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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
NO,THANK YOU!!
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13.討伐隊―5

 その、海塚の覚悟を決めた表情に、神威業火は、気付いた。そして、どうしてか、ふっと小馬鹿にするように鼻で笑った。

 そして、言う。

「……無駄に立派に育ちおって、糞餓鬼が」

「……無駄に、は余計だ。業火さんよ」

 二人は、顔見知りだった。

 流と神威業火も、顔見知りだった。そして、奏もまた、神威業火と顔見知りだった。この四人は、神流川村(かんながれむら)という村がで、繋げられている。

 神流川村。それは、既に日本の地図上から消し去られてしまった、過去の村。NPCの前身である組織が、存在した、過去に葬られてしまった伝説とも言える村である。

 そんな村出身の四人。内一人が、ジェネシスのトップである。残り三人が、NPCのメンバーである。

 この状況が、どうやって出来上がったのか。それは、神威業火と郁坂家、郁坂流の確執があったからである。

 海塚伊吹の記憶では、神威業火は、少し特別な超能力を持ってはいたが、流の存在が異質過ぎてあまり目立てなかった、近所のお兄さん、程度の認識である。

 そんな相手でも、一応ながら、顔見知りとして、敵対している。

 この状況、心が揺れた方が、負ける。そして当然、心を揺らしたのは、海塚だった。

 海塚は、神威業火と対峙したその瞬間から、感じ取っていた。目の前で、今気取った態度を取った神威業火は、過去に知る神威業火とは遠くかけ離れた、利害のためにしか動きを見せない、何か、であると。

 海塚が突如として、自身の周りに数個の真っ黒な穴を空間に出現させた。自由格納の発動である。

 その無数の穴の中から、剣の鋒や、銃口が、顔を覗かせて、神威業火を捉えていた。と、同時、神威業火の周りに無数の黒い穴が浮かび上がり、そこからも、同様に様々なモノの先端が顔を覗かせていた。

 そして、次の瞬間にはすぐに、

「落ちろ!」

 海塚は腕を振っていた。

 猶予を与える理由はない。一閃が何かの力によって殺されるその瞬間を見たのだ。少しでも時間を与えれば、それを発動されてしまうかもしれない。

 時間は全く、ない。

 が、予想外で、想定の範囲内の出来事が起きる。

 一斉に神威業火を襲った剣や、銃弾は、全て、神威業火に当たり――消失した。

 まるで、物理的干渉を全て受け付けない、とでも言わんばかりの光景。神威業火は動かなかった。動かなかった挙句、全ての攻撃を受け入れていた。受け入れていた上で、全く何も効果を発揮させなかった。

 これが、敵の総大将のその力である。

 分かっていた、分かってはいたが、信じたくなかった。

 勝敗は、とっくの昔に決していた。数分前や数時間前、数日前なんて話ではなく、数年前から。とっくの昔から。

「……引け、昔のよしみで今引けば見逃してやる」

 神威業火は情けを掛けた。昔のよしみで、とは言うが、実際の所、神威業火にとって海塚等、相手する理由がない程度の存在でしかなく、ただ、知人を殺す、という普段とは少し違う殺しを面倒に思っただけである。

 かと言って、向かってきたら、それで神威業火は、先の言葉等なかったかの如く、海塚を殺すだろう。殺すのも、無視するのも、対して変わらない労力であるのだから。

 だが、海塚は、既に覚悟を決めた。覚悟を決めて、ここに来たのだ。佐々波とも、二度と会えないかも、と思いつつ、ここまで来た。

 今更、

(今更、引く気等、ない)

 海塚は構えた。攻めの姿勢だ。神威業火の攻撃から、身を守れるとは思っていない。神威業火に攻撃させてしまった時点で、終いだ。

 そう、思った時だった。

 神威業火は、腕を組んだ。そして、嘆息した。呆れた、と言わんばかりの様子だった。

 そんな神威業火の脇を抜けて、海塚の前に新たに並ぶ影が四つ。

 当然、その影の正体は、零落希華、そして、典明、神威兄妹である。

「久しいな、亜義斗、菜奈、そして増田典明、……零落希華」

 零落希華もまた、神流川村の関係者である。が、神威業火と顔を合わせたその頃は、まだ幼かったため、イマイチ記憶がはっきりとしない。

 零落希華含め、全員の表情は険しい。典明だけは、まさかの神威業火の登場に、思わず苦笑してしまっていた。

(ハハッ……。まじかよ。ラスボスの登場かい……)

