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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
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7.幹部格―7


「ちょっと欲張りすぎでしょ、イザム」

 イニスがやれやれ、と大げさなリアクションと共に溜息を吐き出した。キーナも頷いていた。ミエルは対して気にしていないようだ。

「郁坂恭介は今、日本にいないらしい。それに、神威亜義斗は負傷中で暫くは動けない。菜奈も付き添いで暫く動かないだろう。だとしたらまず狙うのは海塚伊吹って事になるね」

 キーナが言う。キーナの言葉にイザムが眼を見開いた。どうやら。、恭介や神威兄妹の事情を忘れていたらしい。

「海塚ならセツナが殺すとか言う話だったよな、最初は」

「う、うっせぇよミエル! セツナには待つ様に言ったから大丈夫だっての!」

 イザムが現状を忘れていた事実を隠す様に大音声で叫んだ。この閉鎖された倉庫の中にはその声が良く響いた。

 それぞれが、それぞれを狙っていた。が、今NPC日本本部には、負傷者や他に回っている人間が多い様だった。




    36




 六月後半。梅雨のせいか雨の日が多かった。今日もそれは延々と朝からコンクリートを叩いていた。通学路のあぜ道はぬかるみ、生徒の足を取る様な状態になっていた。

 琴は学校に来れていなかった。まだ、彼女は入院していた。退院までが後一週間程。完治まではそれに追加して三週間程掛かりそうだ、という話だ。

 雨は東京都全土に落ちていた。立川市にも、調布市にも、三鷹市にも、新宿区にも大田区にも、どこもかしこも雨だらけで人々は皆このやまない雨に嫌気が差していた。

 西の方に、雷が落ちた。

 それは、雷雨による自然の稲妻の様に見えて、違う。その雷雨を呼び寄せたのは、巨漢だった。

 東京都、立川市。ここに巨大な公園がある。そこに、稲妻は落ちた。雨のせいか人影は桜木を合わせて二つしかない。二人の間にあった、広場の中央を陣取っていた木に稲妻が落ちて、木を粉砕した。

 轟音が鳴った。だが、二人にとってそれは聞きなれた音だった。

 雷雨は通り過ぎない。まだ数百メートル先で稲妻を大地に叩きつけていた。

 雨の中、傘も差さないで向き合う二人。一方は雷神、桜木将。そして向き合うもう一方が、桜木よりも更に大きい巨漢。ジェネシス幹部格雷神、ミエルである。

 体重一一○kg、身長一七○cmの桜木に対して、ミエルは体重一二六kg、身長一七八cm。普段は体格で圧倒する側の桜木が、逆に圧倒される立場にあった。

 雷神と雷神の衝突が、起きていた。

 両者が駆け出すと、ドスドスと自身が起きている様に、地が揺れた。足元がぬかるんでいるが、二人の足取りは悪くない。しっかりとぬかるんだ地を踏みしめて、互いに向かって駆け出していた。

「おぉおおおおおおお!」

「ぬぉおおお!」

 両者が全身に稲妻を宿すと、そのまま互いに突っ込んだ。稲妻の炸裂する音が恐ろしい。

 二人が衝突した。稲妻が放射状に飛び散った。

 結果、体重差で桜木が押し負けた。桜木の身体が大きく後方に吹き飛んだ。

「ッ!!」

 吹き飛ばされ、後方に飛ぶその最中に桜木は稲妻をミエルに向かって飛ばすが、雷神に対し稲妻は無力。ミエルの体中を這う稲妻に弾かれて飛んで消えた。そして、桜木が濡れた地面に背中から落ちた。

