表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
THANXX!!
424/485

13.悪性腫瘍―3


 立ち上がった春風は、行くかな、と言ったものの、敵の位置が確認出来る状態で止まり、進みはしない。進む必要はない。適度な位置を保っておかねば、あの男の超能力によって能力を封じられてしまう。

 それだけは、避けなければならない。

 空気中に飛ぶ水分を繋ぎ、氷を関節として男を殺す方法も考慮したが、その途中で男の超能力を使用不可にさせるそれの影響を受け、一定から先の制御が及ばなくなったため、遠くからの、飛ばす、攻撃を選択した。

 単純に、狙撃である。

 立ち上がった春風衣奈の肩の上辺りに、一つの氷の刃が出現し、浮いて、止まった。

 鋭利に尖った先端がマイクロミリにも及んでいながら、その強度は計り知れない。突き刺されば、一撃であるのは明瞭で、そして、

「よっし」

 春風は、絶対に、外さないという自身を持っていた。挙句、女が業火を翻弄しているため男は一切場所を動かず、尚更、自身は増していた。

 そして、一瞬。

 炸裂音が小さく響いた。

 女も、流石に振り返った。そして、業火はその瞬間からワンテンポ遅れて、

(超脚力が、使える……!?)

 女が振り返って見た光景は、頭がばっくりと真っ二つに裂け、その右側が吹き飛んでいるその瞬間だった。視線を業火へと戻す最後の光景で、その男の死体が倒れ、血を吹き出す瞬間を認識した。

 そして、振り返ったその瞬間、見えたのは業火の足を上げた姿。足は、既に女の顔の横へと迫っていた。

 反応が、追いつくはずがなかった。

 超能力を封じていたからこそ、相手していたようなモノだ。能力の、発動をなしに。

 反応が追いつくはずはなかった。だが、間に合った。

 業火の蹴りが、女の横顔に、叩きこまれた。

 が、同時、女の身体は反転する様な奇妙な動きを見せて、『無傷』のまま、業火の腹部に拳を叩き込んでいた。

「がっ!!」

 業火が大きく後方へと吹き飛んだ。

「何、今の動き……?」

 春風は咄嗟に身を隠した。幸いにもまだ敵に位置は悟られていない。そこから、暫くは覗けるだけ覗いて、敵の能力を察する努力をする。

(何だろ、今の。確かに、業火君の超脚力が発動した蹴りが、あの女の頬に当たった、しかも、攻撃が振り切られた、って見えたんだけど……、受け流した……?)

 違和感の塊が春風にぶつかる。

 女が、初撃、なんとか超能力を発動させる事に成功した――事で、安堵し、最高の笑みを浮かべた。先の一撃さえなんとかしてしまえば、女はもう負けない。

「大人しく死ねばいいね」

 女は静かに呟いた。

 これが、零落優流をも倒すという自信に満ちた超能力である。

 絶対反撃。完全に性質は周りには理解されていない。だが、彼女の能力を見て、周りが、名付けた超能力名である。

 そして、彼女はその名を気に入っている。

「絶対反撃。私の超能力の名前。周りの人間が勝手に付けたんだけどね」

 そう言って、体勢を低く構えた女を見て、しまった、と勘良く業火は察した。

(さっきの一撃ミスったのは、大分大きかったようだな……)

 能力を発動させたのが、大きな間違いだった。いや、そもそも、先の男の超能力のステージが余程低くい場合でない限り、女一人くらいは、その選択から外せる可能生が高い。

 つまり、女が最初から超能力を使えていれば、業火は鼻から勝てる見込みなんてなかったとなる。当然、男が範囲的設定で超能力を封じていた場合もある。女はあくまで、優流が超能力を使えても、戦える能力を持っているのだから。

 だが、可能生は低い。

(遊んでたのか、畜生)

