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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
NO,THANK YOU!!
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15.窮地/襲撃―2


 桃は覚悟を決めた。正直な所、この時点で、勝算はなかった。相手の超能力は――把握している分だけだが――貫通がある。これは、どうしても防ぎようのない力であり、防御というモノが通用しない。挙句、星屑の投げる手裏剣は彼女の専用武器だけあり、彼女が自由自在に操作する事ができ、恭介の持つ目標設定と似たような動きが可能となっている。

 つまり、攻撃は避け続けなければ、ならない。たかが手裏剣ではるが、一度当たってしまえば、突き刺さるだけでなく、貫通の補助を得る事で、その超能力の名の通り、貫通してしまう。それは、人体にとっては強烈なダメージとなり、一撃でも受けてしまえば十二分なダメージとなってしまう。

(まだ、怪我は治りきってない。でも、やるしかない)

 桃は構えた。が、星屑は構えなかった。

 星屑は余裕があった。あの日、恭介の雷撃を受けた彼女だが、そのダメージは後遺症となる程のモノはなかった。

 つまり、強者と弱者、完全体と負傷者の、戦いとなる。

 だが、桃はここで引けない。彼女が引いてしまえば、この支部は終わりだ。

 もとより、何かしらの異常事態が起きた際に、トカゲの尻尾として支部をばらしたのだ。こういう事態は当然想定していた。が、そう簡単に、切られるわけにはいかないのだ。

 桃よりも星屑の方が余裕を持っているのは確かだったが、星屑は襲撃に来たのだ。

 先に動いたのは、星屑だった。

 彼女が腕を右手を振るうと、右手で持っていた分の手裏剣三枚が、一斉に桃めがけて飛んだ。速度は銃弾よりは遅い。だが、軌道は確実に真っ直ぐで、そして、桃を目標に設定して、飛んできている。

 桃は最初のそれを、身をかがめてしゃがむ事で頭上を抜かし、避けた。三枚の手裏剣は桃の頭上を超えると、彼女の背後から壁に突き刺さり、貫き、この支部内のどこかへと姿をくらました。

 桃はすぐに立ち上がる、が、その僅か前に、星屑は左手も振るっていた。残り、左手に持っていた五枚の手裏剣が、桃に向かって迫ってきていた。速度は同様。だが、その軌道は、不規則。一直線に桃へとめがけて飛んでくるモノもあれば、くねくねと蛇の様な動きをしながら飛んでくるモノもあった。

 が、それら全ては桃の正面から飛んできているモノであり、それはつまり、桃の視界に入っているという事。

 桃は跳躍した。その跳躍自体は大して力強いモノではなかったが、動きは繊細だった。向かってくる手裏剣の軌道を全て目で追い、推測し、それらを、空中で回転する様な動きで、避けた。

 桃が着地した時には、飛んでいた手裏剣の全ては、壁や床、天井に穴を空け、その中へと消え去っていた。

 そして、着地したと同時、桃は走り出した。

 ここが、チャンスだった。そして、ここを逃せば、非常に面倒な事となる。

 相手が隠し持っている可能性を無視した上での事実。計八枚の手裏剣が、施設内を徘徊し、漂っているだろう。間違いなくそれらは未だ、星屑の手中にあり、いずれ、天井、床、壁、どこからか桃へと襲いかかるだろう。

 ならば、今の内に無力化するか、殺してしまうしかない。

 桃の接近は当然予想できていた。星屑は構える、程ではないが、僅かに身を低くした。

 接近を挑む桃が見る限り、今、星屑の手には手裏剣の影はない。

 ここで接近戦を挑み、決めるしかない。

 桃の手が、星屑の顔面に伸びた。が、星屑は僅かに身を翻して、桃の手を叩く様に弾き、そして、空いた桃の腹部に、膝蹴りを叩きこんだ。が、桃はそれを叩き落とす様に弾き、半歩分足を下げて丁度良い間合いを計り、そして、柔術。

 伸ばして、弾かれて、僅かに上に動いていた手を落とす様にそのまま星屑の胸元を掴み、そして、その手を引きつつ、もう片方の手を沿え、その間に足払いをし、星屑の体勢を崩し、――一本背負い。

