15.再始動―10
どちらを狙っているか、なんて当人達は一切気にしていなかったが、現実として、敵が狙っていたのはメイリアの方だった。あれだけの対応をしていれば流達だけではなく、敵の目に触れるのも当然で、メイリアという脅威に対して何かしらを仕掛けようとしていたのだろう。
が、運悪くも、流までもが合流してしまった。
流の事を知る人間が多いのは今更な事、気付いた敵達は、僅かに焦り、事を急いでしまった。
いや、急がなくとも、二人が揃ってしまった時点で、現状残っている小規模組織程度では、止める事すら出来やしないのだ。
人質と言わんばかりに巻き込まれた一般人連中を外に移動させたその力の差をみた時点で、退いておくべきだった。自身がする事のない行動だったが故、そこで実力を図ろうとしないのが間違えだ。
数では相手の方が有利だ。が、関係等ない。
メイリアは向かってくる敵に対して自ら突っ込み距離を詰めていたし、流は刀を引き抜いていた。
そこからは、一瞬だ。
結果、互いに一人だけを生かして捉え、そして、叫んだ。
「何が目的だ」
「何処の部隊かな」
それぞれ、それぞれに問う。
脅しは当然ある。流の刀の刃は床に伏せさせた男の首につけてあるし、メイリアは視線が向いているだけでそれに代わる。そして、この場で拘束されているという事は、燃え盛る炎が容赦なく近づいて来るという事だ。長い時間そのままにされれば、当然焼け死ぬだろう。
流に抑えられている敵は、うつ伏せで、熱せられた床のせいで身体の表面に火傷を負ってしまっていた。尚、それは進行している。
それでわかる様に、簡易的な拷問も始まっている。殺すのは簡単だ。だが、こうして生かし、調整した痛みを味合わせるのは流とて難しい。
二人とも、痛みに弱そう、且つ、死の恐怖を持っているであろう人間を選んで生かした。が、敵も敵としてのプライドがあるのだろう。
二人とも、放った言葉は同じだった。
「殺せ」
そして、実行までもが全く同じなのだ。殺せ、というその言葉の直後、たった三文字の言葉を吐き捨てるよりも前に、流は刃を床へと付け、メイリアの足下の敵は頭部を爆発四散させた。
見えていた分の敵はこの攻撃で全て排除した。
が、辺りは見回しておく。
「一体何なんだろうな」
「さぁ? なんだろうね。でも、多分、私を狙ってきたんだろうけどね」
だろうな、と思うが、敢えて何も言いはしなかった。
「さて、付近に敵は……少なくとも、俺の見える範囲には居ないみたいだけど、どうする? 場所を帰るか? 結局飯食べれてないし」
メイリアは可愛らしく素直に頷く。
「うん。話しは済んだみたいだけど、お腹は空いてるしね。なんだろ。この時間だと、居酒屋? だっけ、そういう所なら空いてるよね」
「居酒屋か」
入れるのか、と呟きつつ、流とメイリアは、とにかく、と燃え盛る現場から瞬間移動して飛び出した。
救急車に、いくつかの警察車両も集まっていた。ただの火事ではなく、爆発物による炎上だからだろう。その現場から少し離れた位置に出現した二人は、面倒事に巻き込まれない様に現場から離れ、適当な位置に見つけた席の空いていた居酒屋へと入った。
入る際、やはりメイリアのその見た目のせいで年齢を確認されたが、超能力者だ。問題は片付けられる。
二人して入って、周りの喧騒に紛れる。こういう雰囲気が大丈夫なのか、とメイリアに問おうとしてが、メイリアの極自然な様子を見て、聴くまでもないか、と流は言葉は謹んだ。
「酒は呑むのか?」
「うーん。少しね。強い方だけど、あんまり外で量は飲まないよ。アルコールは麻薬より危ないと思ってるからね。自制するの。どう、偉いでしょ?」
「はは。ま、とりあえず空腹を満たせれば良いだろうし、飲みたければ呑みな。最悪家まで連れてってあげるさ」
「何? これが日本のお持ち帰りってやつ?」
「介抱、な」
談笑しながら、時間は進む。既に硬い話しは済んでいるため、極普通の、友人同士がする様な会話を食事と共に楽しみながら、時間は進んだ。
全てが終わり、メイリアが改めて流に会いに来るという約束を取り付けた所で、二人は別れた。メイリアは散々呑んだにも関わらず、シラフだと言わんばかりに元気で、自らの足で歩いてホテルまで帰っていった。
流は時計を見て、終電が残っている事を確認し、再度、先ほどの現場まで戻って見てみる事にした。
悲惨な事は確かに悲惨ではあるが、やけに落ち着いていてるな、と現場を見て、流は思った。既に処理は済んでいて、時間が時間なためか、それとも危険物がないと判断されたか、警察消防等の公的機関の人員は見えなかった。野次馬もほとんど捌けていて、目の前の道を通る人間が時折数秒足を止める程度であった。
炭と化した柱が何本か確認出来る。どれも途中で折れており、既に家や店としての形は保っていない。
「…………、」
様子からして、死体はなかった、と流は判断している。
道の端により、ガードレールの上に僅かに積もった雪を払い、その上に軽く腰をかけてから、携帯電話を取り出す。画面に降り積もろうとする雪を払いつつ、SNSでの情報を見てみる。
現場の話しは散々出回っているが、死体がどうだのという話しは一切出てきていなかった。この早さでは情報統制するにも時間が足りないだろうし、という事を考えると、本当に見つかっていないのでは、と思えた。
携帯電話をポケットにねじ込み、腰をガードレールから離す。
(誰かが、死体を回収したか……? 警察が上手く隠したか? 爆発のあった現場から首が切断された、頭部が爆発した死体が出れば、当然問題になると思うんだがな)
一応、見る超能力を発動して、辺り一帯を確認する。が、怪しい人影は見つからないし、雪等のせいであまり視界が良くなく、流は今日の所は諦めて、駅へと向かった。
嫌な予感はした。業火達以外の何かが、動いている様な気がしてきてしまったのだった。
32
現実として、問題は山積みである。
「…………、」
流は自身のデスクの前で腕を組んで、デスク前の資料を見下ろして、悩んでいた。ひたすら一人で悩んでいた。
良い知らせと言えば、良い知らせ、いや、提案だ。
NPC、に収まる小規模組織が増えてきていた。長谷夫妻やメイリア等の強力な超能力者を最初の内に収める事が出来た功績が響いているのだろう。今回は組織としてではなく、勢力拡大のため、そして名を抑止力とするために、完全にNPCに下るという形でしか受け入れていなかったが、それでも数は増え続けていた。決して爆発的ではないが、確実に数を増やしていた。
場所によっては地域に一人、県に一人、最悪その県には一人もいない、という形もあるが、日本全国にNPCは徐々に浸透し始めていた。外国の方も基本的にサンフランシスコのみではあるが、メイリアの名前と活動によってNPCを語る者達が増えてきていた。
増えてきていたからこそ、流は悩んでいる。
未だ本部となるアジトが決まっていないのだ。
一度全員を集めて集会をすべきだ、支部を作っていいか、等の相談が続々と送られてくる。が、本部がないため、そういう類の質問には応えられずにいるのだ。
いい加減、アジトを決めなければならないな、と更にその問題で追い詰められたのが、春前だった。
そして、春半ば、流達は新たな出会いをする事になる。
四月。花見シーズン真っ盛り。流達も近くのメンバーでも集めて花見でもして息抜きをするか、と計画に入ろうとしていたその時だった。