13.悪性腫瘍
13.悪性腫瘍
「総員、ブリーフィングの通り、各隊に分かれて行動っす。例の場所での合流を目指していざ進軍っすよ!」
神名がそう声を上げると、雄叫びが上がり、総員駆け出した。八○名の一斉行進が始まると、流石に地面が響き、衝撃が轟いた。これだけ広大な敷地だが、もしかすると近隣程度には響いているかもしれない。
大勢が、進軍する様を見て、浅倉は不気味な、且つ満足そうな笑みを口元に貼り付けた。
後一歩なのだ。後一歩で、超能力社会を自身のモノへとする事が出来る。超能力社会のトップに、この状態で立つ事が叶えば、仕事をリベリオンで独り占めにする事が出来る。力による完全支配で全国各地の支部を強奪し、その後表社会をも支配する事が出来る。そして、日本を集中に納めれば、その後は当然、世界だ。日本国外にも当然、超能力団体は存在する。恐ろしい程に強い人間も出てくるだろう。だが、一つの国として、超能力者を全面に押し出した軍隊を作り、戦うだけでも意味がある。世界中の敵国は超能力者を押し出さざるを得なくなり、超能力者が世界で認知される。結果はどうであれ、世界を変える事が出来る。それだけでなく、仮に、全て勝ち残る事が出来たならば、その時、浅倉は世界の覇者となる。
歴史に名を残すなんて甘い。歴史を意のままに操る事が出来る様になる。
誰が望むか、ではない。誰が勝ち取るか、なのである。
全員が、重厚な扉の向こう、アジトの中へと消え去った事を確認してかrやっと、浅倉達も歩き出す。
発足当初からいたメンバーは大分削り落とされた。だが、力は圧倒的に増えた。今更、後戻りする理由なんてない。
「手に入れるぜ、日本をな!」
「入ってきたか」
侵入には気付いている。当然、この配置だった。
アジト入り口、エントランスホールには、零落優流、ただ一人がいた。腕を組んで、扉が開くのを待っていた。
当然だ。彼一人で、どれだけの戦力になると思っているのか。
壊れかけで逆に開きにくくなっていた扉が開いた時、まず、零落優流は、大勢の敵達を睨んだ。すると、足が止まった。敵達は一瞬だが、足を止めた。
が、すぐに、全員が流れこんできた。
零落優流は、警戒した。
何故か、敵は死なない。だが、敵が通り過ぎざまに仕掛けてくる攻撃は、しっかりと拒絶する事が出来ている。だが、敵が拒絶を受けない。
大勢が、ただ、攻撃を拒絶するだけの零落優流を無視して、アジトの内部へと流れ込み始める。
(一体どうなっている……?)
不思議な感覚だった。超能力の一部だけが、機能しているような、そんな状態に、何らかの障害を感じる。
が、自身の超能力の効果から、大方の推測はつく。
(全拒絶の影響外の距離から、何かしらを発動されたか)
何かしらが、想像もつかない。
そもそも超能力の効果の発揮の優先順位はいまいちハッキリとされていないのが、現状であり、もしかすると、すぐ側に、そういう事をした人間もいる可能生はある。
案の定、全員がアジト内へと流れ込んだかと思ったタイミングで、二人の人間が残った。一人は男、一人は女。どちらとも、優流よりは一回り程若く見える。
「残念だったな。零落家のおっさん。事前情報があるんだから対策くらい練ってるっての」
「そして私は、アンタを殺すための超能力者だから」
二人とも、無駄に自身に満ち溢れた笑みを浮かべて、零落優流の目の前に立ちはだかっていた。
「…………、」
零落優流の超能力は、それだけで、どれだけ世界中の軍隊を集めようが、テロリスト集団を集めようが、それが超能力者でなければ、絶対に負ける事のない、最強の超能力である。だが、超能力には、超能力者故の弱点は、どうしても出来てしまう。
それを、突いている、と二人は宣言してるも同然である。
