13.討伐隊―6
クレイモアは単純に、大きく、重い。それを振って攻撃するという事は、恐ろしい程の遠心力がかかり、威力を見た目では想像出来ない程に増幅させるという事。
つまり、掠めただけで、三島の身体を吹き飛ばす程の威力を持っているという事。
「ッうううう!?」
三島の身体が、大きく揺さぶられた。胸を横一閃に切り裂いたクレイモアの鋒には、真っ赤な鮮血が付着して、尾を引く様に宙に靡いた。
三島の身体は浮き、回転し、位置自体はあまり移動しなかったが、地面に叩きつけられる様に、落ちた。
「ッが、」
仰向けに落ち着いた三島の首元に、クレイモアの鋒が突きつけられる。
が、しかし。
罰は、すぐにクレイモアを引いた。引いて、どこかに消し去った。
「は?」
手をフリーにした罰は、三島を背にして、振り帰った。そして、ただ一言、置いて去る。
「完治してからな」
「…………、」
早々に去る罰の背中を見送りながら、三島は立ち上がった。警戒は解かなかったが、無駄に終わった。罰は、結局、そのまま、何事もなかったかの如く、去っていった。
完治してからな、という言葉から、察する。
(アイツ、本当に俺に何があったのか、わかってやがんだな)
「ッ、」
桃は咄嗟の判断で氷柱を出現させ、星屑の腹部にそれをヒットさせて、星屑を後方に大きく吹き飛ばして、距離を稼いだ。
一瞬、苦悶の表情を浮かべこそした星屑だったが、吹き飛ばされたダメージ自体はあまり負ってないようで、極自然に着地し、ただ、距離を空けただけで済んだ。
距離を取れたとはいえど、既に桃は立ち上がる事すら出来ない。
「無駄な時間稼ぎねぇ」
本当にダメージは通っていないらしい。やはり、氷か水の超能力に対する耐性があるのだろう。物理的な勢いを受け、吹き飛んだに過ぎないのだ。
悠々と前に落ちてきた長い巻き髪をなで上げて、一歩、また一歩とゆっくりと桃へと近づいて来る。迫って来る。
(……あはは。絶対絶命ってやつかな)
桃は思わず苦笑した。
攻撃は通らない。武器に対する防御は出来ない。
窮地とは言ったが、実際に体験すると、窮地、という感じはしなかった。
だが、事実そうなのは、変わりない。
星屑が桃の目の前に立った、立ち止まったと同時だった。星屑は一度、子供に向けるような作った笑顔を桃に向けたかと思うと、――桃の身体、その矮躯を、飛んできた複数の手裏剣が、貫いた。
恭介に、罪の振るった絶対石の刀が、触れた。
触れたのは、恭介の『掌』。両手の、だ。
下から斬り上げられた絶対石の刀の一閃を、恭介は、下から向かってくるそれを、手で、ただの手で、挟んで、受け止めた。
白刃取り、というやつだ。いや、違う。頭上から落とされた攻撃ではない。下からの、斜めに入った斬り上げを、恭介は両手で挟んで、受け止めた。
超能力なんて、使っていなかった。千里眼すら発動させていなかった。つまり、絶対石の刀を、ただの刀として扱った。それだけの事だ。
「なっ、」
罪はその光景に思わず、怯んでしまった。攻撃は当たる、最悪避けられる、としか思っていなかった。まさか、剣術の達人でもそうそう出来ないような、この防衛手段を、ここぞという時に使い、成功させてくるとは、誰が、想定できようか。
恭介は絶対石の刀を両手で挟み、受け止めたと同時、受け流し、ひねり上げた。
そうして、二人の頭上高く、回転しながら絶対石の刀は、舞い上がった。
恭介と罪が、対峙する。
罪がまだ、他にも超能力を隠し持っているだろう、とは思っていた。
だが、恭介は、大して気に留めなかった。
罪も、気に留めなかった。
そして、真正面からの、衝突。
罪の右の拳が、恭介の顔面を狙った。が、恭介はそれを身を横にずらして避けて、左手を伸ばし、今の拳を払い、そして、右手が罪の顔面に伸びる。
鷲掴み。
罪は反射敵に振り切ろうとした。当然だ。恭介には強奪がある。
が、そんな事は、そんな抵抗は、恭介はもう、見慣れた。対処しなれていた。