「お父様。悪いですけど、引いてもらいますよ」

 菜奈が言う。強気の姿勢だ。零落希紀に勝てない程度の力しかなく、零落希紀よりも強い神威業火という存在が目の前にいる。が、臆さない。亜義斗も、典明も、そして、零落希華も。

 ここには、垣根を倒した零落希紀を打倒した、零落希華がいる。そして、ジェネシスで幹部格の上を守っていた神威姉妹がいる。人工超能力者である典明がいる。そして、NPC日本本部トップの海塚がいる。

 このメンバーで勝てなければ、誰が、どれだけの人間が相手をしようが、神威業火には勝てやしないだろう。

「父上。申し訳ない。……全力を持って、止めさせてもらう」

 亜義斗が構える。

「零落希紀は死んだか」

 神威業火はそんな自分の息子娘を無視して、零落希華に視線をやって、問うた。

「……当たり前でしょ。私は姉を救って、妹も救う。それが目的だったんだから。対面して、仕掛けないはずがない。仕掛けて、負けるわけがない」

 零落希華のその威圧的な発言に対して、神威業火は鼻で笑った。

「ふん。その強気な態度は、素晴らしいな」

 視線を海塚へと向けた。海塚は四人の中から割って出てきて、真ん中に立っていた。リーダーである事に対する自覚の現れである。

「……と、いう事だ」

 海塚はただそうとだけ言った。表情は変えなかった。それがまた海塚らしさだった。





 罰の超能力は、三島がクレイモアを振るった最初の一撃の時点で、発覚した。

 複数ある内の一つであろうが、それでも、一つ分かっただけでも、十分だった。

 三島の手中から、クレイモアが消えた。これは、討伐隊が持つ『武器呼応』によるそれではなく、罰の超能力による、反撃に弾かれて三島の手からクレイモアが吹き飛ばされたからだった。

 三島の手を離れたクレイモアはその巨躯を回転させながら飛んで行き、木々を切り刻みながら二人から見えなくなる位置まで飛んで、どこかに落ちて何かに突き刺さった。

 三島は咄嗟に判断した。

 罰はクレイモアを、ただの武器だとして、扱っていた。ただの武器であるが故に、三島に対して大きな効果を発揮していたのだから。が、今、罰は素手でクレイモアを弾いた。

 その光景からのみで予想できるのは、イザムの切断のような超能力だが、

(違うッ!!)

 罰は、討伐隊であり、三島を担当に持つ、三島を殺すためだけに開発された超能力を所持しているのだ。

 つまり、今の攻撃は、先のクレイモアと同様。

(きっと、あれだ。触れちゃいけねぇやつだ。恐らく、)

 三島はこの短すぎる時間で、推測しきった。

 恐らく、何か不可視の武器を、身体に纏っている。そんな事を可能にする超能力を使用している、と。

 間違いなく、切断ではない。その証拠に、三島の手からクレイモアが吹き飛んだと同時、すぐに右手を三島の首を掴むように伸ばしてきたからだ。

(避けねぇと!)

 三島は状態を逸らし、そのままひっくり返るように宙返りをして、それを避け、すぐに距離を取った。が、その最中で、武器呼応の超能力により、罰の手中にクレイモアが戻る。リーチの長いクレイモアが、距離を取ろうとした三島を襲った。

(後ろに飛べ、俺。間に合え!!)

 バックステップで距離を取ろうと判断し、行動に移す、が、痛み。

 突如として膝の裏に走る鋭利な衝撃に、三島の身体は反応を一瞬、遅らせてしまった。

「しまっ――、」

 これは、罰が何かしたのではない。単純に、怪我の、残り、である。

 まだ、完治していなかった。それだけの事だった。

 三島は遅れてだが、バックステップで距離を取れた。が、しかし、クレイモアの鋒が、三島の胸の表面を、切り裂いていた。

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