11.疑心と信頼―14
目的はただ一つ。浅倉という最強最悪の細菌兵器が自ら出向き、秘匿に行動し、リアルの内部にいる有力者をリベリオンメンバーとして引き入れるのだ。
当然、好条件を出す。リベリオンという伸びしろのある中規模組織だからこそ、出せる好条件もある。
どこまで上手く行くかは分からない。最悪脅す事もあるだろう。
星地の超能力と同様だ。細菌兵器は通用しない相手が少なく、その能力者さえいなければ、無敵も同義であるのだから。
(相手はリアルだ。通用しないヤツも絶対にいる。選定はしっかりとしないとな)
浅倉も警戒している。
三城は当然、疑っていた。まだ、流達に全部話してはいない。当然だ。話せない。
「あぁー……。あぁああああ!!」
与えられた平屋の一軒家。小さな自宅だが、三城には広いくらいの場所である。茶の間で、声を上げたのは当然三城だった。彼女以外にはいない。
彼女は言葉の通り、別の時代を知っている。
これは嘘ではない。記憶の改変でもない。紛れも無い事実である。
故に、彼女は知っている。郁坂の血筋も、零落の血筋も、春風の血筋も、そして、神威家の血筋も、だ。
だからこそ、疑っている。神流川村の名前も知っていた。業火から聴いていた。彼の出身だとは思わなかったが、これだけのメンバーが揃っているのだ。三城の知っている郁坂、神威と違う存在ではない、と確信してきていた。
だからこそ、疑っている。
テレビを消して、そのままソファの上に身を投げた。
休んでいるようだが、溜息も出るが、思考なフル回転している。
(なぁんで、郁坂流と業火さ――神威業火が仲良くしてるのかなぁ……。あ、でも、確かに、噂で神威業火がセツナが郁坂流を殺した後、墓参りに行ったなんて聴いた様な……? あんまりハッキリしないし、誰にもそれを聴いても答えが出ない事はわかってるんだけど)
この時代に来てから長い彼女だが、未だに他の、同じ境遇の人間と出会えていない。先にも後にも、同じ境遇、同じ目に合わされた人間はいるはずだが、会えない。
そもそも、この時代でも日本の人口は六億を超えている。その中に十数人程度混ざった所で、大勢が気づく事はない。未戸籍児が問題になっている様な時代が、まだまだ、少なくとも一○○年程続くのだ。誰も救われやしない。
それに、この時代に上手く馴染めず、既に死にかけの人間、死んだ人間もいると想定出来る。また、三城とは全く違う時代に飛ばされた人間もいるかもしれない。それこそ、人間の寿命として、一切関わる事がない時代に飛ばされた人間もいるかもしれない。
故に、あまり期待は抱けない。
だが、仮に会えたと想像した場合、話しがどれだけ出来るか、と思う。感じる。それくらいは自由だろう、許してくれ、と胸中で溶かす。
そして、胸の中で暴れている違和感を、解消したい、と思っている。願っている。
(郁坂流……なんか、変だよなぁ……)
三城と同じ感覚を抱いた人間はいた。
が、リベリオンがリアルの横浜にあったあの支部を襲撃した際に、流を追って支部にいたために、死んでしまった。同じ時代にいた、稀な可能性は既に失われていたのだ。
ここまで、あの時代の業火が考えていたかどうかは分からない。だが、業火にとって必要のない人間が、あの実験の犠牲となって、三城の様に別の時代に存在する事になってしまっている。
だからこそ、生き残れている人間は少ない。三城の前任者もほとんどが人生を終えている。後任者の半分も、同等だ。
が、まだ、可能性が零になったわけではない。
三城のやるべき事、それは、遠くない未来。起こりうる事を阻止すし、且つ、仲間を探し、そして、あるべき時代に戻る手段を探す事である。
業火の下にいた人間ではあるが、こんな目に合わされて、今もなお、彼のために動こうなんて思っていない。寧ろ、今の業火と初めて顔を合わせた時は、殺してやろうか、と思ったくらいだった。
故に、三城は超能力制御機関に収まっている。味方している。
だが、しない人間もいる。
