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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
NO,THANK YOU!!
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1.言い忘れ―10


 桃の助言により、少しだけ慌てたままだが、能力の使い道に気付く恭介。キーの前まで行き、隣りで琴が見守る中で、右手を延ばし、キーを覆う。当然、恭介は電撃を流すことしかできないが、琴がそうしろというのだから恐らくそれでいいのだろう。

 バチリ、と空気が炸裂する音が弾け、恭介の手に覆われていた機械から、煙が立ち上った。そして、そのすぐ横で空気が抜けるような音、そして、扉が開く音が並ぶ。見れば、少し扉が開いていた。

 電気を流すだけなんてなんて簡単な機械なんだ、と思いつつ、恭介が隙間から中を覗く。見えるのはいかにも入口という感じの無機質な通路だ。残念だが、先の方は見えそうにない。

「入っていいのか?」

 恭介が振り返って二人に問う。二人はすぐに頷いて返した。桃はいざという時に動ける。そして、琴がその超能力『千里眼』で中の見えない位置の人間から、構造、置いてあるモノ、そして仕掛けられた罠。その全てが見えている。その琴が頷くのだから間違いなく、入った瞬間は安全なのだろう。

 恭介は扉を開ける。重厚な音が鳴り、扉が開く。

 見えてきたのは通路だ。無機質、というよりは、鉄。固い印象の床、壁、そして天井。ライトはあり、付いているが、どうも薄暗く感じてしまう。その出来のせいだろうか。

 三人が足を踏み入れた――かと思ったのだが、どうしてか、琴のみが、中に入ろうとしなかった。

「どうしたの? 琴ちゃん」

 桃が不思議そうにする。恭介も何かあったのか、と心配の表情を浮かべていた。

 問われた琴は、優しい笑みを浮かべながら二人に向かって手を振り、

「私がいたら簡単でしょ? 私が一番の、それもかなり先輩だし。桃ちゃんの超能力はかなり熟練されてるから、恭介君の心配もないし。二人でやってみて。私は外から『見てる』から」

 言い終わると、あの重厚な扉は琴によって閉められ、琴と二人を隔離した。

 扉を開ける気も、振り返る気もなかった。初任務。これを始め、終えなければNPCとしてやっていけない。

 桃がいる、という安心感もなかったわけではないが、それに頼りきっている恭介でもなかった。バチリと右手に一度、閃光が走る。

 正面を向けば、顔を上げれば、通路の奥に三人の影。琴はわかってて扉を早めに閉めたのだろう。

 男が三人。その道中や奥に扉、通路が見えるが、今は関係のないことだ。そもそも、アジトという形態をとっているこの施設。監視の目がなくても、狭さや音の反響で気づかれてもおかしくないだろう。そもそも、ある程度の部屋数も確認出来るここに入る直前、偶然でも人がいなかった事が不自然。

 恭介の隣りで桃が可愛らしく眉を顰めている。敵を睨んでいるのか、それとも、琴がわざと敵の存在をはぐらかしたことへの不満の現れか。

 ともかく、三人の男は確実にこちら二人を敵視していた。そして、気付いた瞬間には、三人の内の一人が『移動』していた。

 突然の出来事に恭介は目の錯覚か、と思ったが、

「瞬間移動かか、高速移動とかの類だろうね。まだまだ慣れてないみたいだけど」

 桃のその呟きで気付く。そうだ。相手はジェネシス。そして自分達はNPC。超能力者同士の戦いなのだ。

 が、超能力者同士の戦い。

 気づけば、桃がしゃがみこんでいた。右掌を床につけ、そして、そこから伸びる水か、それとも薄い氷の膜か。それは床をつたい、途中にいた瞬間移動の男もまとめて、奥の二人ごと、動きを封じていた。足を封じ、伸びて腰、手、つまり、首元まで全て氷で覆われていた。