 星屑の体重は、少なくとも桃よりも重い。桃が軽すぎる、という事ではあるが、ここまで綺麗に型を決めて技をすると、その体重差は、完璧に無視される事はなくとも、緩和される。

 桃が身を翻し、その背中に星屑の体を預け、体重を受け流し、地面へと叩きつけると、星屑の口から嗚咽めいた悲鳴が漏れた。

 背中から落ちたその星屑の体は、一瞬の隙を見せる。

 相手の命を無視した上での、競技ではない攻撃を食らわせた桃だが、星屑も、生きるための受身をとっていた。段違いの世界ではあるが、ある程度の緩和は、されている。これで負傷する事はないだろう。が、背中から落ちた衝撃が星屑の体を強く揺らし、呼吸を一瞬止めるにまで至った。

 つまり、隙ができた。

 この隙は、大きい。ここで、殺すしかない。

 本来の、今までどおりの戦闘であれば、桃は彼女に触れる事なく氷華の力によって、相手を氷漬けにさせて、終いだ。が、しかし、相手は氷の力に対する抵抗を持っている。

 だが、迷っている暇はない。早くしないと、手裏剣の団体が一斉に、どこかしらから戻ってきて、桃を襲う。見えた選択肢を選ぶ間もなく、ただちに実行しなければならない。

 桃は、体術が通用する、と今手を交わした事を思い出し、再度怯ませ、星屑に手裏剣の操作から意識を外させるために、彼女の首、喉元を、思いっきり、踏みしめた。

 嫌な感触が足を伝って桃の全身に走った。が、既に何度も経験した記憶だ。気にせず、踏み抜くと言わんばかりに桃は全力で星屑の喉元を踏み潰す。

 この際に懸念されるのは、当然、足を下ろした際に、その足を掴まれてしまう事で、それを自然と察知していた桃は、一度足を叩き下ろすと、すぐに引いた。足元で星屑のうめき声が聞こえ、体が僅かに跳ねた音が聞こえた。

 見下ろさずとも、理解していた。星屑は今、きっと、恐ろしい形相で、桃を見上げているだろう、と。

 だが、桃はここで、追撃を諦めた。

 桃がバックステップをしたと同時、仰向けに転がっていた星屑の脇の間、足の間、顔の横、指の隙間、そして、両脇の壁、天井と、至る所から、桃が一秒に満たない程前にいたその場所めがけて、手裏剣が回転しながら、次々と襲いかかってきていた。

 ほんのコンマ数秒遅れていたら、今頃、桃は八枚――、

(増えてる!? 何枚……? 一五枚は飛んでるッ!!)

 一五枚の手裏剣が、桃の全身を貫いていただろう。そうなれば、次はない。あの時の様に命をつなぎ止める事は敵わないだろう。間違いなく、即死だ。

 それ以前に、攻撃を一撃でも受けてしまえば、攻撃を避ける力は、なくなり、結局殺される。

 無傷のまま、攻めるしかない。

 桃は考える。どうすれば、超能力なしで、殺傷能力のある程の攻撃を当てる事が出来るのか。それか、無力化できるのか。

 桃は攻撃を避けたと同時に、視線を最大限に動かして、辺りに何かないか、探した。が、ここはあくまで臨時の支部。仕事上必要な最低限のモノしか、おいておらず、むしろそれでも足りないモノも多い。その中から、攻撃の出来るモノがあるとは、考えにくい。

「…………、」

 有りとらゆる方向から出現した手裏剣は桃には当たらなかった。が、立ち上がった星屑の体の周りに浮かび、くるくると回転して漂っている。そして、その中心、星屑の表情は、まるで、鬼の様だった。

「殺すから、絶対」

 声が微かに震えている。喉を潰され掛けたその痛みのせいだろう。

 そして、それによる怒りが、この表情なのだろう。

「やってみなさい」

 桃も、挑発する。

 いくら不利だろうが、いくら勝算がなかろうが、微かでも可能性があるならば、遁走はしない。今、この場で、殺す覚悟がある。


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