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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
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4.希砂悠里―2


 流がそこまで言った所で、やっと希砂が会話に入ってきた。

「それなんだけど、やっぱり、流君は記憶をどうにかして消されてるんだと思う」

 それは、今の流の、過去の記憶が完全にないわけではない、という状況について、言っている。

「それが、単に転んで石にでも頭をぶつけて、なんて話しならどうしようもないけど、やっぱり、君のその全身にあるっていう傷が気になるからね」

「全身の傷?」

 そこまで聴いていなかった成城が問う。

「あぁ、俺もあんまりマジマジとは見てないけど、全身に傷があるんだよ。碌さんがいう感じだと、戦いの傷なんだってさ」

 それを聴いた成城はへぇと関心を持ちつつ、そして、それを見てみたい、と思った。が、状況が状況だ。そう言う事は出来なかった。

(今度二人っきりになる機会があれば、見せてもらおうかな)

「さて、そこを真っ直ぐ行って」

 不意に、希砂が指示を出した。流は咄嗟に返事をして、指示された通り、十字路を真っ直ぐと進んだ。より東京から離れる方向だった。流は初めて通る道で、流はより慎重に運転に集中する事になった。

 速度が僅かに落ちたのだが、気付ける程ではない。

「どちらに?」

 成城が後部席から問うと、

「超能力者の所。安心して、味方よ」

「何の超能力です?」

 流が突然の展開に困った様に問うと、希砂は真正面を見据えたまま、気だるそうに応える。

「超能力の痕跡を見れる能力者。流君の事もあったから連絡を取っておいたの。そしたらこっちに住んでるって偶然だけど、言ってたから。会えるようにしておいた。さっきも偶然流君に会えたから、メールを送っておいたらすぐに返事が返ってきたから。これから流君を見てもらいに向かうの」

「あ、ありがとうございます」

 突然の事だった。車にのり痕で最初の時点でその話しをしてくれ、と流は思ったが、結果良ければ良い。これで、一歩でも前進できれば、尚更良い。

 それから会話は減った。無駄な質問をしても答えてもらえやしないし、会ってみれば分かるだろう、と流も成城もその話題について触れる事はしなかった。雑談をするだけで、深い追求なんて出来やしなかった。

 一時間弱の運転の後、到着したのは茨城県の半ば程の場所である。

 住宅街と言えばそうであるが、住宅と住宅の並ぶ感覚がそう詰まっていないため、都会のそれと比べると住宅街とは言いづらい。

 その一角。周りの景色に溶け込んだその一角。2階建ての白い住宅の駐車場に、止めろ、という指示を受けて、流はそこへと車を入れた。二台分の駐車場があり、片方は既に埋まっていたため、住人がいるのだ、と予想出来る。

 上手くバック駐車で車を止めると、完全に静止した所で希砂が真っ先に降りた。続いて成城、流と車から降りる。

 玄関口へと希砂に続く様に回りこみ、そして、希砂が二人を確認する事なくインターフォンの呼び鈴を押し込んだ。どこかで聴いたようなポップな音が聴こえる。

 そして、数秒もしない内に、「はーい」と、甲高い声が聞こえてきた。女だと分かる。

「希砂よ。例の子も連れてきた」

「あ、うん。分かった。今開けるねー」

 と聞こえてきた数秒後、玄関扉が開く。そして見えたのは三十代前半程度に見える女性だった。いかにも人妻、と言った雰囲気が出ていて、子持ちであるとも見えた。当然そんな事は聴かず、流と成城は頭を下げた。

「えっと、とりあえず入って。旦那も仕事でいないしくつろいで行きなよ。ゆっくりお話は聴くからさ」

 その女性の名は立中喜代子(たてなかきよこ)。流達が思った通り、三二歳で、既婚。子供はいなかった。

 リビングに設置された巨大なソファとガラスのテーブルのセットに四人は集った。

 立中はまず、流の話しを聴いた。記憶を失った後の時間もまだ短く、説明に時間はそこまでかかりはしなかった。そして、それを全て聴いた後に、立中は自身の超能力について、説明をした。希砂は既に知っているからか、退屈そうにはしていた。

