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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
THANXX!!
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8.それぞれの目的―14


 男は、流れに見覚えがあった。最初、一部分だけが彼の知っている郁坂とは違うため、そして、こんな場所にいるとは思わなかったため、目を疑ったのだが、見つめて、確信を得た。間違いない、郁坂だ、と。

 群衆の中を突き進む一行と、流の後を男は追う。

(どこに行くつもりだ……? それに他の人間は、一体……)

 進むにつれ、流達が目的地に近づくにつれ、男は、気付く。

(この感じ……、超能力者か!?)

 気付いた。流の仲間達、超能力制御機関のメンバーが集まり始めるにつれ、男は久しく感じていなかった感覚を思い出し始めていた。暫く感じていなかった、あの、肌がピリピリする嫌な戦闘の感覚を思い出す。思い出し始める。そして、一瞬だが、迷う。

 まだ、追跡するか、それとも、この先が危険だとしって、この好機を逃し、身を退くか。

 だが、一瞬だ。

(この好機を逃せるか。逃せば二度と『戻れない』かも知れないってんだ。絶対に、郁坂のクソ野郎を捕まえて、事情を聴きだしてやる)

 男には、目的が出来た。『あれから』今まで、ずっと、大人しく生活をしてきた男は、既に超能力は使わない、と封印するくらいの気持ちでいた。

 五年だ。男は五年、そんな自分の知らない時間を過ごしていた。超能力を振るう事もなく、戸籍だけなんとか偽装し、身分を獲得し、極普通の生活を送っていた。いずれ誰かと結婚して子供をつくって、『今まで』の事を全て忘れて、極普通の生活を送るのだろうな、とまで思っていた。

 だが、今回の、本当にただの偶然の邂逅によって、その考えは吹き飛んだ。

 男は一瞬で覚悟を決めた。再度、超能力の世界に足を踏み入れる覚悟をだ。

「……よし、とりあえず、死にはしないって」

 久々の張り詰めた空気。周りの一般人全員が浮ついている様にまで思えた。周りの一般人は全員爆発でもしてしまえ、と言わんほどに緊張し、苛立ちまで募っていた。

 男はついていく。流は男になんて気付かずに隊長と共に先を急ぐ。

 そうして、目の前にまで来た。巨大なビルだった。付近にあるランドマークタワーに比べれば遥かに劣るが、二○階までもあるそこそこの規模を誇る天に向って聳え立つ巨大なビルだった。一見すればただのどこぞの会社のビルだ。もしかするといくつかの会社が入っているタイプのビルだとも想定出来る。

 事実そうだった。

 リアルにビル一つ丸々買い取る力はなかったようで、彼等はブリーフィングの通り、一七階のフロア一つに収まっている。

 その道中は、まだ一般である。超能力の世界ではない。だが、一七階フロアには別の世界が広がっていて、このビルの住人として超能力者が存在している。ビルの入り口に入ったその瞬間から、既に任務は始まっている。どこに敵がいるかわかりはしない。

 相手の中には恭司がいるのだ。それに燐と神の一件で大勢が顔を知られている可能性がある。素早く動く必要がある。

「……入った。我々はエレベータに乗り込んでまず一○階に登る。その後、乗り換えて一七階まで一気に飛ぶ。他の隊が道中の足止めをする。一七階に降りたら我々は一気に恭司の下まで、チェイサーは準備。他の隊が恭司以外の制圧にかかる。最悪、殺しなさい。死体でも良いから」

 隊長が呟き、流達が頷いた。全隊全員がエレベーターに乗れば、当然怪しまれる。その場にリアルのメンバーが一人でもいれば余計な連絡を入れられ、警戒されるのが落ちだ。

 一部の隊、総勢一○名程は階段を駆け上がる。戦闘慣れした体力に自身のある連中だ。階段を駆け上がる速度も速い。

 流達は彼等と分かれて、降りてすぐフロアを制圧するための部隊とは違うエレベーターに乗り込んだ。幸いにも他に乗り込んだ一般人はいない。狙ってそうはしたが、上手くいった。

