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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
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11.残党狩り






11.残党狩り





 困った事に、セツナの死が生き残った幹部格に届いたのは彼の死から実に一週間が経過してからであった。それは、現場を見ていた霧島雅が、セツナから『引き継ぎ』を頼まれていたエミリアに保護されたは良いが、郁坂恭介の執拗な追跡を警戒したエミリアが霧島雅と共に一週間程身を隠していたからである。

 エミリアは実際にその目で帰ってきた郁坂恭介を見たわけではないが、霧島雅を保護したその時の状況を見て、すぐに危険だ、と判断出来た。故に、仲間よりもまず、成長を辞めない力を持つ霧島雅の保護を最優先にした。

 だが、そんな事をして、霧島雅を助けようが、郁坂恭介の怒りが収まるはずはない。

 視る超能力を得てしまった恭介には、索敵は容易い。

 マイトは目を見張っていた。この光景を見てしまうと、自分の今まで対超能力では無敵を誇っていた等価変化も、通用しないのではないかと思う程だった。

 身を潜めていた古ぼけたマンションの一室。剥き出しになったコンクリートの壁、床、天井には鮮血が吹きつけられている。

 そして、その部屋の中央には、キーナの障壁を力のみで叩き割り、首を肩手で持ち、持ち上げ、へし折って掲げている郁坂恭介の姿。

 一瞬だった。彼がこの部屋の扉を蹴破って侵入し、マイトの一撃を容易く避けて障壁を張ったキーナに近づき、障壁を叩き割り、彼女を殺すまでは一瞬だった。

 恭介の手から、キーナの死体が落ちる。そして、首が周り、恭介はマイトを視界に捉える。

(……こんなに、強くなっていたのか……)

 マイトは戦慄した。戦いに身を置く人間は、戦い慣れる内に見れば相手の力量がある程度わかってくる。その、不確かだが大きく体感する事の出来るマイトのセンスが告げている。郁坂恭介は、危険だ、と。

 郁坂恭介は訓練を積んできた。メイリアという現在のNPCのトップの下で。だが、それだけではない。マイトが心の隅で感じている自分達に近い感覚。つまり、怒りに任せ、ただ殺す、という行動理論。今の恭介を圧倒的に強くしているのはそれだった。

 容赦をしない。それはこの場合、一般人を巻き込む覚悟すらあるという事。現に恭介はセツナを殺した際は、犠牲者は奇跡的に出なかったものの、一般人等お構いなしに超能力を発動し、セツナを殺すに至った。

 それが、マイトには分かる。

 と、なれば当然、選択肢は、一つ。

(逃げる事だけを考えろ……!!)

 マイトはすぐに恭介とは相手をしない、と判断した。これならまだ他の幹部格と相手をした方がましだ、と考えた。いずれにせよ郁坂恭介を誰かが倒さなければならないのだが、それはエミリアやミヤビ、あるいはの神威業火の直接的な部下に任せた方が良い、と判断出来た。

 マイトは超能力を発動し、足元の床をぶち抜いた。そのまま、真下へと落下し、下の階へと落ちた。下の階にも当然住人はいる。NPCの人間は一般人を巻き込むような真似はしない、と普通のマンションを選んで隠れ家にしていたのだから当然だ。

 下の階は普通の部屋だった。壁紙もあるしコンクリートが剥き出しになっているなんて事はない。普通の、夫婦がいるリビングだった。突然上の階から人と瓦礫が落ちてきた事で夫婦は悲鳴を上げた。普段だったらこの時点で逃げ切る事は出来るが、相手は半分暴走状態である郁坂恭介である。追ってこないわけがない。

 マイトは上を確認せず、夫婦に視線をやる事もなく、即座に走り出し、玄関へと向かい、玄関扉を蹴破って外へと出た。

 外は当然普通の廊下だ。自分の部屋があったのがこのマンションの最上階、六階だったため、今は五階の外に出た事になる。中にあるタイプの廊下ではないため、外の景色が丸見えになっている。吉祥寺の駅周りの発展した光景が見える。人は当然多いが、今は無駄である。死人が増えるだけであろう。