「……だから、その神威業火を追え、と?」
安樂は眉を顰めて首を傾げつつ、頷いた。
「あぁ、そうだ」
対して、リアルへと一人、フリーの超能力者として新規に参加した男は『セツナ』と名乗って安樂の下までこぎつけた。
彼は、三城と同じく、業火の実験台にされ、この時代に飛ばされてきた人間である。だが、彼女と違う点として、『業火への忠誠心』と、『郁坂家への復讐心』を抱いている。寧ろ、それがあったからこそ、ここまで辿り着く事が出来た。
時代を跨いでから一年間。彼の研ぎ澄まされた間と執念により、すぐに超能力社会を発見し、そして、力関係等の観察に時間を費やした。そして、其の上で、判断した。現超能力制御機関は、セツナのいた時代のNPCに相当する、と。故に、その対局にいれば、自身のボスであった神威業火に近づく事が出来る、とそう判断した。故に、彼はここにいる。
が、神威業火。その名を知らない現代の超能力者なんて、そう多くない。
安樂も当然、彼の名は知っている。業火の父、燐があれだけの事件を引き起こしたのだ。リアルがほとんど巻き込まれなかったとは言えど、知らないはずがない。
だからこそ、疑いつつ、且つ、利用出来る情報かもしれない、と思い始めていた。
(こいつの言動だと、この時代の神威業火の事は本当に知らないようだな。……未来から来た、というのは正直、疑いたい所だが……。ドクトルが人工の超能力を研究している所だ。近くなくとも未来、そんな事が出来る様になるのかもしれないな。可能性は否めない。もう少し、話しを聴くべきか?)
確認の意味も含めて、安樂は話しを続ける事にする。この様に、超能力の可能性を否定しないからこそ、ここまでこれている。
「その、神威業火とやら……一体どんな人物なんだ?」
敢えて、まだ、知らないフリをして、確認をする。と、セツナは嬉しそうに応える。
「あの方は、超能力の一時代を築き上げたお方だ。私がこの時代に来たのは、全てが終わる前だったから全貌は把握できていないが、きっと、NPCを壊滅に追い込んで、世界を超能力世界へと変えていたはずだ」
(超能力世界、か……まぁ、発想は悪くない)
「複合超能力者として、時間を操作する超能力を開発する事に成功して、成功した上で、適合までした。それで、私を実験台にしてくださり、今に、至るんだ。だから、私は現代にいるはずの神威業火に合い、協力する立場にならなければならないんだ」
「なる、ほ、ど……」
目的は分かった。話しを聴いていて、彼の神威業火に対する謎な程の忠誠心も理解した。した上で、やっと、話してやる事にした。
「……お前には、悪いが、今現代の神威業火は、そんな人間じゃない」
言い切った。その言葉を聴いた後の、セツナの表情を、安樂は忘れないだろう。
そこからの説得は、安樂の技量次第。そして、安樂はそれに合わせるだけの技量を持っている。
提案をした。
27
日付は変わる。時間は止まらない。その日は、やって来てしまう。
最終日、奏と一日、二人で過ごした。彼女に関する彼女の知らない全てを知っている流だが、それらは無視し、奏、郁坂奏という人物と充実した時間を共にした。
そして、互いに、覚悟を決めて、この日へと挑んだ。
リアル本部は巨大な施設だった。地元の人間はそこは巨大な宗教団体の施設だと言っていたが、全く違う。ここまで巨大な施設をカモフラージュするには日本では、それか会社とするのが一番手っ取り早いのだな、と、それを前にして思った。
宗教施設と言われれる程で、周りを一切受け入れない外壁と、広大な敷地と、巨大な鳥居を連想させる高さ二○メートルを超える程のモニュメントと、その遥か先に見える、黄金の瓦屋根が印象的な、巨大な建造物、アジトが、目立つ場所だった。
「――よっし」
入り口の巨大な門の前からでも見える。既に、リアルメンバーの大勢が、流を待っていたとばかりに敷地に集まっている姿を確認する事が出来る。
覚悟は、決まっている。
流が歩を進めると、門は見張っていたとばかりに自動的に開かれた。