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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
NO,THANK YOU!!
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2.兄弟―6


 バイクから降りてきた連中は、いきり立った様子で、先にいた黒いパーカー集団に向かって行く。

「ゴールドラッシュのこともそうだけど、この時代に、まだあんなのがいるなんて驚きだよねー」

 恭介の隣りで琴が呆れた様に言う。彼女はあくびをし、背伸びして空を仰ぐが、恐らく見えている。千里眼、視線が向いている方だけに発動しているとは考え難い。

 恭介の視線の先、五対五で向き合う不良どもの影。その周りには人はいないし、近寄りもしない。公園の端。周りを見て見ればやはり人はいるが、連中の側には絶対に近寄らないだろう。

 一度隣りの琴を一瞥し、恭介は立ち上がる。

「行くか。話を聞きに」

 そうだ。こんな昼間から、こんな目立つところで、そういうことをしてしまうだけの連中。つまりそれは、ここらで権力を持つゴールドラッシュの配下の可能性が高いということ。

「そうだねぇ。出来れば一戦交える所を見てからにしたかったけど、どっちかがゴールドラッシュメンバーで、負けちゃったらあれだしね」

 続いて、琴も立ち上がり、そして、二人して気だるそうに歩きながら公園の真ん中の芝生が占めるエリアを通り過ぎ、その向こうで互に何か威嚇しあって罵詈雑言を並べる連中に近づいた。

 一定の距離で連中は二人に気付き、一旦その威嚇を止めた。

 十の視線が二人に突き刺さる。二人が言葉を発する前に、連中から、近寄るな、巻き込まれたいのか、死にたいのか、等の怒声が放たれる。が、二人の意みは介さない。

「ちょっと聞きたいんだけど、ゴールドラッシュのメンバーってどっち?」

 琴が先に口を開いた。大した大きさの声ではないが、その何か威圧感のある声に、連中の怒声は一瞬だが止んだ。

 琴はこの二つのグループの内の一つ、どちらかが、ゴールドラッシュのメンバーだと察した様だ。

「あぁ? 何言ってんだ。『見てわかんねぇのかよ』」

 黒いパーカー集団の内の一人が、そう無駄に大きい声で言い放った。

 見てわからないのか、という言葉で察しが付く。

 ゴールドラッシュのメンバー、若しくはその配下のグループのいずれかは、黒いパーカーで固めているのだろう、と。

「あーそう。じゃあ君達。ちょっと訊きたいんだけど、」

「失せろばーか」

「…………、」

 どうやら連中は、目先の抗争だか何かだか以外に興味はないようで、二人の話を聴こうともしない。琴の眉尻が微かに動いた。

 が、相手を煽る手段等いくらでもある。煽るからには当然、相手にする、という覚悟も必要だが、二人は彼等の頭を狙っているのだ。今更、覚悟も糞もない。

「俺達は金井兄弟に用があるんだ。二人をぶっ飛ばしに行く。居場所を教えてくれ」

 恭介が落とした爆弾。

 連中の動きが止まり、再度十の視線が恭介達に向けられた。と、思った次の瞬間には、十の不良共は大声を上げて、下品に笑い出した。

「ねぇ、恭介くん。なんでゴールドラッシュのメンバーじゃない方まで笑ってるのかな?」

 琴が不思議そうに恭介に訊く。

「知るかよ。俺だって訊きたいわ」

 何故、敵対組織である人間までが笑うのか、二人には分からなかった。

 結論として、金井兄弟がそこまでの力を持っているから、である。どの組織の人間も叶わない、と思わせる程の力を持っているからこその、この状況。金井兄弟が絶対的な力を持っているならば、この不良社会程度の小さな世界で、その末端にまでうるさく口を出したりしない。故に、このような抗争もあるのだが、連中も頭には叶わないと知っているのだろう。

