表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
THANXX!!
405/485

12.遅効性毒素





12.遅効性毒素





 戦争が始まった。巨大な敷地の最深部に聳え立つ、寺をモチーフにしたと見える巨大な建造物がある。この、一見すれば巨大な宗教団体の施設の様なこれが、リアルのアジトである。

 数十人真横に一列にならんでも収まり切らない程に大きな扉を蹴破るは容易い。

 様々な超能力者が、揃っているのだから。いくらでも、手段は存在する。

 扉が砕け、内部が明らかになる。

「扉が粉々、か……」

 敵か味方か、誰かが呟いた。

 粉砕された扉が落ちる砂の様な音と共に、足音が連続した。

 開けた視界には、敵が敷き詰められていた。あれだけ殺したというのに、まだまだ、数がいる。エントランスホールであろう、扉を開いてすぐ目の先に開けた広大なホールは、サッカーの試合でも出来そうな程であった。

 敷き詰められる。敵のその全てが、一斉に扉の方へと視線を向ける。同じ程度の数の、超能力制御機関と、その仲間達。

 が、そもそも、数が、力、なのは相手が超能力者でない場合である。

「余裕だね? ね、流?」

 懐いたのか、どうなのか定かではないが、流の横には希美がいて、彼を見上げて無邪気に笑んでいた。

 彼女とは反対側に立つ奏も、頷いて、言う。

「さっきより少ない少ない。二手か三手に分かれて進んでも良いかもね」

 その言葉に、海塚が反応する。

「そうだね。雑魚ばっかり並べてくれちゃって。よっし、ここは早速、零落家の力を借りようかな。今の位置から三手に分かれて正面、右手、左手に分かれて進軍! いっくよ!!」

 海塚の素早い決断と、合図によって、一気に足は早まった。

 進行の邪魔をする敵だけを先陣を斬るメンバーが屠り、そして一気に進軍した。

 それで、

「それで良い」

 零落家党首がそう呟くと、前党首が、言葉を重ねた。

「ここは任せたぞ。私は先に行く」

 そう言って、前党首は党首と孫娘二人を残して、一人、杖を突きながらだが非情に素早い速度で前進していった。当然、敵がそれをみすみす許すはずはなかったが、敵は、前党首に指一本触れる事すら、敵わなかった。

 近づいた敵は一切見向きもしない前党首に触れる直前で、弾かれる様に、吹き飛んで広いこの部屋の端まで吹き飛んだ。遠距離から放たれる攻撃も、また同様。

 その連続した光景を見て、気付けば敵は、前党首を完全に見なかった事にして、残った現党首と希美、希華の三人にロックオンした。が、それも、間違いである事には変わりない。

 それで良い、とは、味方が邪魔になるからこそ、吐いた言葉である。

 希美が言った通り、希華、そして希美もまだ、超能力の制御に甘い部分がある。挙句、零落家の超能力だ。恐ろしく強力で、恐ろしく効果範囲の広い、その超能力を正確に使うには、実力が伴う。現党首でれば、問題はないが、彼が、彼女等を連れてきたのにも、当然理由がある。

「よし、希美からだ。超能力の扱いの練習だと思って、好きにやれ。ただし、一度にまとめて殺すのはなしだ」

「はーい!」

 強いが故、敵がいない。強いが故、一対一の戦いでは、経験にすらならない。

 こういう場は、零落一族にとっては最良の練習場なのである。

 そして、この場は同時に、

「……来た、か」

 復讐の場でもある。

 セツナはこの巨大な施設内に響く振動を感じ取り、流達超能力制御機関が侵入してきた事を知った。

 復讐の場と、考えるのは誰よりも彼である。

 立ち上がり、そして、深呼吸を静かにこなした。

 イロイロと、思う事があった。時代を飛び越え、見知らぬ世界へと一人立ち、そして、復讐する時が来た。

 既に、安樂から現代の状況を、業火という存在と共に聴いている。聴いているからこそ、わかっている。この時代に、自身を殺した人間の父、郁坂流がいる、という事を。

「二度目だ。二度、お前を殺すぞ、郁坂流……!! そして、返してもらうぞ、神威業火をッ!!」

 セツナが、腰に携えた日本刀を引き抜く。まるで、流のそれと、相対するかの様なそれを携えて、セツナはついに歩き出す。

 施設内は騒々しかった。喧騒がどこにでも響いており、耳障りな悲鳴が遥か遠くから施設という密室を反響してどこにいても届いてくる。それに重なって足音や、様々な音が連続して誰しもに届いているため、不快感を抱く以外になかった。

