13.討伐隊―7
言われて、恭介は千里眼での透視を試みるが、
「……ダメ、ですね。俺の熟練度じゃ、まだ、距離が足りない。一体どうして?」
何故視る様に指示を出したのか、と恭介が聴くと、メイリアは嘆息した後に、言う。
「優里がいてくれれば見れたか、ま、死んでしまったらしかたない。今更だけどね。えっと、誰もNPC日本本部まで見れる超能力を持ってないから言うけど、多分ね、私達が、っていうか正確には恭介だけだけど、襲撃されたのは、恐らく、」
「足止め」
メイリアに続いて、奏が言った。それに対してメイリアは深く頷いて賛同した。
「その通りだね、奏。私の推測でしかないけど、多分、亜義斗達が向かった生産工場の班も、足止めをくらってる。討伐隊にね。で、これもまた多分だけど、NPC日本本部が、襲撃されてるよ」
「なっ、そんな馬鹿な」
恭介は驚愕する。有り得ない、とは思いつつも、メイリアの勘の良さを知っているため、ただ否定仕切る事はできなかった。
そんな恭介を納得させるかの如く、奏が言う。
「研究所と生産工場が同時に手薄になったのは、やっぱり罠。伊吹君も多分わかってただろうね。でも、これだけの戦力を送りざるを得なかった。成果を確実なモノにしなきゃいけないし」
「いやいやいやちょっと待ってくれ。だとしたら、襲撃されるとわかってて、海塚さんは俺達を派遣したのか?」
そうだけど違う、とメイリアが否定する。
「わかってただろうね。でも、奏が言ったように、そうせざるを得なかった。でかい事だから、私が態々出てこなきゃいけないくらいに人員も足りてなかった。どちらにせよ、手薄になるってわかってた。で、NPC日本本部を襲う理由だけど、」
メイリアの言葉の途中で、恭介が口を突っ込んだ。
「……俺の想像ですけど、あそこにある目新しいモノは、……暴走した超能力者、じゃないですかね」
当然、メイリアも、奏も頷いた。二人のその光景を見て、恭介は「あぁ、やっぱりか」と思いつつ、そして、焦った。
神威業火のその力は未だ、未知数である。どんな超能力を持っていて、どんな知識を持っていて、どんな戦い方をしてくるか、分からない。全く、予備知識がない。
だが、はっきりと分かる。神威業火は、今まで手を合わせた誰よりも、強い、と。
だから、焦った。
流石の神威業火といえど、恭介を含むNPCの『上』にいる人間の大勢を相手にすれば分が悪いだろう。だから、誘導した。だから、神威業火本人が出てくる。討伐隊が誘導に周り、その隙をついて最大戦力が出てくる。すぐに、分かった。
「……急いで、NPC日本本部に向かいましょう」
恭介は静かに、言った。
瞬間移動を三人で重ねて移動を続けていた恭介達だったが、数キロ移動した時点で、恭介の足は止まった。
見てはいけないモノを、見てしまった。
恭介はその瞬間から、とめどなく溢れ出す冷や汗に気持ち悪さを感じ始めた。頭の中は、そんな、まさか、馬鹿な、と否定する言葉で埋め尽くされていた。
恭介が足を止めた事で、奏とメイリアの足も止まった。
「どうした、恭介」
メイリアが心配して、問うが、返事はない。
一方で、普段、恭介に対してどうしてかきつく当たる癖のある奏が、気づいていた。
「恭介、あんた、……」
優しい言葉を掛けた。
続いて、メイリアが、現在地、そして、生産工場の位置、を思い出し、確認して、気付いた。
(……恭介の様子を視る限り、誰かが、やられた……のかな)
メイリアが言葉を吐こうとした時だった。
「二人とも、先に行っててください。すぐに、追いつきますから」
そうとだけ言って、一方的に言って、恭介は瞬間移動で、NPC日本本部とは違う方向へと、瞬間移動をして、その場からあっという間に姿を消した。その光景を見て、奏は恭介の成長を感じるが、喜ばしい事態ではなかった。