 業火が構える。

 絶対反撃、という名前を、ヒントとして与えられた。

 超能力戦では、渦中で思考し、経験し、相手の能力を探るのが定石だ。だが、相手は自ら、自身が不利になるであろう事をした。

 それだけの、余裕がある、という事である。

 つまり、舐められている。

 舐められている事自体は、業火にとってはどうでも良かった。

 業火にはやるべき事がある。村へと帰って、ドクトル達とも連絡を取って、『人工的に超能力者を作り上げる方法を生成』し、願いを達成しなければならない。

 つまり、今は、ただ、生き残る事だけが、重要である。

 相手の超能力の名、絶対反撃、から、業火は相手の弱点を推測する。

 その間にも、女は迫ってきて、業火へと次々と攻撃を放ち始める。それどころか、どこに隠していたのか、マチェーテの様な巨大なナイフを取り出して、それを振り回して次々と攻撃を繰り出してくる。

 業火はただ、それを避ける。

(攻撃をすれば、自動的に反撃される。……絶対反撃だ。そして、優流さんの全拒絶をも対処するだけの力であると推測出来る。だとすれば)

 業火は考える。考えた。

 まず、恐ろしく速い攻撃を避けつつ、時折、その刃に肌をえぐられつつも、冷静に、怜悧に、業火は、結論を求めた。

 そして、気付いた。

 まず、相手の実力を考えた。攻撃手段、体捌き、そして、そこから導き出される相手の思考速度。

 その結論として、女は、優流よりも『劣っている』と考えた。

 だからこそ、絶対反撃なのだ、と考えた。

 そここそが、弱点である、と即座に判断した。

 数えきれない程の激しい攻撃を避け続ける中で、一瞬の隙を突き、業火は彼女からほんの僅かだけだが、距離を取った。女は即座に距離を詰めてくるが、業火もアクションを起こしていた。

「衣奈さんッ!!」

 叫んだ、『呼んだ』。

 だが、女は視線を業火から逸らす事は一切なく、足を止める事も全くなく、彼にマチェーテを構えて一気に距離を詰めた。

 女は、ハッタリ、そうでなくとも、視線の誘導だ、とこの激しく、恐ろしく速い戦闘の流の中で、判断した。故に、焦ったと言える。ミスをした、と言える。

 少し、冷静になれば分かったはずだった。仲間であった男、超能力抑圧という名の超能力を持つが、ステージは3と低い男だった。超能力に影響する超能力というのは、奏の複合等を見れば明らかな通り、その数は少なく、類稀と言っても過言ではないため、ステージが低くとも重要視され、現場に出る事は多くなる。奏が幹部格に上がったのも同様の理由だ。

 だからこそ、女は男を大して気に掛けていなかった。いなかったからこそ、気づくのが遅れた。

 男は死んだのだ。どこからともなく、自身の視界の外からの攻撃で。

 超能力者(春風衣奈)がいる。

 気付いた時には、遅い。

 マチェーテの刃が業火の首に叩き込まれるその瞬間に、春風が放った氷の槍が、女のこめかみに鋒を触れていた。

 絶対、反撃。

 自身()よりも明らかに強いとわかる優流に、絶対的な自信を持って勝てると判断出来る程の超能力だ。故に、その強さが、弱点になってしまう。

 女は超能力を『切る』だけの技量はなかった。自身で作り上げたこの戦いの速度だ。自身のミスでも間違いではない。

 反射的に、身体が氷の槍を受け流す様に動き、無傷のまま、マチェーテを自動的に、春風がいる方向へと投げた。その投擲っぷりは凄まじく、マチェーテは恐ろしい速度で春風がいる方向へと飛んだが、既に身を隠した春風に刃が触れる事はなく、マチェーテは図太い装飾が綺麗な柱に突き刺さり、僅かに弾け、静止した。

 女がマチェーテを放ったその瞬間、業火は、女の足を、踏んでいた。ただ、踏んでいた。ただし、超脚力を加えた上で。

 攻撃を受け、反撃し、攻撃を受ける。この動作が同時。

 これは半ば賭けでもあった。相手が、人体の骨格やら筋肉やら、『形の限界』を超える動きが出来るならば、業火のそれは通用していなかったはずだ。

 だが、あくまで、攻撃を躱し、反撃をする。確実に、だが、関節を折ったり、身体をありえない方向に曲げたり、と、自身が負傷しない形で、というのが、絶対反射の限界であった。

 故に、女の両足は、足首から先が、潰され、そして、女は前のめりの落ちる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