4.雷神―6
典明は泣きそうになりながらも、こらえて、必死に言った。
「お前らが信じなくてもマジなんだよ! 文化祭、連れてくるからな! 楽しみにしてろよ!」
典明はそう宣言した。その余りの力強さに、恭介達は疑い始めていた。まさか、本当に、出来ているのではないか、と。
14
アルケミアのアジトは以外な所にあった。
ブリーフィングを終えた恭介達は早速、そこへと向かっていた。
東京都、二三区内。某所のビル内。最上階。そこが、アルケミアのアジトになっていた。外から見れば、並ぶビルの一つにしか過ぎない。真実を知れば、まさかこんな所にそんなモノが、と思うだろう。
それほど、この世は裏の人間に侵食されていたのだ。最近になって、恭介達も現在の日本の在り方に薄々気がついてきていた。
(癒着も酷いんだろうな……)
恭介達はビルの最上階に登るために、ビル一階部のエントランスホールに進入した。昼間だという事もあり、休日だが、人の出入りは多かった。巨大なエントランスホールにも、受付嬢はしっかりと待機しているし、来客者やこのビル内にある会社の社員連中の姿が見えていた。
エレベーターがあり、恭介達はそれにそそくさと乗り込んだ。受付で何かの足止めをくらうかと思っていたが、最上階に裏のそれがあろうと、他は一般企業のエリアだ。すんなりと入る事が出来た。エレベーターも最上階へとすんなりと進んでくれ、恭介達は今まで体験したことがないくらい楽に、敵の本拠地へと進入出来たのだった。
最上階で下りた恭介達。エレベーターを降りると、そこは中途半端に広いスペースとなっていて、自販機や机や椅子があり、休憩ができるようになっていた。その奥に、扉が見えた。それが、アジトへの入口だろうか。
三人は、すぐにその扉へと向かった。ビルの大きさから、中の広さもある程度想像できたし、ブリーフィングで既に把握している。相手が余程の超能力者を抱え込んでさえいなければ、すぐにでも終わる任務だった。
「……あれ、」
扉をいざ、開けようとした所で、琴が首を傾げた。ドアノブに手をかけたばかりの恭介も、動きを止めた。
「どうかしたか?」
桃も不思議そうに琴を見ていた。
すると、琴は眉を顰めて、中を見つめながら、言った。
「誰か、縛られてるね」
「縛られてる?」
桃が不思議そうに首を傾げた。何故この状況で、そんなシチュエーションが出来上がっているのか、といった具合だろう。
「女の人だねー……、って、ちょっと待って」
急に、琴の表情がハッとした。しまった、と言った具合の何かに気付いたような表情に、恭介が問う。
「どうかしたのか?」
潜入前に問題が起きたのか、と恭介は勘ぐった。中にいて、縛られている人物。任務に影響を及ぼす人物。それは一体何者なのか。
「警察……婦警さん、か。若い女性だねぇ」
困ったように、琴が呟いた。
当然、その正体に二人は驚愕する。
「えぇ……。どうするの? 琴ちゃん?」
「はぁ!? なんで警察が麻薬組織に捕まってんだよ。捕まえる側だろうが」
「私に言われてもねぇ」
琴は非情に面倒そうな表情をしている。困ったなぁ、と表情そのまま、溜息と共に吐き出していた。
桃にどうするの、と問われた通り、この場合、隊長の判断が重要になってくる。
基本的に、警察との提携はしているが、下っ端はそれを知らない。それに、普段は極力干渉しないことで、その秘匿の関係を成り立たせているのだ。
だが、恭介達は今から、アルケミアを正面から、力で潰そうとしている。だが、警察が中にいる。判断に困る問題だった。誰にも気づかれずに、この状況を高いできる力でも持っていれば別だが、三人にはそんなモノはない。
「うー……ん。困ったなぁ」
琴が腕を組んでひたすら悩んでいる。
そんな琴を恭介が急かした。
「捕まってんなら、助けてやりゃあ良くないか?」
「そんな簡単な問題なの?」
桃が恭介の言葉に対して疑問を抱く。
「そんな簡単な判断が出来ないから、悩んでるんだよ。きょーちゃん」
琴が残念そうに応えた。
