2.兄妹
2.兄妹
恭介には大介と愛という兄妹がいる。恭介は思っていた。両親が超能力者であり、そして、自身も超能力者。ならば、下の兄妹二人も超能力者であっても不思議ではないだろうな、と。
仮住まいのボロアパートに下二人以外の全員が揃っているという珍しい休日があった。思い切って、恭介は訊くことにした。
昼食の準備をしてキッチンに立っている奏には触れないようにして、安いちゃぶ台の前であぐらをかいて新聞を読んでいる父流に聞いてみることにした。
「なぁ、親父。やっぱり大介も愛も超能力者なのか?」
すると流は新聞を下げ、その上から恭介と視線を合わせ、
「そうだぞ。うちは家族全員超能力者。超能力一家ってわけだ。ちなみに桃ちゃんの家族もそうだぞ」
「マジかよ!?」
思わぬ拾い物に驚く恭介。うるさい、とキッチンから聞こえ、大音声を上げてしまったことに失敗したな、と思い、声を小さくして続けて問う。
「ちなみに何の超能力なんだ? 二人のは」
「それはわからない」
ふぅ、と溜息を付いて流は新聞に目を落とした。左手で顎鬚を触ってジョリジョリと音を立てている。
「なんでわからないんだよ。俺のは分かってたじゃん」
そうだ。恭介の超能力は強奪だ、と流は発現前から把握していた。恭介に強奪だ、と伝えたのも流だ。
「イロイロと事情があるんだ。恭介。大人のな。その事情ってのもまた複雑でなぁ……。『いずれ教えてやるが、まだその時ではない』。知りたいならな、気長に待ってろ」
「なんだよそれ」
流の言葉がよく理解出来ない恭介は不満げに首をかしげてぶつくさと文句を言っていたかもしれない。
そうしている内に、奏が昼食の準備を終えて食卓にモノを運んできた。
恭介が素麺で、他二人も素麺だ。まだ九月。夏の暑さが残る今、素麺の謎の力は健在。そして、素麺が故差別もない。
食事を終え、せっかくの休日(NPC含め)に何かすることはないか、と恭介は寝転がりながら考えた。まだ時間は昼過ぎ。今から行動を起こしても十分なはずだ。
(夏休みみたいに長く休めるわけじゃないって考えると、一日の貴重さが分かるな。明日も休みだが、さて、どうすっか)
はぁ、と溜息をつくと、奏の目が光るため、恭介は我慢して立ち上がり、適当な身支度を整え、外に出た。どこに行くとは言わなかった。言おうにも本当にどこにいくか見当もついていなかったため、言えなかった。
外に出た恭介は隣り町に向かうためのバス停に向かいながら、誰に連絡を付けるか考えていた。が、すぐに絞ることが出来る。
「ま、典明が妥当か」
思い切ったが行動。携帯電話をポケットから取り出し、ロリコン大魔王の登録名に電話を掛ける。が、出ない。その後もう一度かけ直してみたが、やはり出る様子はない。
典明にも何か用事くらいあるだろう、とはぁ、という溜息をして、歩き続けた。
そうやってまた十数分歩いていると、目の前に人影が現れる。住宅街の路地から出てきたのは、つい最近みたばかりの顔。
「長谷さん」
「恭介くんじゃん。どしたの?」
おぉ、と琴。露出の高い服装のせいで目のやり場に困るが、恭介は暇を持て余しているため、何をするかに気を取られその服装にも気づかない。
「暇でね。隣り町にでもぶらぶらしに行こうかと」
「暇なの?」
「そう言ってるだろ?」
それを訊いた琴はニヤニヤと笑いながら、
「じゃあ私と同じだね。私も一緒していい?」
琴のそんな何か『裏のありそうな』台詞に何か『裏がありそうだな』と思いつつ、恭介は頷く。
「いいよ。つまんねーだろうけど」
「何それ!? 私と一緒はつまらないってこと!?」
「いや、そっちじゃなくて、来てもすることねーしつまんないだろうけどって方な」
して、二人は歩き出す。夏の暑さ残るこの田舎の住宅街を抜け、汗のにじみ出る嫌な感覚に悶えながら雑談を交わし、進んでバスにのり、隣り町までやってきた。
