12.遅効性毒素―11
こんなところで死ぬわけにはいかない。三平が自身を拾ってくれた。そして共に組織を立ち上げた。それを、これからまだまだ、超能力制御機関の力を得て、更に拡大させるのだ。
(こいつらをとっとと殺して、三平と合流する……ッ!!)
暗殺部隊とは、殺しの扱いが違う。どちらが良いなんてない。それはクリエイティブな話しでもなく、結局、個々の差でしかない。だが、実力、能力の相性、等々がその覚悟や扱いの違い等と相まって要因となり、
「終わりだッ!!」
島田の拳が、硬質化の効果も発揮されているジーニーの腹部に叩きこまれた。一撃、二撃、三撃。更に、連続する。その間、島田はまだ、『連続慣性』の効果を発動させていなかった。溜めに、溜めていた。
そして、ジーニーが防御を固めて、攻撃を受けていた。連続慣性のその正確な効果は未だ、ジーニーは把握できていない。故に、連続した攻撃の間にも、超能力による攻撃が連続している、と勝手に勘違いしていた。
が、違う。
故に、島田が拳を振り切り、ジーニーがその勢いで大きく後退した、その直後に、恐ろしく重い、ただ一撃が、ジーニーの上半身を吹き飛ばした。
一瞬だった。ジーニーの防御は通用していなかった。
島田の超能力『連続慣性』はステージ6。ステージアップの付加能力として、攻撃を連続させるだけでなく、溜め、そして、好きなタイミングで放つ事が出来る様になっていた。
滅多に見せない力だった。だが、今、それを出し惜しむ理由もない。
拳を引いた島田の視線の先で、噴水の様に吹き出し、狭い通路に赤く、太いボーダーラインを描く鮮血を撒いていたジーニーの下半身は、落ちた。落ちてなお、鮮血をまだまだ、溢れ出させて血溜まりを作り出していた。
上半身は、どれがどこの部分かも分からない程に粉々になり、かろうじて分かる顔の半分の更に半分も、また、遠くまで飛ばされたため、誰にも気付かれる事はなかった。
島田は振り返る。その血塗れの顔で。
見たのは、薬師寺が、その超能力で、ルーニーの首を断ち切った瞬間だった。
単純に相性が悪かった。
薬師寺の攻撃は、障壁系統の超能力であれば、全方位同時に防げる相手でなければ、攻撃が可能である。
後援役に徹している様に見えた。事実後援役だった。だが、彼の超能力は、盾とは違う。攻撃に転じる事も出来るし、そもそも、攻撃系統の超能力である。ありつつ、後援にも回る事が出来る。
無鉄砲、本能のままに、好き嫌いで戦場を駆ける島田の補助をするために、力をそう使っているだけだ。
より考えて動いているのは、ルーニーではない。薬師寺なのだ。
そして、より仲間を信じていたんが、島田だった。故に、彼は明らかに、ジーニーよりも頭の切れそうな相手を、薬師寺へと渡した。
二人は、三平も信頼を置いているコンビである。
そう容易く、負けるわけにはいかない。
条件付けだな、と流は気付いた。
ケイジと名乗った敵のその動きを見て、気づく事が出来た。超能力を持ちながら、ほぼ無能力者であり、超能力社会へと侵入している流だからこそ、柔軟な考えを持てて、故にここまで導きだす事が出来たのかもしれない。
筋肉の動きが、明らかにおかしかった。人間の可能な稼働速度を超えているような、いないような、そんな機微な違和感にまず、向き合って考えた。考えて、気付いた。肉体を強化しているわけではない、と。
そこまで到達した時点で、敵の攻撃を反射神経の追いつく分、受けきれる事を考慮して、更に先に、別の可能性も考えた。考えて、戦って、戦いながら、一瞬気を抜けば負けを生み出す可能性の高いこの瞬間にも、冷静に可能性を削り、より可能性の高い答えを導き出す。導き出し、た。
