表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
NO,THANK YOU!!
114/485

9.襲撃―6


 イザムが廊下に転がった二人を不気味な笑みで見下ろす。舌なめずりをして威圧感を放つ。

 桃も菜奈もすぐに態勢を立て直した。が、絶対絶命。一方通行の道に、敵が迫っている。後ろに逃げるか、正面を切って戦うしか選択肢はない。別の選択肢を取って道を空けてしまえば、非戦闘用超能力者の琴が待つ三階への道が開けてしまう。

(どうする……ッ!?)

 判断を誤れば誰かの命が一瞬で絶たれる。そんな状況だ。

 桃も菜奈も焦った。イザムの狙いが菜奈だとしても、この状況だ。

 が、考えは杞憂。

(やっぱりアレだ。見える奴がいる……。やっぱり、千里眼か……。だとしたら、どうすっか。千里眼はイニスが狙ってたしよぉ……。ここで殺したらきっとわめくぜ。うっせぇ程に)

 ジェネシス幹部格の中で派閥が出来ている今、仲間内での関係を揺るがすのは危険だ。イザムはイニスに危険を感じた事はないし、感じる事はないが、それで何かがこじれても面倒だ、と思っている。

(千里眼なら、殺さないでおくか。どうせ戦闘要員じゃねぇし)

 イザムはそう決めると、三階で監視している存在を意識からはずした。千里眼でなくとも、非戦闘要員であれば問題ないと考えたのだろう。

 イザムは目の前の二人を見る。イザムから見た二人は、目標と、その味方。つまりは敵。

(はぁ、正直、菜奈さえ殺せれば良いんだがな。こうやって邪魔されりゃあ殺さないわけにはいかねぇ。……自分より弱いって分かってる女を殺すのは気分わりぃな)

 イザムは桃を見る。そして桃の敵対心が見て取れる。こんな相手を殺すのは気分が悪い、心中でそう思っていても、実際、イザムは殺す事にそんな感情を抱きはしない。邪魔なら誰であれ殺すだけだ。考えるから、そんな事を吐くのであって、そもそもイザムは殺すその瞬間には考えをもってなんていない。

 イザムが一歩踏み出す。駆ける必要はない。敵は逃げていない。

 桃達は考えを巡らせた。どうすれば、この状況を打開できるか、と必死に考えた。

『二人とも、窓ぶち壊してでも逃げて! 私が敵を引き付けておくから!』

 インカムから琴の指示が飛ぶが、二人は無視していた。

 ここで逃げれば、琴に危険が行く可能性があると思ったからだ。それに琴は自ら敵を引き受けると言っている。琴は非戦闘要員だ。彼女と圧倒的攻撃力を誇るイザムをぶつけたくなかった。相手の目的が菜奈だという事は把握した上で琴はそう指示を出しているし、桃達も判断している。

「なんでよもう!」

 琴は焦った。身を隠している場合ではないと立ち上がり、即座に走り出した。階段を駆け下り、二階へと向かった。

 当然その間も事態は加速し続けている。

 桃が目の前に氷の壁を張った。廊下の天井、壁、床とぴったり張り付いて虫が入る隙間すら埋めた厚さが一メートルはある分厚い壁だ。

 緊張の生唾を飲み込む。桃達の目の前に設置された恐ろしく分厚い壁。そこに、イザムが迫ったのが氷の壁ごしに見える。イザムはやはり、笑みを崩さない。

 桃達は壁から離れた。そのまま踵を返し、廊下の奥へと走り出した。二人は会話を交わしはしないが、考えている事は一緒だった。

 今の内に、琴と合流して三人で逃げる。

 幹部格とそれと同等の力として見られている菜奈がいるこの班がジェネシス幹部格の前から逃げ出すのは好ましくない。イザムの力を認め、勝てないと宣言しているも同等だ。

 だが、そうするしかない。その選択肢しか選べない。取捨選択するまでもない。道は一つしか用意されていないのだ。

 桃達はとにかく急いだ。廊下の一番奥、階段の踊り場の部分で、桃達は丁度降りてきた琴と合流した。

 琴は驚いた顔をしていたが、桃と菜奈は有無を言わせず琴の手を引いて、そして、脱出を目指した。

 菜奈が壁に向かって威力圧縮を込めた蹴りを叩き込んだ。菜奈の足を中心に、壁に蜘蛛の巣状の亀裂が入り、次の瞬間に砕けて散り、盛大に瓦礫が吹き飛んで道を切り開いた。二階部から下の広場が解放された。