 そして一気に一○階まで登る。

 当然、それを男は追わねばならないが、もう一つのエレベーターに乗ろうとしたが、もう一つの隊が上手く入れない様にしてしまったため、男はエレベーターに乗る事が出来なかった。

「ッくっそ……」

 このビルのエレベーターは地下三階から一○階まで繋がっているモノと、一○階から二○階まで繋がっている二種がある。つまり、一七階まで上がるには一○階で乗り換えなければならない。が、当然男はそんな事を知るはずもない。

 流達が乗り込んだエレベーターが一○階で止まった所を見て、男は階段に急ぎ、そして、階段を駆け上がった。目指すのは一○階である。

「クリア」

 隊長がまず、一○階で止まったエレベーターから出て、そう呟き、二本指を振るうと続いて流達が廊下へと飛び出した。先行する隊のエレベーターはまだ到着していないようで、隊長が一○階から上へと上がるためのエレベーターを二つ、呼んでおいた。

 どちらも最上階で止まっていたため、来るまでは暫く時間が掛かりそうだった。

 廊下は特に何も変わりなく人影もなかった。昼食時を終えてほとんどがオフィスにこもっているのかもしれない。

 近くから人のいる気配が声となって届いてはいるが、動く様子はない。仕事に集中しているのだろう。流達もまた、仕事に集中せねばならない。

 エレベーターが到着したのは、下からのが最初である。制圧部隊と合流、その次に到着した上りのエレベーター二つに再度分かれて乗り込み、そして上へと向かった。

 エレベーター内は緊張に包まれていた。次、このエレベーターが止まり、扉が開いたその瞬間から、戦場だ。

 緊張の生唾を飲み込む。

 そして、扉は開かれた。一○階で廊下に出た様にはいかない。飛び出し、その瞬間から疾駆していた。

 フロアを制圧する部隊の十数名が一気に拡散される様に広がった。そんな彼等は早速、目の前にいた超能力者を跡形もなく塵と化して消し去った。一体何の超能力を使ったのか、と思う程一瞬だった。

 そんな光景を横目に、戦闘のほとんどを無視して、

「そこを左です!」

 チェイサーの誘導に従って、四人は恭司の下へと突き進む。

 戦場だった。だが、超能力制御機構とて、人手不足だろうが、今一番厄介な相手の支部を潰す事に余念はない。流達の目の前に複数名の敵が迫ってくる。だが、流が抜刀するよりも前に、制圧部隊の人間が恐ろしい程の速度でそれを屠り、流達の道を切り開く。

 敵はパニックに陥っている様に見えた。あちこちから悲鳴が聴こえてきて、響き、一七階のフロアを一気に恐怖の色に包み込む。

「次を右、突き当りの扉の先! 確認出来てるだけで恭司さん以外に三人!」

 純也が叫ぶ。叫び、そして、隊長が扉を蹴破った。

 扉が蹴破られる激しい音が炸裂した。そして、一瞬の内に切り替わった光景の中に見えたのは、広い部屋だった。デスクがまばらに並ぶ、仕事の出来ない人間が集められる仮のオフィスの様な、そんな空間だった。

 そこに、恭司を含め四人の人間がいた。部屋の中心に恭司ともう一人、そして、部屋の端と、その対象の位置に一人ずつ、全員が男だった。

 全員、飛んだ。隊長と純也が真っ先に恭司と、もう一人目掛けて飛んだ。それに続き、流と業火がそれぞれ残った一人ずつに目掛けて飛んだ。

 敵も突然の登場に驚いたようで、目を見開いて驚いていた。が、目的はすぐに理解したようである。

「恭司の奪還か!」

 流の目の前に立つ事になった、三○代前半程度に見える渋目の男は、低い声でそう鳴らした。

「俺は殺す気でいるけどなッ!!」

 流がそう声を上げ、男まで詰め寄った所で、抜刀。達人の技にも匹敵する程の居合。が、目の前の男は、素早い動きと素晴らしい程の対処方で一気に身を伏せ、流の一閃を頭上を通過させた。

(速い……ッ!!)

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