表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
NO,THANK YOU!!
88/485

7.幹部格―8


 血は流れなかった。傷口等焼けとかされて塞がれていた。ただ、地に落ちた桜木の体を、雨が激しく打っていた。

「……俺の勝ちだな」

 ミエルはそう吐き出した。ただ、そう言って、死体をどうこうすることもなく、即座に踵を返して、その場を去った。彼には、雷神に打ち勝ったという事実以外は必要なかった。

 雨はとにかく止まなかった。

 桜木の下に、海塚、零落希華、鈴菜の三人が到着したのは、ミエルが去った後、一○分程してからだった。どれだけ急いでも、この時間が精一杯だった。

「桜木さんッ!!」

 桜木のその状態に気付いた鈴菜は、海塚、零落希華を置いて、即座に駈け出した。何度から転びそうになったが、彼女はすぐに、地面に落ちてしまった桜木の下へと駆け寄った。

 何度も名前を呼び、体を揺すった。だが当然、反応はない。

 後からやってきた二人も、まさか、の後継に言葉を失った。零落希華が鈴菜を宥め、その間に海塚がうつ伏せに落ちていた桜木の体をゆっくりとひっくり返し、その悲惨な有様を目にした。自身の体で、その傷を鈴菜に見せないように努めた。

「……雷神、か」

 海塚は傷痕を見てそうとだけ呟くと、再度桜木をひっくり返し、立ち上がり、ポケットから携帯電話を取り出して回収班へと連絡をつけた。身内の回収だ、とは言えなかった。

 海塚の背後で、鈴菜が号泣していた。零落希華はひたすら宥めていた。まだ訓練も終えたばかりで、これから、桜木の下で実践経験を積む予定だった彼女はまだ、死体にも慣れていないし、身内の死にも慣れていない。慣れたくもないモノだが、いずれは慣れるモノ。そんな鈴菜に、この光景は残酷過ぎた。

 このジェネシス幹部格との戦いで、初めて、幹部格から死者が出てしまった。それは、海塚の精神面に大きなダメージを与え、揺るがした。そして、人工超能力の予想以上の力を痛感した。舐めてかかっていたわけではないが、それでも。

(……、これから、まだ、脱落者が出るというのか)

 悲惨な光景の中で、海塚はジェネシス幹部格との戦いを考えていた。




    37




 桜木がミエルに襲撃された。だが、逆に、ジェネシスが襲撃される事だって当然ある。NPC日本本部も、躍起になってジェネシス幹部格の動向を追っているのだから。

 桜木が殺される二○分程前。桜木がまだミエルと戦っている最中の事。

 新宿区上空。足元には、傘の絨毯が敷かれていた。この雨模様の中、空を見上げている人間はいなかった。それに、『彼女ら』がいるその上空は、この天気もあって地上にいる人間から、視認される事はない。

 強風が通り過ぎた。過ぎていた。彼女――ウェルは、ジェネシス幹部格で、『風神』と呼ばれる女だった。彼女は雷神ミエルがNPC日本本部の雷神桜木と接触したと連絡を受けて、そのまま『飛んで』立川市へと向かおうとしていたところだった。

 だが、その正面から、ウェルと同じように飛んでくる細身の影があり、それが、ウェルの目の前で止まって、ウェルも進行を止めた。

 細い影だった。パンツスーツ姿の、青みがかかった肩までのミディアムヘアーが特徴的な、怜悧な印象を持つ女性だった。

 仁藤茜。NPC日本本部幹部格『風神』である。

 仁藤はその場で浮いたまま腕を組み、相手を眺める。どこぞの民族を連想させるようなゆったりとした服装に、編み込んで垂らした長い黒髪。そして、余裕を感じさせる瞳。

 ウェルの瞳は確かに仁藤を捉えていた。突然の来訪に、驚いてはいないようだ。そんな余裕をもみ切った上で、仁藤が呆れた様にウェルに言う。

「そんだけ飛んでれば自衛隊のレーダーに引っかかるから、やめてもらえるかしら。上に話は通しておいたけど」

 そういう仁藤もまた、余裕を見せていた。だが、警戒は解かない。相手がジェネシス幹部格の人間である事は、すでに把握していた。

(光郷は、また『別の』ところに出ているし、桜木は雷神との戦闘。おそらく先に戦闘している桜木が応援を頼んでるわよね。NPC日本本部で待機していた幹部格は零落と垣根の二人ね。長谷はまだ入院中だし……。応援は、期待しないでおこう。それに、飛べる人間なんて光郷くらいしかいないしね。しかたない)

