3.宗教団体―13
恭介はこの、『戦闘に陥っていない』会話の段階で、相手をできるだけ査定する。出来るだけの情報を引き出しておいた方が良い。相手は、超能力者なのだから。
「まぁ、面倒事は下っ端がやんのが定石なんだけどよ。今回は、NPCの『新顔』がいるかもしれないってから、俺がわざわざ顔出したって訳。この俺、神威龍介が。お前らラッキーだぞぉ。俺を直接見れるなんてな」
「…………、」
恭介は見定める。警戒する。そして、探る。
「挨拶か」
「その通り。茶髪のお前。お前みたいな、面白い超能力者にも出会えたしなぁ。収穫としては上出来だ」
「……そうかい」
恭介のその言葉を最後に、会話が途切れた。つまり、それ以上、語る事はない、という事。
その後は、
「ま、そんな所で、俺ァ帰っから。また会うだろうな。じゃあな」
そう言って、神威龍介は瞬間移動でもしたかの如く、その場から一瞬で姿を消して見せた。こうやって姿を消したところを見ると、本当に顔を出しに、挨拶しに来ただけだった様だ。
「ふざけた奴だ」
恭介はそう吐き捨てた。
三人はその場に残った信者達には特に触れず、その場を後にした。打ち上げ等やる気にはなれない、すっきり仕切らない、不完全燃焼な事の終焉に恭介達は当然納得が行っていない。
NPCに戻ってこれたのは夜の二三時頃だった。元々夜に出向いたのだ。これでも早く帰って来れた方である。
恭介達はまだ残っていた流と会い、事の全てを話した。当然、彼は人工超能力、という言葉に反応を見せた。そして、すぐにフレギオールに対する調査を始めると言った。
そして、それぞれ帰宅。深夜零時。それぞれが家についたのはその頃だった。
9
季節は十月に入って完全に秋になった。皆が文化祭を待ちわびる季節である。
十月某日、恭介達は学校にいた。
「なぁ、恭介。お前ポテチ持ってねぇ?」
昼休み。トイレで用を対していた恭介の隣りに並んだ巨漢が、不意にそう聞いてきた。この巨漢は、クラスメイトの桜木将だ。身長一七○センチ。恭介よりも五センチ程小さい。体重一一○キロ。アバウトに言えば、0.1tと少しである。
男子用小便器に並ぶ二人だが、桜木の横っ腹が恭介を押していた。
「学校にポテチ持参してくるのはお前くらいだ。桜木。俺は弁当しか持ってきてねぇよ」
「じゃあ弁当でイイや。くれ」
「アホか! もう食ったわ! 食ってなくてもやるか!」
ふぅ、と溜息。
手洗い場に移動して、洗いながら、恭介は問う。
「何。自分の弁当だけじゃ足りなかったのか?」
「いや、根本的な所から違う」
「?」
「弁当忘れた」
「そりゃ大惨事だ。お前が食いもん忘れるなんて」
はいはい、と乾いた返事を帰して、お手洗いから出た恭介、それに続く桜木。廊下を歩きながら、桜木が言う。
「そういえばだけどよ、お前最近何、彼女出来たの?」
「できねーよ。それどころじゃねぇんだ。今」
それどころじゃない。色恋沙汰に触れる機会すら今はない。NPCとして、働いてから、今、時間は減っている。当然、ある程度の時間の確保は出来ていたが、最近は尚更忙しくなってしまっている。フレギオールでの件で、人工超能力の関わりが証明されてしまったからだ。
今まで、人工超能力の情報が少なすぎた。だが、こうやって実物が出てきて、実物と戦闘した人間が出てきた。忙しくなるのは決まっていた。
「えー。でも、皆言ってるぜ? お前が春風さん捨てて長谷さんと付き合い始めたって」
「…………、」
恭介の足が止まった。続いて桜木の足も止まった。恭介は隣りに並んだ巨漢の顔を見て、はぁ? とげんなりとした表情を見せる。何言ってんの、と顔に書いてある気がした。
「違うのか」
「違うに決まってんだろ」
はぁ、と続けざまな溜息を吐き出して、恭介は自分のクラスに戻るために歩き出した。桜木も続く。
「お前が歩いてると余震が続いてるみたいだな」
「俺の体重は学校を揺らす程なのか」
「そういえばだが、」
「うん?」
「お前腹減ってんだったよな」
「おう。減りすぎて目に見えるモノ全てを吸収してしまいそうだ」
「放課後、典明とファミレスに飯食いに行く約束してんだけど、行くか?」
「当然」
「よしきた」
そういう話の流れが出来上がり、そこでやっと二年三組。恭介達の所属するクラスへと戻って来れた。そこで桜木とは別れ、自分の席へと戻る恭介。周りの連中は、蜜柑と桃がいなかったが、典明、琴は席に座っていた。
「やほ、きょーちゃん」
「…………、」
呼ばれて、恭介は思う。
(呼び方が変わったのも一つの要因な気がしてきた。今更どうしようもないけどな)
「どしたの? ポケーッとして」
「いや、なんでもない」
自分の席へと腰を下ろして、はぁ、とまた溜息を吐く恭介。恭介は琴を見て思う。琴は、そんな風に言われている事を知っているのか、知りたかったが。訊く気にはならなかった。
「あ、そうだ、典明。今日の放課後、桜木も来るから」
「じゃあ私も行っていいかな?」
典明が返事をするよりも前に、琴が乗り出してきた。
「なんでだよ」
「あー。冷たいなぁ。きょーちゃん。最近冷たくない?」
「冷たくないしもとより暖かくもないから。で、いいか? 典明?」
「いいぜ、桜木も長谷さんもな!」
サムズアップと共に、白い歯を剥き出しにした、最高の笑顔が、恭介に向けられた。恭介は思わず視線を逸らした
(琴とあんまり一緒にいると、勘違いされるみてぇだし、……つっても、NPCで一緒だし、席もちけぇし、……一応、告白まがいのこともされてるし……。面倒な事にならなきゃいいがな)
恭介はまた、溜息を吐き出した。
忙しさも相まってか、恭介は普段の、プライベートを楽しめないでいるような気がしていた。だからこそ、今日、NPCの休みまで取って、久々に典明と御飯に出かけようというわけだ。
何かが足りていないのか、何かが多過ぎるのか。分かりはしないが、スッキリしない、妙な気分が、恭介の中に生まれていた。