いのですね・・・」


「・・・いいえ。私は弱いです。・・・でも幸長様の為ならば私は挫けません」


「・・・・・・」


暫く沈黙が続いた。


「幸長に頼まれました」


不意に男は言った。


「何をですか?」


「あなた様の事を守ってやってほしいと・・・」


「・・・・・・」


「多分幸長は自分が死んだらあなた様も死ぬと思ったのでしょう。だから私にこのような頼み事を・・・」


「ふふ。幸長様も心配性ですね」


「はい。昔からでございます」


二人は笑った。


「では、幸長様の頼み事お受けいたします」


「心得ました」


そう言って二人は桜の木を見つめた。





「・・・・・・」


朝になり私は目が覚めた。


外はまだ薄暗かった。


「・・・夢・・・」


私は夢の中事を思い出していた。


「もしかして・・・咲いてる?」


私は何かを予感がしていた。


ベットから起き上がるとベランダのカーテンから見える隙間を覗いた。


「・・・・・・あ」


私は驚いた。


まだ寒い冬で雪が降っている中


その雪の中に花びらが舞っていた。


「・・・桜」


私はマフラーとコートを着て外に行く準備をした。


「・・・出かけるの?」


物音に気がついたのか陽ちゃんが目を覚ました。


「・・・うん。・・・会いに行ってくる」


私がそう言うと陽ちゃんは分かったらしく


「うん。行ってきなさい。あの時、桜の下で約束をした場所に。今なら分かるでしょ?」


「うん。行って来ます!」


そう言って私は玄関のドアを開いて出て行った。


「・・・やれやれ。やっとあの時の約束がきたのね。まったく遅すぎるぞ幸長」


陽ちゃんは玄関まで見送ってそう呟いた。


「さぁ~て私はもう一眠りするかな。あ~寒い寒い」






公園に着くと私は一目散に走った。


「はあ・・・はあ・・・」


息を吐くたびに白い煙が出る。


私は一期は目だって咲いている桜の木に向かった。


すべてを思い出した。


ぜんせの中での私はとても身分が高い女性でその時の幸長とは絶対に実る事のない恋愛をしていた。


きっかけは千年桜。


あの桜で私達は出会いそして別れた。


たくさんの思い出があの桜には詰まっている。


満月にの夜に家臣に見つからないように屋敷から抜け出して幸長と出会い


「来年には咲くのでしょうか?」


「そうだね。来年にならないとわからないね」


と他愛もない話をしたりしていた。


でも、幸長といたからその時間も私にとって大切な宝物だった。


「もう・・・少し・・・!」


私は思い出を思い出しながら千年桜に向かった。


幸長が死んだと知らされた時


私も死のうと思っていた。


でも、それは幸長に止められた。


そして、約束をした。


その約束の日が今日である。


桜は春に咲くものだと思っていたが、それは今の時代。


昔の旧暦では


冬の季節が春の季節。


だから咲くとしたら今の時期しかない。


「・・・はあ・・・はあ・・・」


周りの木々は花を咲かせていないが、一本だけ綺麗に咲いている桜があった。


その桜の木は今まで見た桜の花より


綺麗で美しく咲いていた。


「・・・綺麗」


私はそう呟いた。


「本当に綺麗な桜ですね」


桜の木の下で一人の男が立っていた。


「この桜・・・なんて言うか知ってますか?」


男は私に背を向けて言った。


「・・・・・・」


「この木見た事ないのに、どこかで見たことがある感じがするんです」


私はその男の人に一歩一歩み寄った。


「もし知っていましたら教えてくれませんか?」


私とその男の人の距離が後一歩くらいになった時振り向いた。


そして私はこう言った。


「この木は千年桜と言って、千年に一度花を咲かす桜の木です。・・・・そして」


「そして?」


「千年の時を越え約束を果たす木と言われています」



どうもはじめと言います。この作品は千本桜を聞いて思い立ち書き上げました。長編ものにもしようかと思いましたが、短編でまとめた方がいいと思いそうしました。短い話ですが、見てくれた人が楽しめたら幸いです。


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