『形跡見聞』。それが、立中の超能力だと言う。攻撃型でもなく、発動しているその状態ですら見てわからないから、一般に紛れてこうやって極普通に生活する事が出来るとついでに語った。

 形跡見聞とは、超能力が残す余韻とはまた違う、現在超能力者界隈にすら浸透していない、超能力が発動し、与えた影響の形跡等を見る事の出来る超能力だと言う。が、そもそもそれが出来る超能力は圧倒的に少なく、希砂の知り合いにもほとんどいないと言う。そのため、この超能力に関しては、単純に、発動の形跡と見るではなく、超能力を受けた人間のその受けた超能力に関する過去だけを見ているのではないか、と言われる程に議論は尽きず、そもそも科学とは別枠の存在とされているモノであるため、詳しく検査する事もできずに正確な答えは出されていないし、出す事が出来ない。故に、超能力の余韻以上のモノがあるとも言い切れないとされている。

 立中は超能力を発動した。流を見つめた。ひたすら見つめた。年上の女性にずっと見つめられるという事に少しだけ照れを感じつつも、流はしっかり姿勢を正し、極力視線は逸らさない様にした。

 そして、流には長く感じたが、実時間で一分にも満たない時間の後、

「うん。一応。見えたよ」

 そう呟く様に言って、背筋を伸ばし、目を閉じて背伸びをして、戻すと同時に溜息を深く吐き出し、そして、目を開き、流を見据えた。

 思わず強張る流だった。目の前の立中のその口から、何が告げられるのか、と恐ろしい程に緊張した。

 希砂も態度には出さなかったが、それでも、内心緊張していた。どんな結果が、そしてどんな秘密が彼に隠されているのか、と興味が膨れている面もあったが、良くない事が告げられない様に、と願う程、緊張をしていた。

 成城もまだ全然流についての話しを知らないながらも、同様に緊張していた。彼女は流のそれについては知らなくとも、彼が無能力者ながら、超能力者を二回も打ち倒している事を知っている。だからこそ、彼の過去について少しでも進歩があり、僅かでも知る事が出来れば、それだけでも驚くに値するモノであるのだ。

 そして、告げられる。

「……初めてみる感じだったよ。多分、だけど、最近受けたモノは攻撃系ばっかりでしょ? それは除いて、それらとは別に、一つ、すごい古くて、すごい存在感と違和感のある、形跡が見えたよ」

「立中、それは?」

 希砂が難しそうな顔をして、問うた。希砂は立中の旧友だ。彼女の言葉から、その一つが、とても面倒なモノだという事を察したのだろう。

「すごく、古い……」

 流にはその言葉が引っかかるようで、思わず呟くが、会話には突っ込まなかった。

 希砂の問いを受けて、立中は、静かに、語りだす。

「……なんだろう。初めて見た形跡だった。そもそも、超能力を受けて生きている人の方が珍しいから、数をそこまで見た事がないんだけど、明らかに、今まで見てきたモノと比べると明らかに異質だね。なんか、こんなの『存在するのか』って思う程の何か。だから、正直それの正体はわからないや。攻撃型なのか、補助型なのかも分からないし、当然ステージもわからない。でも、多分、ステージは高いと思う。あまりに存在感があるしね。正確な事が一切言えなくて悪いんだけど、その、記憶の事。これだけはっきりしてると、やっぱりそれが関係してるとしか思えないな」

 長広舌だったが、一字一句、全て流には伝わった。

「……、それが何か、分かる方法ってないんですかね」

 息を大きく呑んだ後の問い。だが、希砂も、立中も難しそうな表情をして、後に首を横に振った。

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