「馬鹿じゃねぇの?」

 と、不良の一人が、言ったと同時だった。その不良は、言葉と一緒に吹き飛ぶ様にして、後方に大きく吹き飛んだ。その一瞬の出来事に、誰もが動きを止めた。

 吹き飛んだ不良がいた場所に立っているのは、琴。高い位置に上げていた足をゆっくりと地面に戻した姿だった。

「私、あんまり下品な笑いって好きじゃないんだよねー」

 そんな事を吐きながら、琴は二人目に掴みかかった。

 この状況で、琴はその実力関係なしに有利に動ける。仮に恭介と琴の二人が全員をこの場で殺したとしよう。だが、それは、目撃証言があったとしても、咎められる可能性が低い。なぜならば、二人は武装もしていなければ、書類上はただの高校生。そんな二人が、この不良共相手に驚異的な立ち回りをみせ、全員殺した、と思える人間がどこにいようか。

 故に、琴は動く。

 十秒経ったのだろうか、経っていないのだろうか、とにかくあっと言う間に、琴はゴールドラッシュのメンバーではない方の不良五人を、叩きのめした。

 宙を舞い、琴の後方に背中から落ちた不良の一人は呻きながら悶えている。暫くは立ち上がりそうになかった。その一人の周りを見れば、一目瞭然。他の四人も似たように転がっている。

「で、もう一度聞くけど、金井兄弟って今日どこにいんだよ」

 一仕事終えた琴の前に恭介が出てきて、ゴールドラッシュの連中に問う。次は俺が相手だ、と言わんばかりだった。

 今の光景を見て、恭介も力があるであろうことは明瞭だった。ゴールドラッシュの連中は思わずたじろいだ。まさか、華奢な女一人で、五人を片付けるとは、と慄いていた。

 連中は仲間内で何か話しだしたが、二人が待っている理由はない。

「早く教えてくれ。時間をかけたくないんだ」

 そうだ、今日中に問題を解決したいと二人は思っている。理由は簡単、明日から学校でどうしても外にでなければいけないからだ。NPCの行動を待ってもいられない、それだから二人で動いているのだ。

「……、アーケード北の、雀荘が入ってるビルの三階だ」

 一人が、言いたくない、という雰囲気丸出しで答えた。言いたくなかったのだろう。だが、答えないわけにもいかない、と気付いたのだろう。それに、琴が相手を片付けたのだ。礼だってあってもおかしくはない。

「そっか、さんきゅ、な」

 恭介がそう礼を言って、二人は連中を置いて来た道を戻り出す。置いていかれた連中は、暫くそこで呆然とするしかなかった。




 ゴールドラッシュ下っ端連中の言葉の通りの場所、そのビルの前へと来た恭介と琴。確かに一回には雀荘。雰囲気の悪い店だった。その入口の横に、ビルを上がる階段がある。狭く、薄暗く湿っぽい階段だ。ビルがそこまで大きくないからか、かなりの急勾配となっている。

 恭介が進んで先陣を切る。二階部分にも重々しい扉が一つあるが、関係ないだろうと、二人はそれを無視して先に進む。

 カツカツと足音が響く。数十段の階段を上り、最上階三階へと到達する二人。目の前には、一つの扉。扉自体は二階で見たそれと変わりない。

 手を掛けてみる。鍵は、かかっていないようだ。無用心だ、とは思わなかった。

「入るか」

「そだね」

 恭介が扉を引き、扉を開ける。と、その先には一つの部屋。薄暗い赤の絨毯が印象的な十数畳の狭くも広くもない部屋。何かの事務所と言わんばかりの机やら椅子やらが並んでいるが、部屋の奥にはソファがあり、テーブルがあり、と接待用のスペースも見受けられる。

 並ぶデスクの前には、数名の人間。デスクに置かれたパソコンの画面と向き合って何かの作業をしていたようだが、二人が入ってきたことで視線はパソコンのディスプレイから、二人に移った。

 そして、接待スペースのソファに腰をかけていた一人の見覚えのある男も、二人を見た。

 金井雅樹。金井兄弟の兄だ。そして、ゴールドラッシュのリーダーだ。

 金井雅樹は二人が昨日のそれだと気付くと、ニヤリと不気味で嫌な笑みを浮かべながら、立ち上がった。

「お前ら、仕事しておけ。こいつは俺の客だ」

 そう言って、恭介達を手招きし、再度ソファに腰を下ろした。

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