敢えて、右手は離した。罪は恭介が強奪を仕掛けてくると思っていた。だから、必要以上に暴れた。そこで、恭介は開放した。つまり、罪の動きには、余り、が出てしまう。
そこを、恭介が逃すはずがない。
威力強化、怪力、そして、着火。全てを込めて、恭介は罪の腹部を目掛けて拳を振るった。
が、そこに、武器呼応の超能力と、先に見せた『絶対石の形状変化』の超能力を使用し、戻ってきた絶対石の刀を盾状に変化させ、その拳から身を守った。
が、恭介の拳は生身でも、威力は十分。盾を、押す事くらいは容易く出来る。
「っお、おおおおおお!?」
振り切られた恭介の拳の威力に、罪は大きく後方に押され、地面を滑りながら三メートルは後退させられた。
その出来た距離、つまりは時間に、罪は呼び戻した絶対石を変形させて、剣へと変えた。
(そう何度も取られるはずはない)
再度、接近、したのは、恭介だった。距離を詰める。つまり、余裕をなくす。
斬撃が恭介を襲う。だが、恭介は罪を襲う。
振り上げられた刀の一閃を避け、飛び込み、罪の懐に入り込んだ恭介。目の前で、それを推定していたであろう罪は即座に剣を鎧へと変化させた。兜まで出現した所をみると、やはり、先に砕いた兜もとっくに吸収されたのだと分かる。
防御の体制と、攻撃の体制の切り替えが早くなってきていた。恭介が、どんな動きでも見せて、攻撃をいなし、懐に飛び込んでくると推測できているからだ。
が、そこまで読めているのは恭介も変わらない。
先に、恭介の右手が、伸びていた。鎧が形成される、その一瞬の隙間を縫うように、恭介の右手が、罪の腹部に押し付けられていた。
そこに、絶対石の塊が鎧を形成しようと割り込もうとするが、無駄。恭介は既に超能力を発動している。一つは強奪。当然だ。そして、もう一つが、着火。
垣根の獄炎や、零落希美の不死鳥とは違う、火を点ける、着ける事に特化した、超能力。
恭介はそのまま、罪を押し倒した。
背中から落ちる罪。鎧が形成した部分が見えない真っ白な地面にぶつかって、硬い音が鳴る。
恭介の強奪は更に、強化された。この瞬間だ。討伐隊という新戦力、新超能力を持った人間を相手して、恭介オリジナルの超能力が呼応した。していた。
一秒丁度。それで、たったそれだけの短い時間で、恭介は強奪を可能とする。相手がいくつ超能力を持っていようが関係ない。一秒さえ経過してしまえば、まとめて、その情報を奪う事が出来る。
恭介の頭の中に、大量の超能力に関する情報が流れ込んできたと同時だ。頭の中に大量の情報が流れ込んでくるという事は、強奪が完了した、という事。強奪が完了した事を確認すると、恭介は、容赦なく、今までの応酬なんてなかったかの如く、罪に、火を点けた。
と、同時だった。
この二人を隔離していた真っ白な空間が、溶ける様に消え始めた。
足元で燃え盛り、暴れていた罪が動かなくなった頃、その真っ白な空間は完全に消え去り、そして、先程まで立っていたあの山中の広場に、恭介は戻っていた。
そうして見えてきた光景は、
「……二人、やられたのか」
希凛と蒼井が死んでいる、その光景と、奏が見知らぬ男の顔面を鷲掴みにしていて、引きずっている様子と、大して今の現状に危機感を抱いていないような、メイリアの姿だった。
「そうみたいだね。残念だけど」そう言ったメイリアは奏がたった今放り投げた男の死体を一瞥して、「……この男に、やられたのかな」
「そうみたいですね」
奏は言った。二人を殺した男だが、奏には手も足もでなかったようだ。奏をみる限り、傷一つついていなければ、髪や服装の乱れすら見つけられなかった。
「私、回収班に連絡します」
そう言って、奏は携帯を取り出して、NPCへと連絡を入れ始めた。その間に、メイリアが恭介の下へと来て、話始めた。
「さて、一戦終えたばかりで申し訳ないとは思うけどさ、恭介。千里眼で、君のお友達の様子と、NPC日本本部の様子を見れるなら、見てくれいないかな」