 だが、セツナの耳には必要な音以外は全く入ってこなかった。

 胸に抱く復讐心や様々なドロドロとした感情だけが、彼の感覚として残っていた。

 郁坂流をこの場で断ち、業火を先に手中に収め、そして、未来を変える。

 未来と過去のパラドックスの問題はセツナも理解している。自分が過去に来ても、未来が変わらない可能性も、逆に、過去に来て未来を変えると、ありとあらゆる存在に影響が及び、全てが変わってしまい、自身の存在すら失ってしまう可能性もある、と、わかっている。

 だが、体感して、感じ取っている。可能性があるとすれば、未来が変わる事はない、か、未来が、全く変わる、である、と。

 世界線だの、別次元だの、という難しい話しは抜きにしても、セツナは確信している。自身が消えるのは、死ぬ時だけだ、と。

 故に、彼は堂々と戦える。浅倉の様に、自身の力で自身の未来を勝ち取ってやる、という覚悟を持って行動が出来る。出来ている。

 時間を越えて、彼は更に強くなった。超能力が、という面では大した変化はないが、精神的に、ステージ7を持つ超能力者に、より近い、真実に近づいた人間となったのだ。

 そんなセツナが、最初に遭遇した敵は、

「……敵かな」

 移動に移動を重ね、その戦闘の最中で団体は分かれ、数名若しくは個人となった。その、個人とぶつかった。

「…………、」

 見知らぬ人間だった。セツナにとっては。

 当然だ。

 セツナのいた時代。ディヴァイドは今の程度の規模すらなく、大学のサークル程度の規模の、大した活動もしない組織となっていたのだから。

 彼の前に立ちはだかったのは、偶然にも、三平であった。

 最も、視覚超能力者の様な戦闘向きでない超能力保持者よりも、この場での戦いに向いていない超能力を持つ三平が、運悪くも、セツナとまず最初に、衝突してしまった。

 が、セツナは、郁坂流若しくは、神威業火以外に興味を保たない。

「道を譲れば何もしない。私はお前と戦う理由がない」

 セツナは、効率を選んだ。

 これが戦争、ここが戦場だなんて、セツナには関係がない。セツナには、セツナのヤルべき事がある。

 そして、三平にも、理由はある。ここで、戦わない理由がある。

「……それは、助かるよ」

 三平は、まだ、自身の超能力を使うべき段階でない、と踏んでいる。最終手段だ、味方と合流して最後まで生き残り、いざという時、大勢を救い、大勢を殺す覚悟で使うべきだ、としっかりと先を見据えている。

 だからこそ、セツナと会ったのは、好都合だった。

 互いに、確認する様に頷き、そして、すれ違った。三平は、すれ違い様の攻撃を非情に警戒していたが、本当に、ただ、道ですれ違う通行人同士の様に、何事もなく、すれ違った。

「……何だったんだ、アイツ」

 流石に三平も、こんな事態は想定していなかった。

 すれ違ったあの男はヤバイ、とは思ったが、実害がないとなると、そこまで考える必要もないか、と思った。

 そして、施設内を、お偉方がいる方へと、施設の奥の方へとセツナは進む。敵であるが、認めている。郁坂流は出来る男だ、と。故に、この時代の年齢でも、彼は動け、そして、最深部へと向かうだろう、と想定して、そちらへと移動している。

「…………、」

 セツナは、ふと、立ち止まった。

 知った臭いが近くを流れている気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