誰が、とメイリアも奏も思っていたが、恭介が一人、そちらへと向かった事で、すぐに気付いた。
(桃ちゃん、か……)
「なぁんだ。あっけな」
演技めいた笑みをすぐに消し去って、星屑はふと、つまらなそうな表情を浮かべ、嘆息し、そう吐き捨てる様に言った。
目の前で、春風桃の矮躯が、地に落ちた。
星屑の武器、貫通の超能力を付加された手裏剣に、五箇所、身体を貫かれ、いとも容易く、地に落ちた。それとほぼ同時、遠くの喧騒が、再度上がり初めて来た。先の星屑の攻撃から逃れ、生き残っていた連中が、徐々に近づいて来て、この悲惨な現状に気づき初めてきたのだろう。
が、星屑がその喧騒を聞けたのは、一瞬だけだった。
星屑の頭部が、吹き飛んだ。
無理矢理引きちぎられたかの如く、首は粗く切断面が見えている。鮮血が吹き出し、血の雨を辺り一帯に降らせていた。
星屑のその頭部を失った身体が倒れると、その背後に、恭介の姿が見えてきた。
「桃……、」
足元に落ちた星屑の死体を踏みつけて、恭介は倒れた桃にすぐに、駆け寄った。そして、抱き上げてやる。
現状を見た。酷い状態だ、とすぐに思った。
身体のあちこちに空いた穴からは、鮮血がとめどなく溢れていた。それらは、恭介がロスで手に入れた超能力――あの日、香宮霧絵に使ったのと同じ超能力――を使用して、止血した。
流血は止まった。が、この超能力では痛みまで止める事は出来ない。抱き抱える桃からは、苦しげな、荒れた呼吸が聞こえてくる。
「っ……、く、はぁ、はぁ……きょう、ちゃん」
「喋るな」
口調強めにそう言って、桃に喋らせない様にすると、恭介はすぐに桃を背負った。
「……、絶対、助けるからな。今はおとなしくしてろ。意識は、失うな」
75
一閃が目を覚ますと、そこには誰もいなかった。焦った。開きっぱなしの扉には違和感を覚えた。
「……くそ、すぐに行くぞ、海塚。死んでるなよ」
一閃は右手に日本刀を携え、そして、すぐに部屋を出た。
何をされたのか、理解していなかった。先、神威業火が何かをしたのは、分かっていた。だが、それが、何か理解できなかった。
それは、典明も同じだった。
意識もなくなっていた。次に起きた時には、亜義斗が側に立っているだけで、他の人間の姿が見えなかった。
「え、えっと……、何が、あったんだ?」
典明が目を覚まして、辺りを見回し、ここが治療室のエリアであると気づいて、まず問うた。
典明の目が覚めたと気付いた亜義斗は典明に視線をやり、そして、すぐに視線を真正面へと戻した。典明が亜義斗の視線を追うと、そこには強化ガラスが破られた、部屋の後。零落希美が入っていた、部屋の後。既に、彼女の影はない。見てみれば、超重力、実現化は、何事もなかったかの如く、そこに相変わらず鎮座している。
亜義斗は、静かに応えた。
「覚えていないようだから、教えてやる。お前、神威業火に操られていたみたいだ。不意打ちで菜奈を負傷させ、俺が気絶させた。そうやって俺達の手が削がれている間に海塚さんも負傷した。動けるのが零落希華だけになった一瞬で、神威業火は、不死鳥、零落希美さんの身体を掴んで、連れ去った。零落希華が後を追おうとしたが、彼女に移動超能力はない。それに、相手は神威業火だ。追っても無駄だ、と説得して、今に至る。零落希華は日本本部内を見回って、負傷者とかの把握をしている。海塚さんと菜奈は、歩けはしたからな。今、救護班の下で治療中だ」
「そう、なのか……、」
典明は絶句した。思い出してみても、戦闘の途中から、記憶がない。神威業火と視線が合ったかと思ったその瞬間から、記憶がない。
(何かの超能力なのか……?)
当然、そう思う。だが、違う。一閃が気を失ったのも、典明が操られたのも、正確に言えば、超能力による効果ではない。