 どちらに逃げるか、と考える暇はない。奥の階段へとマイトが駆け出すと同時、夫婦の悲鳴が再度聞こえてきた。郁坂恭介が穴から降りてきたのだろう。マイトの足は早まる。

 マイトが階段を駆け下りている最中に、恭介は廊下へと出た。既に視界内にマイトの姿はないが、恭介には見えている。そして、恭介には移動する力がある。

 マイトが階段を降り、一階の小さいエントランスホールに出た時だった。

 目の前に、郁坂恭介がいた。マイトは驚愕したが、当然だった。彼には、瞬間移動がある。メイリアの下で熟練させ、その精度や距離を飛躍的に上げた瞬間移動。

 そして、今の郁坂恭介には、数キロ先まで視る事の出来る、琴から譲り受けた『千里眼』がある。

 逃げ切れるはずがなかった。実感した。

 マイトは咄嗟に構えた。勝てるとも、逃げるとも思えないが、それでも、反射的に構えていた。目の前の郁坂恭介は体中に稲妻を走らせていた。

 恭介の右手が伸びてきた。

 マイトはそれを弾く。それは、出来る。等価変化の力によって稲妻を無力化したからだ。だが、稲妻を無力化する時点に留まり、郁坂恭介の右手にまでその超能力を影響させるまでには至らない。

 続いて、恭介は左手を伸ばした。それも、同様に弾かれる。

 ここまで来て、等価変化の利便性が発揮される。だが、ここまできたことが間違いである。ここでなければ、もっとその利便性は発揮されただろう。

 今の二つの腕を弾かれた事で、恭介はマイトの超能力を大まかにだが、脳内で分類し、そして、対策をたてる。

 そして、思う。余裕。

 そもそも、恭介が訓練に出たのは、超能力の強化だけでない。体術も、訓練してきた。触れる事が出来る以上は、体術で対処すれば良い。

 恭介はそのまま攻撃を続ける。守りには入らない。膝蹴りを放つと、マイトは両手でそれを防ぎにくる。マイトの腹部の手前でマイトの両腕に受け止められた恭介はそのタイミングとほぼ同時に、拳を振るっていた。その拳はマイトの顔面を横から殴る。マイトの顔が揺れた。

 そして、そのまま、恭介は殴った拳で彼の胸ぐらを掴み、引き寄せ、頭突きを額に叩き込み、それで怯んだマイトの首を掴み、そして『二秒弱』。

 そうだ。恭介には他の誰にもない、『強奪』がある。それが注目され、メイリアにも訓練を受けさせられたのだ。メイリアの下での修行により、強奪も熟練され、その効果を一気に引き上げた。

 恭介にとっては『まだ長い』。だが、受ける側のマイトからすれば『ほぼ一瞬』。

 自分の中から超能力が消えてゆく感覚に襲われ、打撃による怯みの最中、彼の頭は真っ白になった。負ける事は分かっていた。だが、こんな結末だとは思わなかった。

 彼の中から等価変化が失われたと同時、彼は郁坂恭介の身体を這う稲妻に感電し、一瞬で死に至る。

 悲鳴は上がらなかった。先の五階に住む夫婦の悲鳴あって住人の注目は上にばかり向いているし、偶然なが人の出入りもなければ、管理人もこの場には存在しなかった。

 目撃者がゼロの状態で、型をつけた。

 恭介は足元に転がったマイトの死体を担ぎ、近くにあったエレベーターを呼び、それに乗り込んだ。向かう先は当然最上階。エレベーターは途中で止まる事もなく、最上階に到達する。

 廊下に出ると誰もいなかった。いたらいたで気を失わせれば良いと考えていた恭介だが、好都合だ。

 侵入の際に蹴破った玄関扉を開け、その中にマイトの死体を投げた。マイトの死体は部屋の手前に転がり、その奥にキーナのマイトよりも無惨な事になっている死体が見える。

 形が曲がってしまった扉を無理矢理に締め、恭介はその場をそのまま歩いて後にする。

 結果論で言えば、最良だ。ジェネシス幹部格を二人倒した。一応ながら死体の目撃者もいない。回収班に連絡をいれて住所を知らせればそれで全てが片付く。

 今の郁坂恭介の暴走状態には、頭を抱える人間もいた。そうだ、海塚だ。恭介はいっても、彼の直接的な部下である。当然、今の恭介の一般人を巻き込む事を厭わない行動には、制限をかけなければならない。

 だが、今の恭介は幹部格を全員倒すまでは止まらないだろうし、何より、結果を出している。マイトとキーナを倒した事により、ジェネシス幹部格は残り、霧島雅、エミリア、イザムの三人となった。それ以外にも恭介はセツナというリーダーまで倒しているのだ。そして、運良くだが一般人に被害者を出していない。

「……どうすれば良いと思う。垣根」

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