12.新たな敵と目的違いの敵―11
「マジなのか」
と、海塚が神妙な面持ちで問うと、一閃はすぐに頷いた。
「あぁ、マジだ。俺が信じられないのは分かる。敵だって言ったしな。……だが、これだけは信じてくれ。お前とは、真正面から正々堂々戦いたいんだ。……逃げろ」
海塚の背後で佐々波が困った様に視線を右往左往させて困惑していた。状況は、後で説明をする、海塚はそう呟いて一閃と真正面から向き合う。
そして、一瞬の沈黙。呟く様に、言う。
「……何が目的だ」
「だから、俺はお前と普通に戦い、」
「違う、神威業火の方だ」
海塚のその言葉に、一閃は驚いた。まさか、話が次の段階に進むとは、と思った。が、進めば十分である。一閃は頷く。
「恐らく、いや、俺の聴いた話……では、ここに封印されていると言う、」
「超能力を暴走させた者達か」
海塚の挟んだ言葉に、一閃は頷いた。
「誰かと、神威が話していたのを『盗み聞き』しただけだが、恐らくは本当にそうなのだろう。どういうつもりなのかは、知らないが」
「…………、」
海塚は考えた。超能力を暴走させてしまった者達を、神威業火はどうするのか、と。神威業火が直々に出てくるくらいだ。きっと、NPC日本本部内だから、という理由もあろうが、それだけ、その存在を重要視しているのだろう、と推測出来る。
だが、今隔離されている三人は、どうしても運び出す事ができない。超重力に至っては近づいたその瞬間に、超重力に引かれて圧縮され、肉体事消滅してしまう事になるだろう。実現化は、その呼吸器を外し、意識を取り戻した瞬間、彼女の考える事が全て現実に生み出されてしまい、あっという間にこの世を想像したモノで埋め尽くしてしまうだろう。そして、不死鳥に至っては、動かせば、垣根が戦闘を起こした時以上の大惨事が、起きる。
(神威業火は、この三人、超能力の暴走をどうにか出来る人工超能力を手に入れた、という事か?)
いや、違う、と海塚はすぐに気付く。
(仮にそういうモノを手に入れていたとしよう。それはそれで十分に有り得る話だ。むしろ持っている可能性が高いと考えた方が良いか。……、そうじゃない。目的になるべきモノがある。それだけか)
超重力、実現化、不死鳥。この三つで考え、最も、『可能性』を見出すのは当然、実現化。それに、不死鳥は霧島雅との事もある。言ってしまえば、零落一族でもある。超重力は、動かす事さえ出来れば近づくモノを全て、無関係に殺す超能力。
動かす能力を得れば、それだけで最強の戦力ともなるし、最強の創造物ともなる。そして、最強とも言える人間関係を操作するモノにもなる。
そう考えれば、目的がどれか、等はどうでも良くなっていた。
そして、海塚の目的は定まった。
「悪いが、俺は逃げる事はない」
海塚は宣告した。一閃の表情が揺れたのが分かった。
一閃は敢えてそこで、突っかからず、海塚の言葉を待った。
「悪いが、神威業火、ジェネシスに超能力を暴走させたモノを渡すわけにはいかない。どうあってもな。だから、非戦闘員は全員避難させる。戦闘員は、ここが正念場だ。全力を持って神威業火を相手する」
言って、言いつつ、まずいな、と心中で呟いた。
当然だ。主戦力となるメンバーは全員、研究所と生産工場の襲撃に出している。自分も佐々波の存在がなければ出ていた所だ。
(戦力が足りない。……、超能力を暴走させた連中を動かす事は、俺には出来ない。私が、……俺が、どうにかするしかない)
海塚が言った事を聴いた一閃は、――覚悟を決めた。
一閃は、戦いに覚悟をし、戦いに決意し、戦いに敬意を払う人間だった。そして彼は討伐隊として作り出され、担当に海塚を当てられた、海塚を倒すためだけの超能力を与えられた存在だ。
敵でありながら、その敵を邪魔するモノがいれば、それを斬る人間である。
そんな一閃が、また、覚悟した。
