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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
NO,THANK YOU!!
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1.言い忘れ―1


「は? え? ちょ、桃!?」

 恭介は思わず間抜けな表情を出して驚愕してしまった。蹴り飛ばされて数メートル離れた位置で仰向けに転がる男と、足をゆっくりと下ろす桃に視線を右往左往させて、自分はただ慌てふためいていた。

 そんな状況でも恭介は分かる。桃の小学生じみた小さな身体に、あれだけの成人男性を蹴飛ばす力が隠されているはずがないと。

「いってぇなぁ……」

 男はそうぼやきながらゆっくりと立ち上がった。気だるそうに後頭部を掻く仕草は余裕なのか。男は蹴られてもまだ、あれだけ蹴り飛ばされてもまだ、痛みや力に余裕を残しているのだろう。

 恭介の隣で桃がチッと舌打ちするのが分かった。普段、典明に対して見せる態度にそっくりで、恭介はまた間抜けに驚いた。

 つまり、恭介は何も出来なかった。ただ、あたふたとしているだけだった。

 そんな恭介を置いて、話は勝手に進む。

「ふざけやがって……お嬢ちゃん……NPCの人間かぁ」

 男は完全に立ち上がり、完全に視線を桃へと釘づけて、そう低い声で言った。完全に、そっちの人間が、あっちの人間を脅す重低音。だが、桃は、矮躯を震わす事もない。

 桃もまた、相手を脅すかの様な鋭い視線で相手を睨んでいた。語りはしない、頷かない、だが、敵意は向けていた。

 二人共、恭介を視界に入れていなかった。

「えーっと、あの」

 恭介がおどおどと声をかけようとするが、無駄だ。二人は恭介を眼中に入れていない。

 恭介を置いて、事は進行する。

「返事はしねぇのか。まぁ、いい。俺に傷を付けた事を後悔しながら――死ね!」

 死ね。そう聞こえたと思った時だった。恭介の理解を越えた現象が、男の身体で起こった。

 空気が炸裂する、電気の弾ける音。それが、電気に関係した何かだと、すぐに気づけた。いや、『見て』理解出来た。

 恭介はまた間抜けになった。

 男の身体を這うように、青白い稲妻が、弾けていた。それは、稲妻のように一瞬で消える事なく、ひたすら男の身体を這っていた。

 認めがたい光景でしかなかった。

 目の前で起こっているその事情は、まるで、漫画の様で、映画のようで、

「超能力かよ……ッ!!」

 恭介の口からやっと出てきたのはそんな言葉だった。自然と視線は数メートル先でバチバチとやっている男に固定されていた。もはや、外せやしなかった。

 が、その横で、また認めがたい事情が起きてしまったため、恭介の外せない程に固定された視線は、容易く外されてしまった。そして、隣の桃を見る。

 相手をバチバチ、と擬音で表現するなら、桃は、カチカチか、と恭介は回らない頭でそう思った。

 桃の右掌の上で、氷が踊っていた。

 カチカチと固い音を鳴らしながら、掌大の大きさの氷が、形状変化を継続させながら、何かを狙っているようだった。

「はぁ!? えぇ……ちょ、何がどうなって、んのさ」

 状況に置いていかれている恭介は、少なくともすぐには自分に危害が及ばないと分かってか、落ち着きを取り戻し、この馬鹿げた状況に適応し、呆れていた。

 何が何だか分からなかった。男もそうだし、隣の幼馴染もそうだった。

 何をしているのか理解出来なかった。そもそも、こんな光景は一生見ないと思っていた。いや、考えすらしていなかった。

 今、話掛けても二人が答えてくれない事は理解している。だから恭介は、目立たないように、動かないようにしてその場でただ、事の成り行きを見守る事しか出来ないでいた。

 そんな恭介は当然差し置かれ、事は動き出す。

「氷の『超能力者』か、いいねぇ。俺との相性バッチリじゃねぇかよ!」

 男はそう叫びながら、稲妻を巻きつけた右手を振るった。と、同時、やはり、稲妻がバチバチと閃光を散らしながら、眼では決して追う事の出来ない速度で、直線を描き、桃へと向かった。

(今、『超能力者』って――、)