隣り町は建物やアミューズメントの多い所謂『都会』で、本当に恭介達の住む町の隣りなのかと思う程度には栄えている。ゲームセンターもあれば映画館もあり、遊園地もある。探せばいくらでも、何でもあると見える。
駅前のバス停で降り立った二人はそこから近場のアーケード街へと進んで行く。ブティックや雑貨屋等、若者向けの店が並んだそういうタイプのアーケード街だ。
天井があり、そこに季節感漂う装飾がぶら下げられている。
日よけには丁度良い。
「何か見たいモンでもある?」
恭介が問う。もとより暇潰しのためにここに来ているのだ。目的という目的はない。琴が見たいモノがあるというならば、それに付き合うのもまた暇潰しなのだ。
聞かれた琴は下唇に人差し指を立てながら、
「うーん。特にないなぁ。あ、でもゲームセンターに行ってみたいかも」
「ゲーセン? なんで」
「あんまり行った事ないんだよね」
「そうなのか。じゃあ、行くか」
なら、と恭介はこの町に来た時に来るゲームセンターへと足を運ぶ。ゲームセンターもこのアーケード内にある。暫く進み、アーケード内途中にあるゲームセンターへと入った。
中は広くは見えないが、二階建てになっていてそこそこの敷地を誇るゲームセンターだ。全体的に雰囲気は薄暗いが、見れば若いカップルやメダルゲーム目的の老人も、平日休みの夫婦のような影も見える。人はそこそこ多いようだ。
一階部分にはUFOキャッチャーコーナーやプリクラコーナー、一部の音ゲーやカーレースゲームがある。上がった二階にはメダルゲームコーナー、格ゲーコーナーがあるようだ。
UFOキャッチャーコーナーへと足を運んでみる二人。と、そこで、
「ん?」
恭介が何処かにコーナーの奥に視線を投げた。
「どうかしたの?」
琴が何あったのか、と訊く。
「いや、今、妹が見えた気がしたんだが」
「何? 愛ちゃんだっけ? 見たい見たい!」
琴のテンションが上がる。どうやら恭介の妹や弟とは会ったことがないようだ。流づたいに存在は知っていたのだろう。愛の名前を出し、見たいと騒ぐ。そのテンションのまま恭介の手を取って、恭介が見ていた方へと走り出す。
おい、と恭介が止めようとするが、琴は恭介を引っ張ったままあっと言う間に進み、角を曲がり、そして、見つける。
「マジで愛じゃねぇか。こんなところで何してんだ」
「あの子? あの子なのね」
UFOキャッチャーの機体の影から覗く二人の視線の先。カーレースゲームの横にある休憩場のような場所のベンチに一人腰掛け、缶ジュースを飲む愛の姿を見つけた。
周りに数人の影が見えるが、愛とは無関係と見える。
UFOキャッチャーの機体の影でこそこそとする二人。
「っていうか一人だといくらなんでもこの時間は危なくないかな? 愛ちゃん確か中一でしょ?」
「そうだな。せめて声くらいは掛けておくか」
よし、といざ恭介がそこから出ようとした所で、愛の周りにいた野郎共数名が愛を囲んだ。その光景が、恭介の視線の先。恭介の後ろで琴も目を見張る。
あぁ、マズったな、と思い、恭介が駆けつけようとした時だった。
「またかよ!」
そう聞こえた。ゲームセンターの騒音に混じって、聞きなれた声が隅の方から聞こえてきた気がした。その声の主に気づいて恭介が視線を移すと、愛を囲んだ野郎共の中に突っ込んでいく男が一人。予想通り、郁坂大介のその姿。
「あれ、大介くん?」
いつの間にか隣りに並んでいた琴が恭介に訊く。
「あぁ、そうだ。つーか何やってんだ。あいつら」
恭介は首を傾げる。二人の視線の先では、大介が野郎共を掻き分け、その中から愛を引っ張り出し、連れて走り出した。そして、野郎共がそれを追いかけるという、謎の光景。
数秒、突然の光景に呆然と固まってしまった二人だったが、
「お、追いかけないと!」
琴の声で恭介も動き出す。