5.臨戦態勢―3
そうか、と呟いて恭介の横に並んだのは光郷だった。光郷を見上げると、光郷が説明し始めた。
「この男は先程言った通り、新兵器と思われている人間です。雷神の報告ではこの男含めて一六体のそれがいたようですが、私達がメイデンのその施設に向かった時は、この男しか見つける事はできませんでした。他の新兵器がいると思われたカプセルも全て開いていて、中身はからっぽでした」
光郷の説明に恭介はただ頷いて応えた。そして、流が続いた。
「人工超能力を使った何か、をジェネシスがしてるって事だな。この男は身体がどうにかいじられてんのかもしれん。今後、日本本部か、どこかはわからんが、NPCで調べてみよう」
さて、と続く。恭介も分かっていた。
本題、だ。
光郷はこの場に残り、恭介、琴、流の三人がまた似たような部屋へと移動した。
そこで見た光景はまた悲惨だった。先の新兵器とやらの男とは比べ物にならなない酷い光景。恭介も最初は、すぐ目を逸らしてしまったが、目をそらしたままで良いわけがない。これが、戦争なのだから。
部屋の構造やある者は変わらない。部屋の中央。そこにあるのは椅子ではなく、手術台の様な台座だった。そして、どうしても目に付く、そこに横たわっている達磨。
手足が根元から強引に断たれた、見るも無残な龍介の姿。
フレギオールでの戦いで見たその本人だ、間違いない、と恭介は自身の中で確認した。
流石に、とは思ったが、どうしてなのか、龍介は意識をはっきりと保っていて、部屋に入ってきた恭介達を思いっきり顔を持ち上げて睨みつけていた。
「くそが! てめぇ、俺の超能力を奪う気だろ!! ふっざけんな!」
叫ぶ余力もあるようだ。龍介の罵声が狭い部屋に響いた。
と、思った時だった。
「うるさい」
静かすぎる、冷たい声が龍介に突き刺さった。
恭介が声の主を見る。部屋の壁に背中を預け、腕を組んで台座に横たわっている龍介を見下ろしている、桃くらいの身長の、女の子。
(ずいぶん若いんだな……)
そう思いこそしたが、その女の子が幹部格だという事は、すぐに分かった。
「彼女が希華ちゃんね。液体窒素の零落希華」
「ども、よろしく」
「うん。よろしくね。恭介君」
やはり零落も恭介の事は知っているようで、笑顔で応対してくれた。握手を交わし、彼女の手が大分冷たい事に恭介は気付いた。
「よし、じゃあ、早速だけど、恭介君」
零落が言った。視線が重なると、恭介は頷いて、龍介の側に寄った。龍介を見下ろす。龍介は忌々しげな目で恭介を見上げるが、口は開かれなかった。何があったのか、正確な情報までは知らない恭介だが、零落に逆らえない程に痛めつけられたのは明白だった。
恭介は龍介の腹部に手を置く。龍介は目を逸らした。抵抗しようとジタバタと身体を動かすが、手足のない今、その抵抗は微塵なモノでしかない。
――五、四、三、
零落もその様子には興味を示していた。強奪なんて特殊な超能力は、今まで存在しなかった。その目に焼き付けておきたいのだろう。
――二、一、零。
途端、恭介の頭に恐ろしい量の情報が流れ込んでくる。
それは、本当の意味で、恐ろしい量だった。恭介には分かる。神威龍介が、人工超能力というブーストをどれだけ使って、どれだけの超能力を発現させていたか、という事実を。
「ッ、」
頭に流れ込んでくる情報量の多さに、頭痛を感じる恭介。恭介のその様子をすぐに察した琴が寄り添う。
「大丈夫? きょーちゃん?」
「あ、あぁ……。大丈夫、だ」
少しきつそうな恭介に、無理は承知で流が問う。
「どうだった?」
苦しそうな咳払いの後、恭介は応えた。
「……数が多すぎた。人工超能力が……多分、一○を超えてる。天然超能力は……一つ。『威力強化』とでも言うのかな……? 殴る、蹴るだのの力が上がるって感じだ」
龍介はただひたすら、険しい表情をして、台座の上でぐったりとしているしかなかった。たった今、超能力は奪われ、そして、手足も失い、発言すら許されない。拷問よりも酷い仕打ちかもしれなかった。
