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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
THANXX!!
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11.疑心と信頼―15


 重厚な門が大地を揺らしながら開く。門が完全に外壁の中へと収まった所で、流は数歩進んで門を越え、敷地の中へと足を踏み入れた。すると、当然の如く、流の背後で門は非情に遅い速度で閉まり始めた。閉まる速度が遅く、逃げ出すには十分な余裕があったが、引き返す理由はない。流は門を背に、アジト内敷地に群がるリアルのメンバーを見渡した。

 そして、呟いた。

「うわー……。ざっと見ても一○○○近くいるだろこれ……」

 より正確に言うなれば、三○○○近くである。ともかく、視界一杯、施設までの長距離を全て埋め尽くす程に、超能力者が群がっていた。こんなに、日本に超能力者がいるのか、と疑う程にだ。

 敵連中は不気味に笑んでいる。数の偉大な力を味方にして、絶対的な力を見せつけている。

 当然、それだけの人数を相手出来るはずがない。まず、体力が保たない。物理的に敵うはずがない。

 だが、諦めるわけにはいかない。

 戦い、時間を稼がねばならない。

 海塚の予想の通り、敵は有り余る程の人数をアジト付近の敷地外一帯に配置して、警戒していた。海塚達、仲間達が応援に駆けつけるまでは、どうしても時間が出来てしまう。その時間を、戦って埋めるしかない。敵だって、接触があれば、施設内のメンバーに連絡を入れるのだから。

「とりあえず……この状態になったって事は、やっぱり目的は奏じゃなくて、俺だったって事か」

 そう自嘲しつつ、刀を引き抜く。

 この日のために、カガリに調整をしてもらった刀だ。曲がりも一切なく、ほぼ完品の状態で今、流の手元に収まっている。

 刀を引き抜いた流の様子を見た連中は、やはりな、といった具合に不気味な笑みに深みを与えた。馬鹿な事を、と呟く連中もいた。

 だが、やる事は変わらない。

「さて、捕獲か、殺害か、お前らの目的は知ったこっちゃねぇが!! 俺は戦ってやるよ! オオォラッ!!」

 流が、刀を携えて、走りだした。

 踏み出してすぐ、前方、隙間が一切ないといえる程の、火球や水球、稲妻や氷、ガラス片の様な何か、等など、様々な超能力が、流へと向かって、流を押し返さんとばかり一直線に襲いかかってきた。それは、空気の量を変化させる程の数で、一気に雰囲気までガラリと変えた。

 肌で危険やその変化を感じ取る。近隣の住民ですら、その変化は感じ取れたのではないか、と思える程だった。

 だが、流は止まらない。止まる理由はない。

「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 気合を入れる様に雄叫びを上げ、そして、連中の攻撃の全て、とは行かないが、進行の邪魔になる全てを薙ぎ払わんとばかりに、日本刀を振り払った。