覚悟には、普段以上に時間がかかったが、結局、
(結局は、同じ事か。海塚と『戦う』には、神威業火を斬らねばならない。だが、そうしようとすれば、勝算はなく、生きて場を収める事が出来る可能性は恐ろしい程に少ない。だが、結局、それしか選択肢がない)
顔を上げ、海塚をしっかりと見て、一閃は、言う。
「戦力が足りないのだろう。分かっている。人が少な過ぎるからな。……だから、俺も手伝おう」
その言葉には、流石に海塚も驚いた。そういう類の人間だとは分かっていたが、まさか、神威業火と戦うとは思ってもいなかった。当然の事だが、だが、こうなる様な気がしていたのも、事実だった。
正直な感想として、海塚は助かる、と思った。信じて良い相手ではない。いや、相手自体は前回のリアルの襲撃の時の事もあり、信じて良いものかも知れないが、相手の立場は絶対に信じて良いモノではない。なにせ、自分を殺すと宣告している敵なのだから。
だが、今という現状が重なって、海塚は、相手の、相手自身を信じる事とした。
頷く。
「すまない。助かる」
続けて、
「落ち着いたら、正面から、正々堂々、刃を交わそう」
生きて、この場を収めよう、という約束を交わした。
71
「何よこれ……」
桃は辺りを見回して、絶句していた。亜義斗も菜奈も、三島も典明も、全員が、絶句した。そして次に思った。
――襲撃が、バレていたのか、と。
ジェネシスの人工超能力商品化のための生産工場を見つけ、襲撃しに向かった桃達だったが、いざ入って見れば、そこは蛻の殻。廃墟、とは思えない程に綺麗な状態で残っている現状、設備を見て、桃達が襲撃する少し前に、作業員が逃げ出したのだと推測出来た。
この広い土地に作られた広すぎる生産工場は、どことなく静かなデザインで、近未来感を感じさせる眩いばかりの白で覆われたとても工場とは思えない様な場所だった。
「……おい、これって」
察した典明が近くにあったラインをなぞりながら呟くと、亜義斗が反応した。
「あぁ……、どうやら、逃げられたようだ」
菜奈が続く。
「とりあえず、私達がするべきって人工超能力商品化の遅延だったよね。……、辺りを散策して、後、このラインから機械か、資料から、全部破壊しないとね」
菜奈の現状把握した言葉に全員がそうだなと動き出した。
そんな中唯一、三島は、ただ辺りを見回して、考えた。
(襲撃がバレていたのか……? 事前に? 直前に? いや、そこは資料や材料が残っているかどうかで分かるな。問題はそこじゃない。……俺達、幹部格に戦闘要員が、この場にいる、という状況が、まずいだろ……!! おびき出された、そうでないにしろ、現状が、最悪だ。希華ちゃんは零落希紀と戦ってて、恭介達は研究所に向かう。せっかく他の支部の人間が来てるっていうのに、戦力は守るべき位置にいない。……もし、仮に、よしんば、ジェネシス再度にNPC日本本部を見張る人間がいれば、このタイミングこそが、襲撃のチャンスだ、と当然考えるだろうがッ!!)
神威業火と直接向き合った事はない。だが、彼が人知を超える人間である、という事は大いに想像が付く。
彼は今まで、『直接』NPCに仕掛けてきた事がない。つまり、俯瞰しているのだ、と三島は思った。
(見てるんだ。きっと。そうだ。部下にだけ行動を起こさせていたのは、見て、判断して、自分の理想に、進路がそれても全体を見て動かすためか。そうだ。そもそも、見張ってないはずがない。人工超能力を今まで見てきたが、自在に作り出されていると言っても良い。見る超能力だって、あったはずだ。それを、神威業火が持っていないはずがない。あれだけの強力な敵をまとめあげる一番上の存在なんだからよ)
三島は、攻撃する超能力を持っていない。場の破壊を他の皆が済ませたと同時、全員にNPC日本本部へと戻ろう、と話した。