 蚊帳の外である恭介は、聞き逃さなかった。

 超能力者。その名称が指し示す存在は理解出来る。が、実在するという事は、理解及ばない。及ぶはずがない。

 架空の存在のはずだ。漫画や映画、創作の中で活躍する存在のはずだ。それが、超能力者なのだから。

 だが、現実は、酷だろうが、何だろうが、どんな状況だろうが、起こっている事をありのままに目撃者へと伝える。

 今まで聞こえていたそれとは違う、大音量の炸裂音が聞こえてきた。

 ハッとして恭介が音のした方向――真横――を向くと、桃が、桃と、その目の前に突如として出現した、氷の分厚い壁が、見えた。

 なんだ、と口に出す暇はなかった。

「超能力で作り出したモノに不純物が混ざってると思うの?」

 桃が意味不明な事を言う。いや、その前に今の状況を説明してくださいよ、と恭介は心中でそう溶かし、更にうなだれた。

「はぁ? 超能力は科学じゃねぇんだろうが。お前のその氷の壁に俺の今の一撃が負けただけだっての」

 男はそう気だるそうに言って唾を足元に吐き出し、そして、迫る。

 地面を穿つかと思う程に強く蹴り、駆け出し、一気に桃への距離を詰めた。間合いはあっと言う間になくなった。恭介は無視されていた。

 桃の目の前に存在した氷の巨大な、分厚い壁に男は突っ込んだ。桃の身体よりも大きいそれは、一瞬にして、バチ、という炸裂音と共に、砕け散った。男が、その『超能力』で何かをしたのは恭介も分かったが、何をしたかまでは分からなかった。

 すぐ真横で起こったそんな危険なやりとりに恭介は圧された。二人から離れるようにして尻餅をついてしまう。いや、これが普通の反応だ。こうでなければおかしい。

「ッ!!」

 恭介はすぐに立ち上がり、自然と二歩身を引いた。が、すぐ後ろが田んぼで、足を取られ、恭介は何も出来ずに結局また、尻餅を付くのだった。水が撥ね、稲が恭介の尻に潰され、恭介は泥水を纏う。

 そんな事があっても、二人は恭介を見ない。正確にいうなれば、桃は何度も恭介の心配をした。が、視線をやれない状況にいるため、叶わない。

 恭介が顔にまとわりついた水を腕で拭って顔を上げると、見えてきた。戦闘の光景。

 稲妻が走り、造形自由な氷が様々な形となって出現し、稲妻を防ぎつつ、男に突き刺さろうと迫る。

 見れば、桃の右手には氷で作られた刀が握られていた。

 まるで、映画を見ているかのようだった。その眼で見ているわけでなく、スクリーン越しに見ているCG盛りだくさんの映画を見ているその間隔だった。一般人のついていける、認知出来るレベルをとうに超えていた。まさかこれを、肉眼で見ているとは思えなかった。

 だが、現実。

 稲妻によって砕けた氷の小さな破片が恭介の頬をかすめて田んぼに突っ込み、溶けて消えた。

 恭介の頬から血が滴り、恭介は飛びかけていた自我を取り戻し、現実に強制的に意識を引き戻される。

 落ち着け、情報を整理しろ、と自身に言い聞かせる。目の前で、アクション映画顔負けの超人的体術で戦っている二人と、その二人が生み出す電撃、氷のエフェクトを目の前にしながら。

 恭介は立ち上がった。制服が泥水を吸って身体が重かった。が、座っているわけにもいかなかった。

「おい! お前の目的は俺なんじゃねぇのかよ!」

 叫ぶ。電撃が炸裂する音も、氷が生み出される音もかき消す程の大音声だった。

 恭介は状況判断がまだ完全にはできていない。こんな異常な状況の中で、まず導き題した答えに沿って動き出したのだ。

 その答えとは、『桃を守らなきゃならない』。

 男の注意を自分に向けなきゃならないと思った。そうだ。最初、男は桃を差し置いて恭介に用があると迫ってきた。きっと、男は自分をどうにか出来れば、それで満足なはずだ。その間に桃は逃げれば良い。そう考えた。

「あぁ!?」

 低い声と共に、男の首が恭介の方を向いた。

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