「相手が、警察の前でわかりやすい超能力でも使っちゃえば、特攻できるんだけどねぇ」
と、琴がそう呟いた時だった。
中を見ていた琴の表情が、一瞬にして変わった。そして、
「突入!」
琴がそう叫んだ。同時、恭介が「よしきた!」と手にしていたドアノブを回し、扉を思いっきり開いた。
中は、薄暗いオフィスとなっていて、デスクや椅子が無数に並んでいる空間だった。その奥にまだ、部屋がいくつか確認できるが、部屋に入ってすぐにいた、十数名の人間の視線を集めたことで、どうでも良くなった。
「全員無能力者!」
千里眼により、判断した琴が即座に叫んだ。この行為はあまり良くないが、この現状で、その情報が把握できるのは、それに余るくらいの事。本来ならば、突入前に指示が出せているのが好ましい状態と言えるのだが、今回は仕方がなかった。
相手が無能力者であれば、恭介達からすれば、無力同然である。
恭介が雷撃で連中を卒倒させ、桃が氷を拡散し、連中の動きを封じ、気を失わせた。たった一○秒程度の出来事だった。相手が武器を構える時間もなかった。
全員を無力化して、
「その警察ってのは何処だ?」
恭介がそう訊いたと同時だった。
部屋の奥から、また新たに、数名の人間が出てきた。
「何モンだテメェら」
厳つい声が響いた。見れば、いかにもな連中と、若い行き過ぎた不良のような格好をした連中、計八名程が出てきていた。
その連中を見た、琴の表情が曇った。
「全員、超能力者だね」
その言葉に、恭介達は警戒を強める。連中は既に、恭介達によって無力化され、転がっている仲間達を見て、怒り浸透の様子だ。
「舐めたマネしてくれやがってよ!」
連中の内の一人が叫び、そして――飛び出した。同時、その男は手を振るった。それに合わせて、男の正面から部屋を荒らす程の竜巻が出現し、真っ直ぐ、猛スピードで恭介達の方へと向かって来た。
風の、超能力者か。と判断しつつ、恭介と桃は右に跳び、琴は左に跳んでそれを避けた。恭介達を逃してしまった小さな竜巻は、部屋の扉の枠にぶつかると、四散して風を撒き散らせながら消滅していた。竜巻の通った跡は、無残な状態になっていた。
チィ、と舌打ちをしたその風の超能力者の男は、恭介達の方へと向き合って、距離を詰め始めた。その間に、琴の方へと二人の男が向かってきていた。更に、援護を送るように、風の超能力者の後ろに、二人の男が続いていた。
残りの三人は、まだ、出てきた位置で立ち構えていた。無闇矢鱈に数を増やして戦闘しても、このデスクで狭くなった空間では戦力にならない、と分かっているのだろうか。
風の超能力者は、先程と同様、恭介達に向けて部屋を引き裂く竜巻を発生させて飛ばした。壁紙を霧崎、机を吹き飛ばしながら、竜巻は猛スピードで恭介達の方へと向かって来た。
が、それは、桃が咄嗟に出現させた氷の分厚い壁によって、阻まれ、四散して余韻を数秒残して消滅した。
その間に、恭介は氷の壁の横から抜けて、連中に突っ込んだ。前進するにあたって、瞬間移動を小刻みに使用し、相手に距離感を掴めにくいように突き進み、そして、雷撃。
バチン、と恐ろしい音が炸裂した。見れば、右手に青白い稲妻を這わせた恭介の足元に、風の超能力者が白目を向いて転がっていた。一瞬の応酬だった。恭介の接近に気付いた風の超能力者は、超能力に頼り過ぎていた。近づいてくる恭介に向けてまた、竜巻を発生させようとして、腕を振るったのだが、恭介に阻まれ、そのまま右手で頭を叩かれてノックアウトだ。
恭介達に迫っていた、残りの二人が既に動いていた。一人は、怪力。目の前にあった机を方手でひょいと軽々と持ち上げ、結果的に距離を詰めていた恭介めがけて、投げた。まるで、野球のボールを投げるかのような軽々さで、その見慣れない光景に恭介も思わず目を見開いた。だが、恐ろしい速度で向かってきていた机は、恭介の後方から飛んできた恐ろしい程に固い、氷の塊に押し負け、恭介の手前で床に無残にも落ちて、中に入っていた書類をぶちまけ、変形してしまった。