 空気が爆発する。

 弾ける攻撃の連続に、視界は一気に不明瞭になった。が、連続して襲いかかる攻撃をも、反射神経のみで全て叩き斬ってやる、とばかりに流は邁進する事を止めなかった。

「ッ、が、くっそ……!!」

 流が、やっと攻撃を斬った事で上がった煙の中から飛び出すと、そこは既に、敵の目の前だった。敵だって、向かってきていたのだ。

 予想外ではあったが、想定内。

 既に、無数に飛んできていた遠距離攻撃の避けられなかった分を肩や横っ腹、足に掠めてしまった流だが、まだまだ止まる気配は見せない。

 敵は空以外を埋め尽くしていた。どれから、斬れば良いのか判断を迷わせる程の数が、流を囲み始めていた。

「オォオオオオオオオオッ!!」

 三○○○人弱の足音に、負けない雄叫びを上げつつ、流は刀を振るう。

 敵の数は多い。だが時間まで斬り続けるだけだ。

 三○○○人もいると、休憩する暇なんて言葉そのまま、本当に一瞬すらない。様々な超能力者が様々な超能力を振るって襲い掛かってくる。

 流が五○人程度を、殺傷、非殺傷関わらず斬り捨てた所で、早くも、いや、ついに、一度、攻撃が止まってしまった。

「ッ!?」

 硬質化系統の超能力者が、ついにぶつかった。流の流れる様な体捌きによって描き続けていた刀の軌跡が、ついに止められてしまった。

 その一瞬の隙を突くには十分な程の数、敵はいる。それも、すぐ近くに。

 真正面から、衝撃波が叩き込まれた。同時に超腕力等、様々な攻撃が計七発程発動されていたが、まず最初に当たったのは、衝撃波であり、流の身体は後方へと吹き飛んだ。

 が、そこにも敵。

 敵も敵同士の連携が取れる程の状態ではなく、飛んできた流にぶつかって、受け止め、よろける程度の反応しか見せる事は出来なかった。

「退けッ!!」

 流は即座に肘で打ち、自身を支える形でよろめいた敵の手から離れ、目の前に迫ってきていた敵二人と黒く淀んだ超能力的な攻撃をまとめて断ち斬り、更に、振り返り様に背後の三人を斬り捨てた――所で、

「かかったな!!」

 誰かが嬉しそうに叫んだ。

 と、同時、爆発。

「がっ!?」

 流が先程斬った黒い塊の様な何かは、斬れば、もしくはぶつかれば、つまり、何か衝撃が与えられれば、爆発する爆弾の様なモノだったらしく、流はすぐ背後で起きた爆発に、再度同じ方向へと吹き飛ばされる事になってしまった。

 が、ステージが低いのだろう。爆発は、その一撃だけで殺傷出来る程の威力は持ち合わせていなかった。挙句、敵も密集しているこの状況でそんな爆発が起きれば、敵をも巻き込んでしまう。

 流が吹き飛んだ際に、敵も大勢巻き込まれて体勢を崩した。真正面から爆発を受けた連中は顔をとかし、一気に戦闘不能にまで陥っていた。

 流はよろめいた敵共よりも早く立ち上がる事が出来た。が、背中には激痛が走っている。殺傷能力がなくとも、爆発があった以上、あの距離で、当たった以上、傷は追わないはずがない。

 そんな激痛に怯んでいる暇はない。刀を振るい、即座に近づいてきていた敵を数名斬り払い、残りに距離を取らせて、振り向いた所で、目の前に、火球と、先ほどの黒い塊が、同じ速度で迫ってきていた。

「ッ!?」

 反射神経は、勝っていた。流が上体を逸らすだけの最低限の動きでその二つを躱すと、通り過ぎ、流の背後から迫ってきていた五人にそれらは当たり、爆発により更に数名を巻き込んで吹き飛ばした。

「くぅ、」

 爆発の爆風と衝撃で僅かに流もよろめくが、先よりは幾分もましな状態を保つ事ができていた。

 そして、再度、戦いは続く。

(早く応援来てくれッ!!)

 流石の流でも、これは窮地だった。

 相手の一部は、最初こそ、超能力を断ち切る刀に驚いていたが、今や既に、驚きもなくなっていた。それだけ珍しい代物を持っていようが、これだけの圧倒的な数の差には、勝てるはずがないのだから。

 次々と振りかかる無限に近い攻撃を、流は全てを避け、全てを斬る事なんてできやしない。大勢を片手で数えられる人数ずつ削る事はできているが、終わりなんて見えやしない。

 結果、生き残ってこそいれど、時間と共に傷を増やすだけに陥ってしまう。

「くっそ……。くっそォオオオオオオオオオオオ!!」

 叫ぶ。本当に、気合と反射神経だけでどうにかしている状態だった。

 が、時間は、十二分に稼げた。

「しまったッ!?」

 流が、振り返ったすぐ目の前まで、男の拳が迫っていた。が、そこで、止まっていた。

 止まっていた。止まらされていた。

 気付けば、恐ろしく寒くなっていた。

 だが、気持ちは大分楽になった。

 思わず、腰をその場に落として、座り込んでしまう程だった。

「お、おっせー……よ」

 流は、笑った。

 広大な敷地の中で跋扈していた敵の全て、いや、流以外の人間を、まとめて固める様に、氷の塊が、出来上がっていた。一瞬の内に、だ。

 空気を一瞬で変化させる程の氷の塊は、もはや氷山と言っても過言ではない。その中に封じられる様に無数の敵の形は見えるが、生きている様子なんて、微塵もなかった。

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