「じゃあ、今、神威龍介は無能力者になったんだよね?」
琴が確認すると、恭介が首肯した。流は険しい表情で何かを考えているようだった。零落は、壁に預けていた背を自立させた。
「さて、どうしましょーか。こいつ」
零落が龍介を指差し、流に問うた。
対して流は、
「神威龍介は、神威業火が兄弟の中でも一番に重要視している存在だ。正直、この状態で返せば神威業火を煽ることになると思われる……が、俺はそうしようと思う」
「ここまでしといて殺さないのか?」
恭介が首を傾げる。いくら捉えるためとはいえ、手足を落とすか、というまだ甘い考えが恭介の中にはあった。超能力者が相手の場合、常人の考え等及ばない、というのに。
対して零落が首を横に振った。
「力を持った人間だからね。存在自体が大きな取引手段や脅しの手段になる。ただで殺すのは惜しいよ」
「そーなのか」
まだ本質までは分かっていないようだが、恭介は頷いた。
その時だった。突然の、爆発音。そして、地震の様な地鳴り、揺れが発生した。規模はそうでもなく、天井が落ちてきて潰される、なんてことはなかったが、爆発音は、大きかった。
「爆発音!?」
恭介は自然と視線を上に上げていた。そうだ、爆発音は上からした。そう、学校の方からだ。
流の表情が曇る。
揺れはすぐに収まった。だが、上の方であったと思う爆発音の影響か、まだ、違和感を覚えずにはいられなかった。
全員が部屋を出た。部屋を出ると、廊下に閃光の軌跡が残っていた。光郷はすぐに上の階へと向かったのだろう。
その光の帯を初めて見た恭介は目を見開いて驚いたが、他の事情を知っている人間は対して気にしなかった。
「これ、邪魔なんですけど。光郷」
そう呟きながら、光の帯を彼女が軽くノックすると、それはノックされたそこから、順次広がるように、砕けて消滅し、道を空けた。
光の帯が消えて、恭介、琴、流、零落の四人は受付まで走った。受付ではエレナがきょろきょろしていたが、流の指示でNPCの奥に避難していった。
そして全員が階段を駆け上がる。
この状況には、違和感があった。
そもそも、NPC日本本部がなんで学校なんて一般人が多く集まる場所の地下にあるか、という話から始まる。それは、暗黙の了解として、超能力者は一般人を巻き込んではいけない。その存在を一般に知られてはいけない、という所から来ている。それは、NPCでなく、ジェネシスでも同様だ。連中は表向きは製薬会社であり、超能力の開発は秘匿中の秘匿。一般人どころか一部の裏の人間にも規制をかけなければいけない程である。
だから、本部はここにあり、NPC側も、一般人を巻き込む可能性があれば、ジェネシスには手を出せなかったし、逆もまた然り。
だが、上から爆発音が聞こえてきた、という事は――仕掛けられた、という事。
もし、推測通り、本当に学校が破壊されていれば、これは超能力の存在を知る人々の間で、大きな問題になるだろう。NPCの日本本部が攻撃されているのと同じ状態だ。相手は一つしかないのだから。
全員が外へと出ると、そこには極普通の職員室の光景が広がっていた。まだ、誰も職員は来ていない。電気も完全に消され、真っ暗な職員室の光景。入ってきた時となんら変わらない光景。
だが、無事なのは一部だけらしい。職員室から外を見て見れば、校舎のモノだと思われる、大量の瓦礫が落ちていた。
これだけの大きな騒ぎが起きてるのだ。遠くを見れば、早くも野次馬が学校の周りに集まって来ているのが確認出来た。恭介の視力ではどうしても距離があって、顔までは確認できないが、中にはこの学校の生徒もいるだろう。
と、その時だった。
恐ろしい程の音がすぐ近くで響いた。そして同時、廊下側から、職員室の中に向って、大量の爆風が流れこんだ。窓が割れ、破片が飛び、扉は前方のそれも、後方のそれも職員室の中に押し込まれるように枠から外れて恐ろしい勢いで飛んできた。