ケイジが、負けないために条件をつけている、と考えた。そして、その条件こそが、ケイジの超能力である、と分かった。
銃弾を避ける、銃弾を受け止める。そんな事を許せるのは、当然超能力だけである。
そして、激しい攻撃の応酬の中で、ケイジがそれ以外の超能力らしい超能力を見せなかったのと、焦燥の表情が見えたが故、流は、それが一番可能性の高い答えだ、と導けた。
実際に、そうだった。
ケイジはほぼ、無敵である。人体の限界を越えて、動けるといえば動けるのだ。
『条件反射』ステージ5。
ステージ5の時点で、三つの絶対的条件を設定出来るようになっている。そしてその三つを、当然全て埋めている。
一つ、攻撃を避ける。
二つ、一つ目の条件が達成出来る余裕のある場合、反撃する。
そして――、
「終わりだよ」
そう言ったのは、流だった。
相手の超能力がより詳しく分かった時点で、対処法が一つでも存在するのであれば、流に勝てる人間なんて、数えられるだけしかいやしない。
そんなあり得ない言葉を証明するかの如く、流は、ケイジを殺しにかかる。
既に、仕込みは済んでいた。激しい攻撃の応酬の中で、敵の超能力が及んでいない事をついて隙として、仕込みは終わっていた。
後は、誘導するだけだった。
攻撃が連続する。体力的には未だ互いに、まだまだ戦う事が出来る状態であった。
故に、心理戦。近接戦では、僅かにだが、流の身体能力はケイジの条件反射に圧されていた。だが、仕込みが出来ない程の隙がないわけでは、なかった。
余裕自体はあった。ただ、攻撃を当てる事が出来なかった。仮に、だが、条件反射さえなければ、流は既にケイジを斬り払っていただろう。
だが、超能力者同士の戦いである。それを恨む事なんてない。
だからこそ、容赦なく仕掛ける。
流の装備の中から、ナイフが消えていた。
後は、隙を突くだけだった。そして、隙を突く事自体は、問題ない。
攻防の回数を重ねれば重ねる程、当然、ケイジは焦り、流は真実に近づいていく。
条件反射の絶対的条件反射をもってしても、流の動きに追いつく事ができないのか、と焦燥し、そして、流が、よりケイジの超能力を理解して、勝利に近づく。
条件反射に限った事ではないが、超能力には理解が大きく影響する。そもそも理解する事が、超能力の発動の条件にもなっているのだ。理解がなければ、使えやしない。だが、それは逆に、理解されてしまえばされてしまう程、敵に弱点を晒すという事でもある。
それが、今、流とケイジの間に流れている現状である。
条件一、攻撃を避ける。
条件二、条件一が達成出来る場合にのみ、反撃をする。
つまり、攻撃でなければ条件反射によって避ける事は出来ないし、それが攻撃でない時点で、条件反射による条件二の反撃は降りかかってすらこないのだ。
流は、そこまで気付いていた。
だからこそ、終わりだよ、なんて、軽く聴こえる口を叩いた。
流が、攻撃の止まない中、防御に入った。
ケイジの二刀が交差する様に流の胸元に入り込んできた。それを。刀を縦にし、両手で受け止めた。
火花が散る。
そして、ここが転機。いくつかの手段があった。だが、どこまでが、条件反射を発動させてしまうかが、流には把握できていない。
まず、そのまま力任せに、押してみた。後方によろめかせる様に、防御して、押し返した。
すると、
「ッ!!」
ケイジは、僅かによろめき、そして、二、三歩後退した。
見つけた。流は、そう思った。
まず、最初に、相手を動かす手段がなければ、どうしようもない。導く事は出来ても、相手の意図通りでは、無理矢理に追い詰めでもしなければ、『痛みが走った瞬間』に、致命傷を避けて身を引いてしまう。
だからこそ、無理に後退でもさせる手段を見つけた。
そして、流は仕掛ける。