 桜木は即座に態勢を立て直そうとするが、その巨漢故、動きが遅い。だが、それは相手も同じである。

 二人共巨漢だ。その巨漢は攻撃力として生かされる。だが、体格差がある。体重差がある。攻撃力は、今回に限って桜木が劣っていた。

「ッこの!」

 向かって来た稲妻をまとったままのミエルの腹を立ち上がりざまに蹴り飛ばすと、ミエルは桜木の目の前で桜木と同じ様な態勢になるように尻餅を突いた。地が揺れる。

 二人共すぐに立ち上がる。僅かに桜木が早かったが、攻撃の出は変わらなあった。

 雷神対雷神という絵面ではあるが、互いとも、互いの攻撃が効かないため、単純な肉弾戦となっていた。

 殴る、蹴る。殴られる、蹴られる。

 単純な体術スキルは、桜木の方が上だった様だ。二人の間に入り乱れる攻撃のヒット数は、間違いなく桜木が上だった。だが、相手はその巨躯を誇る見えるである。

「きかねぇよ!」

 桜木の攻撃を受けつつ、態勢を一切崩さず、反撃の拳を振るった。それが、桜木の顔面を横から思いっきり叩いた。桜木の表情が一瞬で歪み、そして、吹き飛ぶ。

 が、耐える。足を浮かせたが、すぐに地に落として踏ん張り、ぬかるんで滑る足元を強く踏みしめて、そして、身体を思いっきり捻り、反撃の拳を勢いをつけてミエルの腹へと突き刺す。が、肉が邪魔をする。

 稲妻がほとばしる。二人の攻撃は互いに突き刺さる度に、放射状に散っている。広い公園だが、遠目から見てもその閃光は眼に付く。

 青白い火花がずっと散っていた。

 互いとも、どれだけ殴ろうが倒れなかった。どれだけ蹴り飛ばそうが、倒れていなかった。

 互とも、負ける気等なかった。桜木はミエルをジェネシス幹部格、つまりは敵、流のかたきとして絶対に逃がさず、殺す気で戦っているし、ミエルは桜木を殺して、自身が唯一の雷神にだという証明をしようとしている。故に、二人共倒れない。どれだけダメージを負おうが、絶対に勝ってやる。という粋があった。

 このままでは拉致があかない。と互いとも殴り合いを続けながら感じていたが、先に仕掛けたのはミエルだった。

 いや先に、ではない。そもそも、雷神桜木は『武器』を持っていなかった。

 今回は突然の襲撃だった。例によって桜木が鈴菜を連れてこの公園に来ていた。雨で全然人はおらず、出来る事も出来ないために散策していただけだった。そんな二人の目の前に、ミエルは突如として現れたのだ。桜木は即座に鈴菜を逃がし、NPC日本本部に連絡を入れる様に伝えていた。光郷が出てさえいなければ、援護も期待出来た。が、まだ来ていないところを見れば光郷も出ているのだろう。

 援護はまだなかった。桜木は、敵を逃がす気もなければ生かしておく気もないが、戦う準備が足りなかった。いや、そもそも、彼に『武器』を持っていく、という戦闘スタイルをとっていない。超能力者同士なのだ、超能力でぶつかるのが今までだった。

 だが、相手は違った。

 いつの間にか、ミエルの右手にはナイフが握られていた。

「!?」

 ミエルの鋭利な一撃が、桜木の胸元に真っ直ぐ、正面から、突き刺さった。

「ぐおっ……」

 今までの戦闘で、攻撃を避ける、という行為は存在しなかった。それは、互いの身体の面積が大きすぎるため、避けるという手段が無駄だったからだ。それが、今の一撃も同様。

 ナイフの鋒までが完全に桜木の胸元から抜けると、鋒に引きずられる様に、雨の中に桜木の鮮血が飛び出した。

「ふぐっ、ぐっ……」

 雷神桜木も、胸を貫かれれば、その状態は一般人が刺された時と変わりない。

 全身から力が抜けていた。桜木の足はぬかるんだ足元に取られてしまいそうだった。

 そして、その傷口に、追撃。ナイフを投げ捨てたミエルは、その傷口の中に、右腕を突っ込んだ。

 桜木の表情が苦痛に歪んだ。口から鮮血が吹き出した。身体の中で、違和感が生まれた。そして、激痛。

「身体の中まで、守りきれるのか、雷神」

 そんな台詞を、ミエルは冷静に吐いたが、雨音のせいで桜木には聞こえなかった。

 そして、雷神の一撃。

 嫌な音がした。そして、一瞬、爆発的な閃光がそこに生まれた。気づけば、ミエルの肘の手前まで、桜木の身体に埋まっていた。

 三度熱傷。つまり、破壊。桜木の食道、肺、そして心臓に当てられていたミエルの右手から、億単位の電圧の電流が流された。

 つまり――即死。

 電流が流されたその瞬間、桜木の身体は一瞬はねた。が、動きはそれ以上には存在出来なかった。

 ミエルの腕が血を引いて桜木の身体からゆっくりと抜かれると、桜木のその大きな身体は力なく、雨にまみれた地面に落ちた。地が大きく揺れた。

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