11.残党狩り―13
全員で煤島が運転してきた車へと向かい、乗り込み、NPC日本本部へと向かって行った。
道中、桃だけが、先の軽磨の超能力と思われるあの霧に、驚異を感じ取っていた。
(実現化系じゃなきゃ、いいけど)
NPC日本本部へと戻った五人はすぐに海塚と会議室にて対話する。
「……、なるほど、そうか」
煤島達の自分達の限界の説明を聴いて、そして、桃達によるあの短い襲撃の話を聴いて、海塚はまずそう溜息を吐き出す様に言った。
「だが、我々でもそこまで事細かには分からなかった。警察として、君達には十二分に動いてもらった」
海塚は煤島達に言う。感謝の意を伝えたつもりだった。
「いや、アンタに警視庁総監までもがジェネシスの毒牙にかかっていると聴いたからこそだ。期待に添えなくて申し訳なく思っている」
煤島はあくまで低姿勢だった。
煤島も霧島深月も、海塚には、NPCの人間には敬意を払っていた。自分達は、警察は一般に認識されている以上に無力で、その無力さを補う様にNPCの人間が働いている事を知ったからだ。
「気にしないでくれ」
海塚はそう言って、一瞬の間を空けて、続ける。
「確かに、現状では限界だろう。が、二人が良ければこのまま連携者を続けてもらいたい。どうだろうか」
提案した。
が、応えは分かっていた。
「当然」
煤島が頷く。そして、霧島深月が続ける。
「今更ですよ。ここまで足を踏み入れた時点で、出る事は出来ないですよ。今日の事もそうでしたけど、既に私達も目を付けられてますから。ジェネシスからも、警察内部の連中からも」
分かっているでしょ、とは問い詰めなかった。言わずとも、この場にいる全員が理解している事を、態々言う必要はあるまい。
海塚は、そうだな、と言って桃達を見た。視線を煤島達へと戻して、言う。
「護衛も付けよう。相手がそうした様に、視る力を持った者と、襲撃の際に君達を守れる人間を付けよう」
海塚はそう言って、数秒の沈黙を見せてから、会議室の内線である人物二人に、呼び出しを掛けた。
そうして新たに会議室へと姿を見せたのは、三島と、鈴菜。幹部格二人だ。
海塚は補足する。
「鈴菜芽紅はまだ学生だが、それでも君達を視ている事ができる。彼女が動けない時には、今この場にはいないが他の人間が付き、二四時間体制で監視を付けよう。その代わりと言ってはなんだが、連携者として積極的になってもらいたい」
これも、分かっているくせに、という発現。
煤島が応える。
「安心してください。俺達は、警察を辞める。あんな腐った所にいれるかってんだ」
煤島の隣で霧島雅も頷いた。そして、続けた。
「別に働かせてくれ、だなんて言いません。ただ、本当に私達は、今のほとんどの人間が知らない現状に嫌気が刺しただけ。それに私は、雅との事もあるから。こっちに集中すべきだと思ったんです」
そこまで、全部海塚は分かっていた。分かっていた上での、提案だった。だから、
「金の事は安心してくれ。一般人よりも僅かでも動ける君達みたいな連携者が欲しかった所なんだ。近藤蜜柑にもそうしている通り、給料は出す」
海塚は、当然考えている。ジェネシス幹部格の件は恭介に一任している状態。新たに出てきた敵は、これから活動を活発にする。後者が、警察である煤島達との――まだ、彼等には理由が見えていないが――接触してきた。これは、このタイミングは、警察内部に潜む連中をどうにかする良いチャンスではないか、と考え、攻める事にしたのだ。だから、幹部格を二人も派遣する事にした。
そこまでで連携者の話を終える。三島達に連携者の後を任せ、その場には海塚、桃、典明の三人と、そして、後から来た垣根がいた。
「……さて、お前達三人には、これからやってもらわなければならない事がある」
「え、俺もですか?」
典明が自分を指差して驚く。海塚は頷く。
「あぁ、そうだ。お前は自分がジェネシスにいた事を気にしているようだが、誰も気にしてはいないぞ。お前が操られていたのは周知の事実だ。これからは気にするな。あと、幹部格の中に一人隊員がいるという事も気にするな。お前はまだまだ経験が浅いが、その複合超能力という立場は強いんだ。自信を持て。それに、NPCは確かにジェネシスと戦っているし、人工超能力を危険視しているが、持ってしまったモノはどうしようもない」
この場合は、である。海塚はそう言うが、その台詞を恭介にいう事だけは絶対にないだろう。恭介本人が気づいているかどうかは定かではないが、琴の視力は、確かに、人工超能力なら回復できる可能性がある。が、危険も伴う。今の恭介が、未知の危険と、琴の視力どちらを取るかはわからないが、『悪い選択をしない』様に敢えていいはしない。
「あ、ありがとうございます……」
典明は一礼し、おとなしく引き下がった。それを確認して、海塚が続ける。
「今回の任務には私も出る。その内容は、佐々波凛の保護」