 それと同時だった。

「逃げるのか。今更どうして遁走なんてすんだよ」

 声が聞こえた。首を僅かに向けて菜奈が見ると、桃の作り出した分厚い隙間ない壁が完全に消滅していた。そして、イザムが不満げな表情を浮かべて、数歩ずつゆっくりと向かってきていた。

 勝ち目はないか。菜奈は考えた。いや、勝ち目が全くないわけではない。威力圧縮だって悉く交わされているだけで、当たれば間違いなく一撃必殺となる。だが、交わされる。

 とりあえずは逃げる。

「菜奈ちゃん! 飛ぶよ!」

 桃は自然とそう叫んでいた。一瞬で脳が判断した。イザムに視線を奪われていた菜奈に一緒に逃げるんだよ、と叫んだ。つまり、既に信頼はしていた。桃に限定はされるが。

 桃と、桃に手を引かれた琴と、菜奈が二階から跳んだ。そのまま三人とも、無事に広場へと着地をして、僅かに痺れた足の痛みを耐えながら入口目掛けて駆けた。

 イザムが菜奈が壁に空けた穴から広場を見下ろす。三人は駆けて入口へと急いで向かっていた。

「なんだい。結局逃げるってか。……つまんねぇ事させるかよ」

 イザムは飛び降りた。そして琴達とは比べものにならない程に華麗に着地をして、そして、駆けた。

 イザムはこの時点で決めていた。

(千里眼以外は、この土地から出ても、一般人がいても、巻き込んでも、必ず仕留めてやろう。かくれんぼの次は鬼ごっこだ。さぁ、逃げ切ってみせろ)

 三人が入口から飛び出した――と同時だった。三人と、すれ違う三つの影が、あった。桃と菜奈はそれに驚いたが、琴は驚かなかった。ただ、すれ違うその瞬間に、気をつけて、とだけ忠告した。

「あ?」

 イザムの足は広場の中心で止まった。すれ違いで入ってきた三つの影を睨んだ。邪魔をするな、と表情に書いてある。

 入ってきたその影は、当然、琴が呼んでいた応援である。

 琴達は入口を出た少し先の人気の全くない街外れの道の脇で立ち止まった。荒れた呼吸を整える桃と菜奈を見て、琴が語る。

「三島君達を応援で呼んどいたの。私達も態勢を立て直したら加勢しに行く。イザムはここで仕留める。彼の超能力。物理的な、それも単純な戦闘用超能力だってのに危険過ぎる。三島君の班は能力否定の三島君だけでも、心強い。三島君ならイザムに触れる事が出来るからね。それに、『軌跡残留』と『硬質化』の二人がついてる。イザムとは相性がいいはずだからね。それに私は監視役だろうけど、桃ちゃんと菜奈ちゃんの戦闘力が追加されれば、きっとアイツがどんだけ強かろうが勝てる。それに、単純に六対一の形になるからね。数でも圧倒出来る」

 琴が言い切る。卑怯な手だとは心の隅で思っていた。だが、手段は択ばない。応援は当てにしていなかったが、来たならば当然応援を計算に入れて先を予測する。

「見覚えのある顔だ」

 三島はイザムを睨んでそう忌々し気に呟いた。脳裏には流が殺されたあの日の記憶が浮かんでいた。右目のタトゥーがやけに印象的だったのは覚えていた。

「そうか。俺はお前なんか見た事もねぇよ。俺の目標(ターゲット)は神威菜奈だ。邪魔すんなら殺すぞ。退け」

 イザムはそう言って、三島達を睨んだ。

 が、三島達が引くわけがない。イザムと戦いに来たのだ。そもそも身を引くという選択肢はない。戦うために、ここに来たのだ。

「生意気な口を叩くねぇ。ジェネシス幹部格だってのに、そんな言葉を吐くのは雑魚だって相場があるってわからないのかよ」

 そう言ってイザムにむかってゆっくり歩き出したのは三島の右隣にいた若い男だった。

 軌跡残留、秋山光輝あきやまこうき

「こっちはお前の超能力を把握した上で向かっているんだ。そこまで考えを巡らせた方が良いと忠告してやろう」

 そして、三島の左側にいた体格の良い男も歩き出した。

 硬質化、笹中劉生ささなかりゅうせい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