「おぉ、すげぇ」

 恭介は思わずそんなことを漏らす。

「そうじゃないでしょ、きょうちゃん。はやく強奪してきて?」

「あぁ、そうか。おう」

 答えた恭介は桃の氷を避けるように進み、まず、瞬間移動の超能力者の頭に触れた。そして数える。五秒。同時、頭に恐ろしい程の情報が流れ込んでくる。

「ッ、」

 そして得る。二つ目の超能力『瞬間移動』。

「どう? きょうちゃん?」

 桃が隣りに並び、問うてくる。して、恭介は頷く。

「あぁ、大丈夫だ。まだ二度目だからか、超能力を強奪した時の、頭にグワーってイロイロ流れ込んでくるような、あの感じは苦手だけどな」

「うん? 私にはよくわからないなぁ」

「ははっ、そうだな」

 そう言った恭介が、次へ、と向かおうとした時だった。

 ガラスが砕けるような音。氷の砕ける音。そして、駆ける音。

 反応が遅れた。桃が顔を下ろした時、目前に男がいた。右手を掲げ、桃に掴みかかろうとしている。

 が、横から手が伸びてきた。稲妻を宿した、雷撃の掌だ。恭介の手は、桃に飛び込んできた男の頬に触れ、押し、壁に押し付けた。殺しはできないが、怯ますことが出来る程度の能力。

 壁に押し付けられた男は身体を硬直させ、そして痙攣させながら、あっと言う間に白目を向き、泡を吹いて卒倒した。恭介が手を離すと、男の身体は重力に引かれるがまま、床に落ちる。

 が、その間にもう一人が近づいてきていたようだ。恭介はすぐ正面に迫っていた敵に気づけなかった。桃を襲ってきた敵に集中してしまっていたのと、始めて人に超能力を全力で使った感覚に囚われていたからだ。

 が、桃は違う。恭介が男に気付くと同時、男は先程恭介にやられた男とは反対側の壁に、氷の拳によって叩きつけられ、床に崩れ落ちた。

 三人、撃沈。

 二人、見上げ、見下ろし、ふぅ、と溜息を吐き出した。

 転がる三人を見下ろし、恭介が呟く。

「死んだか?」

「さぁねぇ」

 桃が大して気にせず進むため、恭介も気にせずしかたなく、進みだした。

 部屋の一つ一つを確認しやしない。目指すは最新部、リーダーがいると思われる部屋だ。ブリーフィングの時に、琴の見たマップで構造はあらかた確認してある。途中で邪魔する敵が出てこない限りは、戦闘もしないだろう。

 そうこうして進んでいる内に、あっと言う間に最新部へとたどり着いた。

 地下四階とでもいうか。ともかく、それだけの階段を下りた。階段を下りる途中、上から階段を下る複数の足音が聞こえはしたが、二人は無視して先を急いだ。

 最新部には狭いフロアと一つの扉。フロアはエントランスホールの様にソファ等が並べられている。扉の先は恐らく、リーダーの部屋。

 二人が並んでいると、扉は勝手に開いた。

 二人は息を呑む。二人が前に立ったことでセンサーが働き、勝手に開いたというわけでないことはわかっていた。

 先には少しの通路。赤い絨毯。そして、広めの部屋が見えた。その最新部に机、椅子。人影。

 招かれている。

 二人は同時に足を踏み入れた。部屋までの短い通路を進むと、背後で扉がしまる音がしたが、二人は振り返らなかった。

 二人がリーダーと接触した事を外から見ていた琴は、満足そうに笑んで、

「さて、二人はどこまでやれるのかにゃー」

 と、言って、振り返った。振り返りざまに、裏拳を放っていた。その裏拳は見事に、いつの間にか背後に迫っていた敵の腕を叩き、頬に突き刺さって相手を吹き飛ばした。吹き飛ばされた敵は近くの木に背中を打ち、小さなうめき声と共に落ちた。

「一七人……か。そりゃアジト内にいる数が少ないわけだ」

 呆れたようにそう言う琴には見えている。アジトの入口の前、琴を囲むように今吹き飛ばされた敵を含め、一七人の敵が近づいてきているという光景が。

「よーし。琴ちゃん頑張っちゃおうかな。雑魚ばっかりみたいだし」

 琴の右の拳が左の掌を打った。琴には見えている。相手の、『超能力』が。

「ようこそ、新築だ。居心地は悪くないだろうよ」

 恭介と桃を迎えたのはいかにも、な男だった。肩まである黒い真っ直ぐな髪。日本人ながら彫りの深い顔立ち。イケメンだな、と恭介が睨む。身長も高く、見た目だけで言えば二十代にも見える。若き精鋭という印象。何かの物語の主人公かと思える程の風貌。思わず嫉妬しそうだった。

「君達が来るのはわかってたよ。こっちにも『見える』超能力者がいるからね」

「そんなのは予想してたよ」

 桃が素っ気なく答える。男は桃を一瞥し、ふっと笑って視線を恭介に移した。

「で、これは俺の勘だが、……そっちの可愛らしい女の子の方が、格上ってやつだろ」

 その声は背後から聞こえてきた。

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