 仁藤は目の前のウェルを逃がす気はない。そして、生かしておく気もなかった。

 相手の超能力は、見ればすぐに分かった。仁藤のそれと同様に、体の周りに渦巻く、雨を切り裂く風。鋭利な突風。これは、風を操る力。幹部格同士。そして、風神同士であるとすぐに分かった。

 そんな相手を、逃がすつもりはない。

 だが、応援を呼んでおきたいのも事実だった。だが、期待はできない。が、一応に報告はポケットに突っ込んだ携帯電話をねじ込んだ右手で取り出さずに操作して、入れておいた。だがやはり、期待はしない。

「あなた、NPC日本本部の風神ね。私はウェル」

 不意に、ウェルがそう自己紹介をした。仁藤はどうもと適当に答えた。

 その直後だった。動きが見えた。

 ウェルの周りを渦巻いていた風が加速し、そしてそのまま、ウェルが仁藤に突如として突っ込んだ。恐ろしい程の速度だった。一瞬にして目の前に迫って来た様に思えた。雨を切り裂き、空を切り裂き、風の力で自身を浮かせ、その力で直進した。

 だが、それは仁藤も同じ。同じ力がぶつかっているのだ。

 仁藤の反応速度もまた早い。直進してきたウェルを横に身を翻して避けた。仁藤の横をウェルが通り抜け、反対側に止まって振り返った。

 そこに、仁藤が飛ばした鎌鼬が、襲い掛かる。

 仁藤が右手を振るうと、そこから触れたものを切り裂くほどに鋭利な風の刃を飛ばした。風の刃だ、不可視だが、雨が切り裂かれる様を見ると、その影は掴めた。

 それは、ウェルの目の前まで迫ったが、ウェルはそれを体を僅かにずらすだけで避けて見せた。

 そこからの再度、直進。一直線にウェルは仁藤へと突っ込んだ。そして、今度こそ、衝突。

 二人が衝突すると、二人の体の周りに渦巻く風の刃がぶつかり合い、ものすごい音を立てて風同士が打ち合っていた。そんな中、取っ組み合いが始まる。仁藤とウェルが手を合わす形になって押し合った。手が離れると、仁藤の風によるブーストのかかった蹴りが目の前のウェルの腹に突き刺さった。体の周りで渦巻き、体を守っている風の壁は接近しているじてんで相殺されているため、近距離での攻撃は素直に通るようである。

「ッう」

 ウェルの表情が歪み、口元から涎が噴き出す。

 ふん、と息を抜くように呼吸を吐き出したその直後、仁藤の身は翻され、そして、そこから二撃目。回し蹴りがウェルの頬を横から嬲った。

「ぶっ!」

 蹴られた衝撃でウェルは仁藤から離れるように大きく横に吹き飛んだ。床という摩擦がないせいか、ウェルは一○メートル程もスライドするように宙を横に飛んだ。体制が安定しない。ぐるぐると回転しながら飛んだウェルは、一○メートル程の所でやっと態勢を立て直し、風力による足場を得た。

 だが、その隙を逃す程仁藤は甘くない。

 仁藤は前進。宙を真っ直ぐ一直線に飛んで、一気にウェルへと迫った。

 が、その瞬間だった。

「舐めるなよ! NPCごときが!」

 そうウェルが叫んだかと思うと、直進していた仁藤が、ウェルの手前二メートル程に迫ったところで、『弾かれた』。

「ッ!!」

 態勢を崩しこそしなかったが、仁藤は突然襲ってきた『突風』によって後方に大きく押されて下がってしまった。

 見れば、ウェルの体の周りを渦巻く風が、大きく、早くなっていた。体の周りにデフォルトとして張っていた風の浮力、壁を分厚くしたのだろう。そのため、小さ目にそれ張って機動力を得ていた仁藤は、単純な力の差に押されてしまい、後退させられてしまったのだ。

 だが、ダメージはない。仁藤の周りで渦巻く風の壁が防いでいた。

 ウェルの周りには風の分厚い壁ができ、空から降り注がれる大量の、大粒の雨を弾いていた。

 だが、そんな光景を見てもまだ、仁藤は、その怜悧な表情を崩さなかった。まだ、余裕。そんな顔をしていた。

 人口超能力の良い点として、投与し、超能力を得たその瞬間から、ある程度熟練した状態で使えるという利点が存在する。そのため、ジェネシス幹部格の人間の超能力は大分熟練されたモノで、その強大な力で圧倒的な戦闘を見せる。

 が、しかし。ウェルが向かい合うはNPC日本本部幹部格風神、仁藤茜。

 仁藤が見る限り、ウェルの風神としての超能力は、まだ全然及んでいない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