警戒はしないわけにはいかない。
何せ、あの絶対的力の象徴とも言える、神が『殺された』後なのだから。今までの完全無敵は、ほぼ無敵、に降格したも同然であるのだ。
実際に、今も相手に対して全拒絶を発動しているのだが、効果は見られない。
(面倒な事になりそうだ)
そう確信した優流は、ポケットを外から押して、中の携帯電話のボタンを押して、仲間達に、侵入された、という連絡を入れておいた。
と、同時、優流は声を響かせる。
「済まない、頼む」
エントランスホールには、優流しかいなかった。だが、その脇の通路には、一人、隠れていた。
神威業火だ。彼は『自ら志願して』、この役を買って出ていた。
二人の視線が優流から自然と突然悠々と登場してきた業火へと写る。
業火は優流の前へと出て、立ち止まり、敵と正対した。
近接戦闘になれば、彼は超戦力になる。
「二対二ねぇ……」
敵の女が、不敵に笑んだ。
が、まだ、甘い。
「……、一応、ここまで来といてよかったかな」
春風衣奈が、四人を観察していた。タイミングを見計らい、二人が勝てそうならば奥へと戻り、二人が危なそうなら、すぐに手を出す。都合よく動ける様に、待機させられていた。
準備は出来ている。数は超能力制御機関が圧倒的に負けている。負けているからこそ、考えられる短い時間の間で、考え、考えきった。そして、考えられるだけの最良の配置をしている。
負けない。負ける気はない。
勝たなければならない。
故に、もう一人。
「……アン?」
浅倉、加治屋、神名の三人は、足を止めた。もう後数十メートルでアジト入り口、と、いうところで、目の先に、誰かが落ちてきた。
落ちてきて、全く無傷のまま、立ち上がったあまりに小さな影に、三人は眉を顰める。
「……ここから先へは、行かせないよ」
という言葉の直後に、どこからともなく、巨大な壁が出現し、アジトへの入り口を封じた。その壁が落ちた衝撃が、八○○人の足音に負けない程の衝撃を生んだ。
「……生意気なクソガキだ」
浅倉が小さく呟く。両隣の加治屋、神名はその呟きを聴いて、一気に不機嫌になった浅倉の機嫌を察した。
察したからこそ、二人は前に出る。
「浅倉さんは先に行ってくれっすよ」
神名がそう言うと、浅倉は当然だと言わんばかりに二人を追い越し、先に行こうとした。
出現した海塚伊吹は横を通り過ぎる浅倉を視線では追ったが、敢えて何もしなかった。通り過ぎた浅倉は放っておいて、伊吹は、加治屋、神名と向き合った。
「言ったでしょ、ここから先は通さないって」
「通してるじゃないっすか。あの程度の壁なら浅倉さんぶっ壊すから」
「その通りだ」
が、二人は、言葉はそこで終わらせた。
視線の先、浅倉の背中、更にその前、浅倉に立ちはだかる様に、一つの影が出現したからだ。
浅倉の機嫌が、更に悪くなった事が、背中を見ても、はっきりとわかった。
「だから言ったでしょ?」
と、不敵な笑みを浮かべる少年、伊吹に二人は戦慄した。
「通さないから」
と、浅倉の前に立ちはだかったのは、衣沙だった。
頭が自ら前に出てきた事自体には驚いたが、都合が良い、とは思わなかった。自身に効果させる細菌兵器は効果しているモノの、敵へと効果させるはずの細菌兵器が『零落優流』によって封じられているため使えない事と、そして、超能力制御機関の人間は、一度、燐との戦いで碌という頭を失っていながらも、勝利し、再起したのだ。頭を潰した所で、それで勝利にはならないのだ。
「通るから」
浅倉はそう返して、そして、自身に細菌兵器を発生させ、思いっきり吸い込み、発動させる。
「ぶっ殺す」
呟いて、疾駆した。
眉を顰めるは当然衣沙。
「お喋りの余裕もないんかい」




